前世不良の悪役令嬢、乙女ゲームをぶち壊す。

群青みどり/ビーズログ文庫

1-1


 だれもが目を引くような金色の長いかみが風でなびき、あらわになった耳にいくつものピアスをつけた少女は、目の前のじょうきょうに言葉を失っていた。


「なんでだよ……」


 彼女の名はおり。地元では有名なレディースの総長というかたきを持ち、その勢力を拡大している最中に事件は起きた。

 不定期で行われている集会の場に、香織のレディースチーム同様地元で名をせている暴走族がしゅうをかけてきたのだ。

 もともと香織のチームともいがみ合ってはいたが、性別のちがいもあってかこれまで直接しょうとつしたことはなかった。それにもかかわらず、最悪な形でぶつかることになってしまった。

 計画的に作戦が立てられたのだろう、香織の仲間たちはすきかれ、混乱におちいっていた。


「こいつら、きょうを!」

「総長! ここはいったん引いた方が……」


 このままでは相手の勢いにされて負けるのでは……とした仲間が香織に声をかけようとしたが、それはバイクのエンジン音によってかき消された。

 その正体は、奇襲をけてきた族の総長だった。


「おい! こんなことしてタダで済むと思ってんのか!?」


 バイクから降りてきた男の姿をかくにんするなり、香織はすぐにみついた。不意を突かれた上に、相手は男の集団。勝敗は目に見えていた。


「仕方ないだろ? 可愛かわいい彼女のたのみなんだ」

「彼女……?」


 すると、男の後ろに乗っていた少女が姿を見せ、香織にどうようが走った。


「なんで……もしかして裏切ったのか?」


 この少女は、香織のみぎうでとしてチームにこうけんしていた副総長だった。いつもチームのことを考え、香織と共に支えてくれた大事な仲間。しかし香織の気づかないうちに彼女はチームを裏切り、敵に情報を流していたのだ。


「香織、今の気分はどう?」


 少女はうれしそうに笑いながら、男とうでを組んだ。


「私は今すごく気分がいいの。だってあんたの絶望的な顔を拝めたんだから」

「正気か? 今までいっしょにチームを大きくしてきただろ!?」

「もう私にチームなんて必要ない! 香織がと一緒にいるのを見て決めたの……絶対に香織と彼のチームをつぶしてやるんだって」

「何言って……」

「今日で香織のチームは終わり。早く負けてくれない? これはまだ始まりに過ぎないんだから」


 少女はなぜか苦しそうに目になみだかべながらも、ふっとほほんだ。無理して笑っているようにも見えたが、香織が声をかける前に彼女は背を向けた。男がさけぶ。


「お前ら、とっととかたを付けろよ!」

「待っ……」


 香織は少女を引き留めようとしたが、それをはばむように敵の誰かが鉄パイプで香織の後頭部をなぐった。不意を突かれて香織はその場にたおれ込む。


「うっ……」

「総長!」


 殴られた部分は熱く、何かがドクドクと流れていく感覚がした。

 仲間が香織に向かって叫ぶが、その声が段々と遠くなる。


(なんでだよ……なんで)


 もう香織に起き上がる気力などなく、ただ仲間たちの叫ぶ声を最後に……彼女の意識はそこでえた。


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