PvP
——対戦。
そのワードを聞いて否応なしに闘志が沸き立つのは、ソマガでコイツらとずっと鎬を削って来たからか。
「俺が対戦を勧めるのは、三つの理由からだ」
三本指を立ててゼネは言葉を続ける。
「まず一つ、探索と遠征の二つに比べて参入までの敷居が低い。これらはレベルをカンストまで上げることが前提だが、対戦はレベル調整が入るのに加えてレギュレーションが設けられているおかげで、本格的に始められるようになるまでにそんなに時間をかけずに済む」
それなら始めたばかりの俺らでもトッププレイヤーに追いつきやすいか。
だとしても、流石にある程度の準備は必要になるだろうけど、他二つと比べれば遥かに少ない労力でいけると思われる。
「二つ目は、ソロ、チームでのランク戦がある他に、公式主催の大会や有志による対戦イベントが数多く開催されていることにある。それらに参加して成果を上げることができれば、俺達の存在を他に知らしめることができる。そこでソマガというゲームがあったことを大衆に示せれば、ティアの目的を果たせるはずだ」
大会に対戦イベントか……そういや、そういった類の事をやる度に毎回SNSでトレンドに上がってたな。
公式大会は言わずもがな、有志によるイベントでも、かなりの確率で有名実況者やら動画配信者やらプロゲーマーが参加するから、毎回視聴数が凄いことになってたらしい。
そんでもって大会が終わると、何故かソマガの人口がゴッソリ減ってたような気もする……というか、余裕で減ってた。
当時は現実逃避で理由を考えないようにしてたけど、間違いなく大会を機にサガノウンを始めて、そのままソマガに戻ってこなくなってたからだよな。
それにしても——、
「おお……なんつーか、思った以上に色々考えてんのな。もしかして元から対戦ガチること考えてた?」
「まあな。一応、候補の一つではあった。対戦は後発組の俺達が最も手っ取り早くトッププレイヤーと渡り合える要素だったからな。それが偶然、ティアがやりたい事と一致しただけだ」
「さっすがゼネくん! 頼りになる〜!」
「……ティア、お前はもっと先を見通して計画を立てる事を覚えろ」
嘆息を溢し、やれやれと肩を竦めるゼネ。
しかし、すぐに調子を戻し、説明を再開する。
「それで三つ目だが……これに関しては、他でもない俺達自身にある」
「……ん、わたし達自身?」
「そうだ。まず客観的な評価として、ソマガはこのゲーム完全下位互換だ。だが、そんなソマガでも唯一サガノウンに勝るとも劣らない要素があったはずだ」
「——なるほど、PvPか」
答えれば「その通りだ」ゼネは短く首肯する。
「俺達はサガノウンが発売される前から……いや、発売されてからも猛者達を相手に何千、何万と勝ち負けを積み重ねてきた。その経験は必ずこっちでも活きるはずだ。これら三つが、俺が対戦から始めるべきだと思う理由だ」
——何か異論はあるか?
ゼネの問いかけに俺もティアも首を横に振る。
特に否定するような理由が無いし、こっちの対戦環境がどんな感じなのか気になるしな。
「……よし、それなら今ある用事を全て済ませたら、アリーナに向かうぞ。まずはPvPがどんなものか実際に確かめてみる。それでいいな?」
「了解」
「りょうか〜い!」
俺とティアが声を揃えたところで、注文した品が運ばれてきた。
◇ ◇ ◇
PvPを行う為のアリーナは、各陣営の自治組織の施設内に造られている。
北陣営であれば、防衛戦線とハンター協会、あと未開領域探索機関それぞれの本部に一つずつあるようだ。
同一陣営内で複数箇所に点在しているのは、アクセスのしやすさを意識してのことだろうか。
何をするにしても、これらのどこかには足を運ぶことが多いからな。
俺らはこの三つの内、防衛基地本部にあるアリーナに訪れていた。
「ここがアリーナか」
体育館並みに広々とした空間のロビーの壁面には、学校の部室棟よろしく個室がずらりと並んでいる。
恐らくあの中に入って対戦の設定を行うようだ。
「わ、部屋の数すごいね〜。でも、なんでわざわざ個室を作ったんだろう?」
「さあな。大方、雰囲気作りとかそんなところだろう。ただ、中には大型のディスプレイが設置されていて、同じ部屋に入ったプレイヤーの対戦をリアルタイムで観戦したり、ログを取得して過去の対戦の閲覧が出来るらしい」
「へえ、人の対戦を観れんのか。ちょっとどんな感じなのか気になるな」
「確かに。じゃあ、アラヤ。試しに一回戦ってみてよ」
「そうだな……って、おい。そしたら俺見れねえじゃん」
ツッコめば、テヘッと舌を出すティア。
「代わりにティアが戦ってこいよ」
「え〜、わたしだって先に観戦してみたいんだけど」
そう言ってティアは唇を尖らせる。
隣ではゼネが見かねたようにため息をついていた。
「だったらデモンストレーションも兼ねて一回目は俺がやるぞ。それで良いな?」
「しょうがないな〜。記念すべき一戦目はゼネくんに譲るとするよ」
「仕方ない。対戦デビュー一番乗りの権利はゼネにやるよ」
「……なぜ上から目線なんだ」
苦々しく呟くゼネだったが、
「まあいい。とりあえずどこか適当に空いている部屋に入るぞ」
気を取り直して、近くの空き室に向かうのだった。
————————————
今更ですが、拙作はとある作品に強い影響を受けています。
対戦要素はまさにそれです。
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