◆汚した罪の末に

 つい先程、わたしは突然“前世”に目覚めた。


 ──いや、ヒかないで。電波でも中二病でもないから。


 「目覚めた」という表現が悪かったかな。

 お正月の初詣に行こうと着替えているとき、本当に唐突に脈絡もなく、前世の自分が“男”だったことを「思い出し」たんだ。


 と言っても、ラノベとかにありがちな「悪魔の化身」とか「覇王」とかそういうご大層なもんじゃなくて、前世もごく普通の一般庶民。

 いやまぁ、覚えている限りでは、庶民とは言ってもそこそこ裕福で、家の中にも使用人とかが何人かいて、「坊ちゃん」とか呼ばれているようなご身分ではあったけどさ。

 16歳での夭折で、死因は窓からの転落による事故死──という建前になっているけど、実はそれは「怒り狂った姉の若葉に突き飛ばされた」結果だから、殺されたといっても過言ではないだろう。


 まぁ、当時18歳だった姉上が怒るのも無理はなかったとは思う。

 ──先週買ったばかりのお気に入りのお洋服を、自分の弟が着て、自分の部屋のベッドの上でオナニーして、あまつさえ精液で汚していたんだから。


 姉上は、パッと見は凛とした雰囲気をまとった大和撫子風の美人(たとえるならア●レンの方の高雄さんかな)で、文武両道の才媛だったけど、こと性的なことにはてんで免疫がなくて、割と潔癖症なトコロがあったし。

 実の弟が女装していただけでも「この軟弱者!」と叱咤されただろうに、自分(姉)の服を着て、自慰して、さらにザーメンべっとりだもん。悪い意味での数え役満だよなぁ。


 それに普段はそれなりに仲の良い姉弟だったから、「怒り」はあっても「殺意」まではなかった、と思う。だからアレは、やっぱり「事故」で合ってるんだろう──清彦だった「僕」が、そう信じたいだけかもしれないけど。


 そして思い返してみれば、あの時、「僕」が無断で借りた姉上の一張羅と、さっきわたしが着替えて、何の気なしに鏡に映してみた服は、デザイン的によく似ている気がする──ああ、だから“思い出した”のかも。


 オタク界隈では「童貞を殺す服」とか言うんだっけ? ボタン周りにフリルの飾りがついた白いブラウスと、ハイウェストで紺色のロングスカート。足元はデニール数多めの黒いストッキング、いわゆる“黒スト”。


 いまの女の子(と言っても、もうじき18歳だけど)になった身からすると、単に普通に「可愛くてちょっと清楚っぽい服」なだけなんだけど、甦った“男”の感性からすると──うん、確かに鏡を見てると少なからずクるものがあるかな。

 「童貞を殺す服」なる命名にも納得。実際に、「僕」はこれ着たせいで死んじゃったしね、ハハハハ!


 まぁ、ブラックジョークはさておき。

 いまのわたしの頭の中には、元々の「17歳の女子高生」(微腐女子風味)の感性と、前世を思い出したことによる「ちょっと女装願望があるけど一応16歳の男子高校生の僕」としての感性が、混じり合って存在している。

 おかげで、世の健全な少年が心の奥底で抱く、色々とフェティッシュなシュミにも、だいぶ寛容になれそうだ。


 ──だから、キチンと洗濯してしまってあったはずのこの服に、“誰か”が袖を通したような形跡があるとしても、ふたばお姉ちゃんは(前世の若葉みたく)怒らず、寛大に許してあげようじゃないか。

 ねぇ、2歳年下の、女装したら男の娘待ったなしの美少年な弟の俊明クン?


 ただし!

 罰として春のイベントではわたしといっしょにコスプレすること!

 ああ、もちろん女性キャラだよ。そうだなぁ、最初は露出度が低めのメイド服あたりがいいかもね♪

 いや~、今から楽しみ……って、なに嬉しそうな顔してんの? も~、これじゃあ、罰にならないじゃない!


 (わたしたちは、姉上──若葉おばぁちゃんの孫なんで、間接的に「僕」と血が繋がってるもんなぁ。やっぱり血は争えないってことなのかもネ♪)


 そんなコトを考えつつ、頭の中では俊明おとうとに似合いそうなメイド服のデザインを色々想像しているわたしなのでした。


-おしまい-

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