第21話

「じーさん!俺、ここから出て大丈夫なんだよな?

 俺たちの世界への穴って、これなんだよな?」


「うむ。そこで間違いない。

 ほれ、もう行くがいい。おぬしの友達が、そこでまだ待っておるぞ」


「あっ、うん。でもちょっと聞いてほしいんだけどさ。

 なあ、じーさん。言っちゃえば俺って、やっかい者だったんだよな。

 どうして俺に、よくしてくれたんだ?管理するってだけなら、その、すぐにでも俺を」


「皆まで言うな。そうだな、遠い過去の、友に呼ばれた気がしたのだ」



―――――――――――――――――――――――――――


「友、ね。はいはい」


どうかしたのか?


「いえ、別に。貴方には関係のないことです」


相変わらず、変なやつ。


「ところで。貴方は私に何か、言わないのですか?」


何か、って?


「ほら、挨拶とか、お礼とか。あそこでもやっているでしょう?」


お礼?何の礼だ。


「え。いや、ここまで来ることが出来たのって、私のおかげですよね?」


僕のカズへの想いが強かったから、って誰かは言っていたと思うけど。


「でも、その後は私が背中を押してあげたじゃないですか」


それに関するお礼は、その時に言ったと思うけど。

 

「ぐぐ、そういう問題じゃないでしょう。最後に、改めてもう一度、感謝というのは述べるものです」


「そう。ま、一応感謝しておくよ」


「ぐぎぎ、いえ、もう慣れました、その態度。

 それより、私はもう行きますから」


行く?どこにだ。


「私は、この中に用があるのです。貴方より、ずっと前からね」


まさかお前、僕を利用していたのか?


「さあ、分かりません。でもそんなこと、貴方にとってはどうでもいいことでしょう?

 貴方の願いは叶った。これで十分なのですから」


それもそうだな。じゃあ、これでお別れだ。


「あ、勘違いしないで下さいね。

 これからも、私は貴方達を見守っていきます。

 私はきっと、貴方やカズ君よりは長生きしますので。

 その死に様まで、たっぷりと見てやりますから」


「ふーん、そう。がんばってね」


「あ、最後までかわいくない」











―――――――――――――――――――――――――――



「なんかよくわかんねーけど。俺さ、ここでじーさんと会えて、よかったよ。

 こうしてみると、短い間だったけど、すげー楽しかったよ」

       

「うむ、儂も同感だ。さあ、もう行きなさい。

 あの穴も、そう長くは開いてられん」


「あっ、ゴメンじーさん!管理ができなくなるんだったな」


「いや、それについては、もう良い。

 どうやら、例の友が気を利かせて、管理への影響を限りなく少なく出来る穴をつくってくれたようだからな。

 もう気にするな。儂の方こそ、色々面倒を掛けたな。すまなかった」


「ううん。今までありがとう、じーさん」


「うむ。いや待て、忘れ物があるぞ」


「忘れ物?あっ、ユッキーから借りたウェア!それにリュックも!そういやどこいったんだって探してて、聞きそびれててさ」


「王の命令で、わたしが預かっていたダス」


「あっ、おっさん!もしかしておっさんがずっと持っててくれたのか?ありがとな!」


「礼には及ばないダス。わたしは、王の命令に従っていただけダス」


「そんなこと、関係ないだろ?誰かの命令でもなんでも、

 これを大切に持っててくれた、おっさんに感謝したいんだ。

 本当にありがとう!」


あれ?おっさん、何も言わないな。いつも淡泊な感じだったけどさ。

って、何かおっさん、いつもより顔が赤くなってるような。気のせいかな。


「さあ、もう本当に時間が無い。早く行くのだ」


あっ、やべー!これでもし穴が塞がったらシャレになってねー。

あいつも待ってるし、もう行かなきゃな。




「なあ、俺たちきっと、また会えるよな?」


じーさんが目を丸くしてる。なんか変なこと言ったかな、俺。


「ああ、ああ。儂らが願えば、いずれまた会える。必ずな!」


俺はじーさんの言葉を聞きとどけた後、海の向こうのユッキーに手をふれた。








「カズ、おかえり」

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