第4話

 いってて、ユッキーのヤツ、いきなり何か色々落としてくるから頭にぶつかったじゃんか。

暗くってあまりよく見えないけど、アメとかラムネとかゼリー系の飲み物みたいだな。他にいくつもあるっぽい。

俺も非常食くらい持ってきてるってのに。ビスケットばっかだけど。それよりあいつ、自分の分は大丈夫なのかよ?

急がなくていいぞって言ったのに、何でいつもああそそっかしいんだ。


にしても、せっかくふたりでハイキングにきたのに、とんだ道くさを食っちまったよ。

それにさっきから、なんか水しぶきが顔に当たる。外は雨が降っているみたいだ。このままここにいると風邪ひくかも。

少しずつ目が慣れてきたのか、暗闇でもあたりをちょっと見渡せるようになったし、雨が当たらない位置に移動するか。

今気付いたけど、穴の中は思ったよりだいぶ広そうだ。

スペースがあるし、右膝がまだ痛いから、リュックに入ってる救急セットで応急処置してみようかと思ったけど、クソ、右手が思うように動かなくてファスナーが開けづらい。左手はまだ動くから、何とか開けることはできたけど、やっぱり暗いし中身を取り出すのは面倒だからやめるか。


こんなとき、あいつなら手際よくやれるんだろうな。昔、体育の授業中に転んで、落ちてた木の破片で太ももを切って泣いてた俺に、真っ先に駆け寄ってくれたのもあいつだった。

すぐ肩を貸してくれて、水道の水で傷を洗い流して、俺を保健室までつれてってくれた。

保健室の先生は傷に消毒しようとしてたけど、ユッキーはそんなことしたら余計に傷が悪くなるって言って、先生がムッとしていたのをよく覚えてる。たしか結局、ケガは消毒で処置されたような気がする。



そうだ、ケガしたらすぐにキレイな水で洗えってユッキーは言ってたっけ。ヘタにややこしいことするくらいなら、それだけの方がマシだって。

でもこの状況じゃ、処置はやっぱり難しいか。


あ。そういや、今身につけてる腕時計に、ライト機能があるのを忘れてた。

ちょっと痛いけど、動かない右手の親指をむりやりスイッチに押しつけ、何とかライトをつけられた。

あたりを照らせるほどの光じゃないけど、近くのものを見るくらいはできるな。


腕時計のハリが指す時刻は、二時ちょっと。

たぶん、まだまだユッキーは戻ってこないだろうな。

最初は大したケガじゃなくても、悪化して取り返しがつかなくなることもあるって言ってたし、俺は傷口の位置をライトで確認してから、首にさげてたペットボトルの水を足にかけた。もう水は、ほとんど空っぽだ。

くちつけた水だけど、大丈夫だよな?十分キレイだろ。俺虫歯ないし。



 周りの気温が下がってきて、体もだんだん冷えてきた。

池でコハクチョウを眺めていたときと比べると、まるで冬みたいな寒さだ。

ユッキーが貸してくれたウェアは、右膝部分以外もあちこち破れてるっぽくて、体の色んなとこがスースーしてる。

でも、家から出たときの格好に比べればマシか。最初半そでだったもんな、俺。

本当ならもっと寒い思いをしていたのかと思うと、ちょっと体が温まった気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る