第9話 ヤマハ・ビーノ(代車)のお話

 こうして僕はリトルカブをバイク屋さんに預け、代わりに2時間程度の相棒としてヤマハのビーノというバイクをお借りした。


 一言で言えばこのビーノは「女性向けのおしゃれな原付スクーター」だった。全体的に丸みを帯びたデザインで、ボディカラーも茶色をベースにクリーム色のアクセントが効いている。リトルカブも似たようなコンセプトの造りだと言えたが、更にその上を行っている感じ。


 走り出してすぐの感覚は、リトルカブとそれほど大きな差はなかった。ただし、無段階変速でスムーズに加速していく辺りは全然違う。楽と言えば楽だが、一方でカブ系の原付のように自分でギアを変えていく楽しみは無い。


 大きなシートは座り心地が良く、こちらも快適だった。よくよく見ればシートの下にヘルメットを収納するスペースがあって、走っている間はここが物入れのスペースにもなる。本当によく出来ている。


 方向指示器のスイッチはハンドルの左側、リトルカブとは逆。もっともこれは、リトルカブが「右手だけでバイクの基本操作ができるように設計されている」からであって、一般的なバイクは左側に方向指示器のスイッチがあるものらしい。最初は戸惑ったが、すぐに慣れた。


 ハンドルと言えば、グリップ部分が樽形(グリップの真ん中部分が膨らんでいる)だった。リトルカブのグリップはストレートタイプで、樽形グリップは疲れにくいなどと聞いたが、なるほどこれはこれでアリだと思う。


 エンジンパワーは――最初はリトルカブとどっこいどっこいかと思っていたが、アクセルを全開にすると結構なスピードが出る。


 それもそのはず、インターネットで調べてみるとビーノはリトルカブよりも馬力があった。それでも、学生時代に乗っていた2ストロークエンジンの原付スクーターの半分強程度だったことには少し驚いたが。昔はそんなことなど気にせずに乗っていたが、あの頃の原付スクーターはパワーがあったんだなぁ。


 盗難抑止のため、キーシリンダーのシャッターが閉まるようになっていたのには少し驚いた。うっかりシャッターを閉めてしまい、最初は開け方が分からずに焦ったのだが、すぐに開け方(キーシリンダーの脇にもう一つ、シャッターを開けるためのキーの穴があった)が分かったので助かった。


 あと、リトルカブは大きなウインドスクリーンを装備しているのだが、このビーノにはそれが無かった。そもそも無いのが普通の装備なのだが、このウインドスクリーンの効果も実感出来た。


 というのも、リトルカブに乗っている時にはフルフェイスのヘルメットのバイザーを開けて走ることがちょくちょくある(暑かったり、バイザーの細かい傷のせいで特に夜間の視界が悪かったりするため)のだが、ウインドスクリーンのおかげで細かいゴミやら虫やらの影響を受けることはほとんどなかった。


 その感覚でビーノに乗り、ヘルメットのバイザーを開けて走ると、結構モロに風の影響を受ける。その善し悪しは別として、リトルカブのウインドスクリーンの効果はかなり大きなもののようだった。


 さて、そろそろ結論に入るが、都合30分ほど運転させてもらったビーノの感想は「これはこれで全然あり」だった。なかなかに古いバイクだったが、見かけによらず結構よく走って、リトルカブとはまた違う魅力があるように思えた。


 こんなことをあれこれと考える辺り、やはり僕はバイクという乗り物に相応の興味があるらしい。

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