第29話 クリスマスダンス

 季節はもう秋も終わり。11月に入ったある日、校舎の中庭に植えられている大きなもみの木のに庭師の作業員が集まって、枝木の剪定作業をしているのが見えた。来月のクリスマスへ向けて庭の片付けとツリーの飾り付け準備を行っているのだ。


「なんだかんだ、一年もあっという間だったね。」

傍らでランチのサンドイッチを頬張りながら、初音ちゃんが言った。


「ねえみんなはもう知っている。学園では毎年クリスマスの夜に、全校生徒やその親御さんが集まって、盛大な夜会パーティーを開催するの。」


 元々ミッション系だったこの学園では創立当初から、毎年ツリーを飾って盛大にクリスマスを祝うことが恒例行事となっているらしい。


「私も部活動の先輩に聞いたよ。各学年ごとに催し物を披露する決まりになっているんだけど、一年生は例年全員で“ワルツ”を踊るの。」


「ワルツ?」思わず私は聞き返した。


「そうそう、ほら夏休み明けぐらいに体育でワルツを踊る授業があったじゃない。それをクリスマスに披露するんだって。」


「ワルツの踊り方なんて、そんな昔のこともう忘れちゃったよ。」


 体育会系だけどダンスが苦手だった桜子ちゃんは頭を抱えたが、当時授業でトップの成績を誇っていたまみやちゃんは自信ありげに微笑んでいた。


「それに、私たち特待生クラスはICクラスと合同で、踊るペアも、ICクラスと特待生の組み合わせで踊るんだってさ。」そばで聞いていた初音ちゃんも付け足した。


「みんなの前で絶対に恥かけないじゃん。」


「まあ、それは素敵ですわ。かれんちゃんもお相手選びに余念がありませんわね。」  

 まみやちゃんは意味ありげな視線を向けた。私は苦笑いした。


 この前の一軒があって以来、まみやちゃんは何かについて、王子との関係を探ったり、そそのかしたりすることが多くなってしまっていた。


「でも注意ね、ペア決めは授業の時と同様にくじ引きで決まるから、事前に個人個人でペアを作るのはNG。余ってしまった人がもしいたらかわいそうでしょ。」


「そうなんですのね。」まみやちゃんは少しがっかりしていたが、私はほっとしていた。


 彼とダンスを踊る機会は以前にもあった。それもものすっごいロマンチックなシチュエーションで。だから私としてはもう十分なんだけれど、心惹かれないといえば嘘になる。


 数日後、音楽の時間でいよいよダンスの本格レッスンがスタートした。初日はまずペア決めが行われる。私たち4人は期待と緊張が入り混じって教室へと足を踏み入れたけれど、クラスの中はすでに色めきだった生徒たちでごった返していた。教室を見渡してみると、まだ王子は来ていないようだった。彼はいつもは早めに教室についていて、クラスで待ち構えていた取り巻き女子たちの相手をしていることが多いのに。

不思議に思いながらも自分も席に着くと、後ろからぽんと肩をたたかれた。


「よう、かれん。今日は愛しのご主人様がいなくて寂しいだろう。」

 ブラッドは何か企んでいるような笑みを浮かべて私の前に立ちはだかっている。


「あいつはこない。これからもずっと。残念だったな。」


「どういうこと。」この勝ち誇った顔を見る限り、私に何かよくないことが起こっていると確信した。


「すぐにわかるさ。じゃあ、後でな。」


 彼はそういって立ち去った。そのあとすぐに先生が入ってきたのでそれ以上の話はできなかったけど。教壇についた先生が説明をし始めると、彼の言った意味はすぐにわかった。


「神咲さんは一身上の理由で今回のクリスマス会には参加しません。よって今回の社交ダンスのペア決めにも参加せずに見学とします。人数が合わなくなる彼の代わりとして、ICクラス2年ダンス部員のレイガー君がメンバーに加わり、女子のペアとして参加していただきます。」


 クラスからどよめきが上がった。取り巻き女子を含めて、それだけ彼のペアに期待していた生徒が多いことがうかがえる。


「そんな。先生、一身上の都合って具体的に何ですか。」


「私たち、納得できません。」女子たちの必死の抵抗が始まった。


「彼は、宗教上の都合でと聞いています。」先生は付け足した。


 確かに、王子はハロウィーンの際もなんだか元気がなかった。

「それでは、ペア決めのくじ引きを行いますから、特待生の生徒から順番に前に来て、この箱の中から紙を一枚ずつ取って席に戻ること。女子は赤い箱、男子は黒です」


 呼ばれた私たちは一人ずつ箱の中の用紙を選んで戻っていく。紙には数字が書いてあって、私の数字は15番だった。


「続いて、ICクラスの皆さん、同じようにしてもう一個の箱から一枚づつ紙を選んでください。同じ番号が書かれた生徒同士が、今回のダンスのペアとなります。」

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