三十路のドラマはこんなもん

@tahitahi

第1話 三十路 変わりたい

大柴 咲 三十三歳 独身 職業フリーター

最終学歴は定時制の高校。

いわゆる残念ルート。

卒業後はフリーターとして数々のアルバイトを経験してきた。


特に夢などなく、今後の展望など考えない。

恋愛も人並みに経験した。

結婚して家庭を持ち、子を授かり穏やかに暮らす。

そんな人生も想像したが、

そうじゃない人生でも別にいい。

複数の選択肢、未来の中で

いつも選ぶのは、手短にある最短の平穏。


浮き沈みなく、ぼーっと楽に生きていく。

それで何か悪いのか。


いや、別に悪くないだろう。

人とは、さして他人の人生など興味ないのだから。


でも、ふと思う。

私は私の人生に本当の意味で興味を持ったことがあっただろか。

最低限で良いんだ。生きているだけでいいんだ。

いつからこの暗示を自分にかけたんだっけか。


そう思った時

私のなかで、ふたをしていた何かがはじけた気がした。


退屈ってなんだっけ?

平穏ってなんだっけ?

いつもなるべく現実を見ないようにしていたら、

いつの間にか、当たり前なものが見えなくなっていた。


ああ、もう三十過ぎ。

こんな年になって初めて、このままが嫌だと思った。


そう思い始めたら、

日々の仕事ですら、嫌なものが浮き彫りになる。


客の自己中心的な願望の押し付け、同僚からの仕事の押し付け。

仕事は他人に任せっきりで、決断のできない上司。

意味不明な暴言や意見でも、真摯に聞いているふり。

接客とはそんなものだと、いつからか冷め切ってた。

相手のあら捜しをしては、陰で笑っている。

そんな環境が当たり前になじんで、沁みついて、同調していた。


お金をもらえるならなんでもいいかで済ませられたはずの、些細な怒りや憤りが

どんどんあふれて止まらない。


お金をもらっているんだから、笑顔で受け流すんだ。

職場環境を円滑にするには、協調性が大事なんだ。

やめたら関わることもないのだから、適当に笑って受け流しとけばいい。


良い人でいる方が穏やかに過ごせるだろうと、一生懸命を演出して、人の嫌がる仕事を率先してやるようにした。

人の輪に長居したくないから、人一倍動いてた。

みんな大柴さんはよく仕事するねって言うけど、その輪の中にいるのが慣れなかっただけ。


心穏やかに、最短の平穏を探って生きてきたけど、

それは、ぐるぐると同じところをずっと回るようなものだ。

何をしているのか、わからなくなった。


変えたい。

自分を変えたい。


何度仕事を変えようとも、関わる人を変えようとも

人の嫌なところばかり見てしまう自分を。

人に嫌な気持ちを抱いてしまう自分を。

見ないようにふたをしていただけで、降り積もっていた影。


職場の人や環境が悪いんじゃない。

私の心が受け入れるか否かだったんじゃないか。

そんな簡単なことに、いまさら気づいてしまった。


人生を変えたい。


高校卒業と同時に家を出て、そこからずっとフリーターとして働いてきた。

日々生きていくのに最低限稼げるだけの仕事。

夢なんか思いつかない。お金のかかる努力はしたくない。

欲張らなければ、幸せでいられる。

最低限でも、充分幸せなんだ。


違う。そうじゃない。

それは、やる前からあきらめてるだけじゃないのか。

こんな自分でいいは、幸せではない。

こんな自分がいいが、幸せなんじゃないか。


そんな人生を私も歩んでみたいと、思ってしまった。

きっかけなんてない。ただ微かに気づいてしまっただけ。

私は私の人生に本当に興味を持っていたのかなって。


だから、少しづつでも、例え亀並みの歩みでも。

変わっていこう。


子供のころ、友達に『咲は、急にいなくなってしまいそうな、雲みたいに見えるけどつかめないような、そんな感じだよね』って言われたのを思い出した。

ひょうひょうと生きてきた。ずっと地に足がついてないような感覚だったのかもしれない。



結婚していない私にとって、仕事は切れないものだ。

仕事の質は、人生に大いに影響する。

当たり前だけど、気づいてなかった。

違うな、気づいていても、後回しにしてきたのか。




『よし、面白いと思える仕事をさがそう!』



























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