第2話 乙女の心臓は海に

 乙女の心臓は海に沈んだ。真っ白な絹に包んで、夜空のような青の瓶に入れて、私が沈めた。

 これで乙女はもう恋をできない。


私はもはや帰ることは諦めた。街行きの市電は朝まで出ない。金属の椅子に寝そべりながら、闇に沈む海を眺めた。

今日は帰らない。明日も帰らないと思う。帰れないのだから。


この夜唯一の光を湛えながら、市電がホームに止まった。一両編成のその電車は、儚く美しかった。私は無意識に電車に飛び乗っていた。


乙女が座って文庫本を読んでいた。

悲しいような、怒ったような表情をしていた。私のせいだ。

そんな私達を乗せ、電車は走り出した。


そこで私ははたと気づいた。

これは夢だと。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る