忘れられないあの経験、あの部活...おぇェェェ

Salmonざんまい

部活って面倒いと思ってた時期が僕にもありました。(なんなら今も思っています。)

 ”部活は嫌い”だ......。いや、”部活は面倒”だ...じゃなきゃ今の俺がいない、うん。


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 「」このことについて書けば余裕で卒業文集並みになる自信がある。中学校の部活動での経験を経て、それが富岡颯太とみおかそうたの脳みそで達した結論であった。


               〜1年生〜


 元々走るのが得意で、小学生の頃、学校のリレーに選ばれた経験がある颯太は中学に入って部活動体験が始まるなり餌に飢えた犬の如く真っ先に陸上部へと向かった。そこでは2,3年生の先輩が部活の練習で頑張って走っている。普通2,3年が頑張っている姿を見ると「かっこいい」とか思うのかもしれないが、颯太は「走っているなぁ」くらいにしか思っていなかった。


 ただ「この部活で輝いてゆくゆくはリレーに選ばれるんだ!」そういった”目標”が颯太の中には常にはあった。





      いや”目標”ではなくそれは”確定”しているものだった。




 


 部活が本格的に始まり、一年生の中で最初の100mの計測タイムが行われた。

 颯太の学校は規模が大きく全校生徒が多い。そのこともあり陸上部は人が多く、男子の1年生だけで20人もいる程だった。


 同じ小学校の友達もいるが、まだ知らない人も多く”誰がどれくらい速いのか”は分からない。


 タイムを計測したが予想通り、結果は1年生男子の中で「上」くらいにいた。


 周りの2年生からは「速いね」と言われながらも”表”では「いやいや、そんなですよ...」と謙遜してみせた。でも、


 『分かっていた。理解していた。知っていた。そうだとも。そうに決まっている。そうでなくちゃいけない。俺は速い。他の人達よりも速い。他の人よりも自分は優位な位置にいるんだ。』


 俺よりも遅い人がいる。その時点で悦だった。


 初の大会でスタートラインに立つ。俺はいける大丈夫。目に映る景色が全て輝いて見えた。


 しかしだ、愉悦に浸っていたからだろうか、慢心していたからだろうか、俺は時間がたつにつれて、

 他の人にどんどんと先を越されてしまっていた。




『何故だ...』

『いや俺は別に部活をサボっている訳では無い』

『なんなら他の人よりも頑張っている自覚は少なからずある』

『顧問にも部活を頑張っていると褒められたし』

『だが他の人よりも足が速くなることはない...』

『まぁたしかに理由は考えられる』

『他の人と比べて明らかに自主練はしていない』

『でもそれだけが理由か...?』

『みんながダルいと思っている部活の筋トレも走り込みも”俺は”ちゃんとやっている』

『何故だ...何故なんだ......』

『何故...何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故なんだ...』














              「…悔しいなぁ」 





















                〜2年生〜




『何故だろう...自主練はしなかった。いや、したくなかった。もししたら負けたように気分になってしまうと感じた。何故だろう。』


『もしだ...もし俺が自主練をせず、部活だけを頑張って俺よりも上にいる人を抜かせたら...。』


それは馬鹿げた考えだった。俺自身も何故こういう考えに行き着いたのかよく分からない。


『固定ピンのスパイクに対して取り替え式のスパイクで勝てたら...。』

『足を痛めた気がする...でも俺のようなが病院に行くのはどうなのか?』


馬鹿げている。でも信じた。いつか、いつか報われると。


 100m走で12秒前半、11秒台になる友達が増えていく。しかもそれは100mが専門の友達ではないもどんどんと達成していった。


 俺はいまだ12秒後半だ。

 しかも何が馬鹿げているって。この頃になると部活をサボりだす人も増えてゆく。抜いて走ったりする人。部活に来るが本気で練習していない人。でもその人達にも負けてしまう。


 

 スタートブロックにも慣れてき、慣れた手付きで大会に望む。今度こそだ、今度こそを越すんだ。














 


 表には出さない。ただ思っているだけ。

 憎悪を嫌悪を厭忌えんき厭悪えんおを。















 3年生も引退し2年性が主体となっていった。

俺は部活を頑張っていたからか顧問からリーダーに選ばれ部活を引っ張っるようになった。しかし、相変わらず足は多少速くなったものの他の人より比べると遅かった。2年生の中でリレーを選ぶときも選ばれず、ただがむしゃらに部活を頑張る日は続いた。


 その頃からだろうか、部活がダルくなってきた。走るのはもとから好きだ。なんなら今でも走ることは好きである。ただ、「部活が長い」「顧問が苦手」これがとにかく嫌だった。部活の日数の上限も学校で決められているはずだがそれを易易と無視し、顧問も理不尽に物事を考えている。酷いときには他の部活は休みなのに陸上部だけあるといった異質ぶりだ。顧問...まさに鬼。RPGのラスボスに出ても不思議ではない。とにかく嫌だった。


 部活を頑張っても長くなるのは普通に嫌だ。面倒いし。


 そして、これまでただ「俺自信」のために頑張ってた部活が、顧問の影響でか気がつけば「怒られないようにするため」に変わっていた。



 こう思えていくうちに「部活はダルいが顧問に怒られないよう頑張らなきゃ」と考えるようになりダルくなりながらも頑張って部活をするようになった。


 




                〜3年生〜



 遂に俺はリレーに選ばれた。家族も良かったねと喜んでいた。実際に俺も嬉しかった。でも違う。


俺が選ばれたのはBだった。Aではない。


 しかも俺が競っていたのは3年生ではない。2年生だ。その事実がまた更に悔しさを大きくしていった。カスみたいな考えだ。


 部活もカスだ。顧問はいつも理不尽に怒る。いつも奴の態度を気にしなくちゃいけない。疲れる。部活もありすぎる。なんで8日連続でやろうとする?疲れる。


顧問もピリピリしており、リレーの練習の最中でミスをしてしまうと顧問の顔を被った般若の如く飛んできて怒られる。それが何よりも恐ろしかった。怖かった。辞めたいと思うときさえあった。


しかしだ、


 「引退するまでには11秒を出したい。」


他のリレーBのメンバーが11秒台を出している中、部活を嫌で面倒くさくなりながらもそれは俺の目標になった。


 中学での部活最後の目標だ。この時期になると中2の頃に考えてた考えも無くなり自主練をし、スパイクも新しいやつにし始めた。


「最近富岡頑張ってるなぁ」


「はいっ、ありがとうございます」


嫌いじゃない方の顧問からも頑張っていると言われ更にやる気が出る。


この調子でリレーも100mも頑張るぞ!


自信に溢れ大会に望みスタートラインに立つ。きっと出来る。俺は出来るんだ!


とにかく集中した。3年生で受験勉強もあるが今はそんなことどうでも良い。


ただ、ひたすらに、がむしゃらに、前を向き、1,2年で思った考えを捨て去り、努力した。集中した。頑張った。その結果...




































 11秒台になることは出来なかった。




































「クソが...」




































                〜高校生〜


 個人的にはリレーは最後まで上手くやり通せた。悔いはない。しかし100mで11秒台を出せなかったことはあまりにも精神に深く刺さった。


 志望校にも無事合格し見事な高校デビュー(?)を果たしたはずだ。だが物足りないものがある。何だろう...。


 部活にはもちろん加入していない。


 中学での部活を経て考えたのだ。

「部活はいるだけ損」「楽に生きよう」


相変わらず走るのは好きだが、それは暇な時間に好きなときにやればいい。


誰にも縛られず、誰からも文句を言われない。なんて素晴らしいんだ。


クラスで”西野”という友達も出来、毎日が充実していた。



ある日の昼休み、西野と飯を食いながら、


「なんで颯太って陸上部入らなかったの?足、クラスで1番速いのに。ってかもう陸上部入れよ、待ってろ、今俺が紙持ってくるから。」


「待て待て待て。入らねぇよ部活面倒いし大変だし。」


「んだよ、怠惰の化身じゃねぇか。つまんねぇの。絶対入ったら活躍するのに。」


「現実はそう甘くないんですぅ。」


 そう”現実は甘くない”。努力しても身にならないものはある。それは誰よりも理解している。


 そう心のなかで思い続けた。


 


 部活がない生活は望んだとおりの素晴らしい生活だった。何にも縛られることはない。全てが自由だ。自由にやれる。やれるんだ!


 そして、相変わらず走るのは好きだったので、高校の近くにある競技場で暇な日にはよくそこで走ったりしている。


「やっぱり走るのは気持ちがいいなぁ」

 それだけで満足だ。


 学校が終わる。


 走る。


 友達と喋りながら下校する。


 走る。


 部活をする。


 走る。


 中学の時と比べ時間が余りに余るようになったので色んなやりたい事に手を出した。


 絵を描いてみる。


 アニメを見まくる。

 

 アルバイトをしてみる。


 美味しいコンビニ食品を探してみたりする。


 もちろん勉強も忘れずに...とはいかなかった。



 ゲームをする。


 走る。


 アルバイトをする。


 走る。


 アニメを見まくる


 走る。


 勉強...はせずにゲームをする。


 アルバイトをする。


 友達とカラオケに行って遊ぶ。


 走る。


 部活のない生活。それは俺自信が望んだはずだ。

 しかし何かが足りなかった。その何かに気づくことなく月日は経ってゆく。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 体育祭や文化祭も終わりクラスの人ともだいぶ打ち解けるようになったある日。



「お前、陸上部入らね?」



 話しかけてきたそいつはこの前の体育祭でともにリレーのアンカーで競い合った陸上部の吉田だ。


「え〜陸上部?」


 あまり気乗りがしなかった。なんなら吉田にはリレーで負けていて、それが少し悔しかったので表には出さなくとも少しだけそっけない態度をとった。


「ごめんね。部活は入らないって決めてるs」


「ってかもう陸上部入れよ、待ってろ、今俺が紙持ってくるから。」


「待て待て待て。なんか凄い既視感があるんだが?」


「? なんのことだよ。まぁそんなことどうでも良いわ...なんで入らないの?」


「…面倒かったから。」


 話すのがダルくなったのでこの話はもうおしまい、とでも言うようにそれだけを言い残して離れようと背を向けた。

 

 「まぁ確かに部活ってダルいよなぁ。実際俺もダルくて何度かサボっているし。」


 「…やっぱそう思う?」

 

 向けた背を再び前に戻し俺は吉田に言った。


 「ああぁ勿論勿論。なんなら今も思っている」

 

 「なんで部活続けているんだ?」


 強くうなずいている吉田に俺は質問する。


 「だってやり続けて結果残せたら楽しいじゃん」


 「…もしだ。もしも思っていた結果を残すことが出来ず、失敗して何の成果も得られず、ただ無価値に無意味に終わってしまったらどうするんだ?」


 「まだ終わってねぇだろ」


 「……」


 力強い言葉だった。


 「…たしかに、な」

 

 「どこかのバスケの先生も言ってた気がするが、結果が残せないんだったら続ければいいと俺は思う。たしかに『もうやだ』と思うときも中学であった。だけど諦めなかったから今の俺がいる。これは俺の中の信念の一つだ。……なんか言ってて恥ずいな」


 ちょっと照れた顔になりながらも吉田は続けた。


 「あと多少人によって考えは異なると思うけど、成果が得られなくても無意味ではないと思うよ。無価値かどうかはそいつ次第だけどな」


 「なんでそう思う」


 「なんでって、その経験があって次の自分がいるんだろ?だったらそれには意味があったってことだろ」


 「……」


 それは俺を肯定してるということだろうか?


 「まぁ本人の自由だけどやれるならやるだけやってみれば?俺はそう思うよ」


 「…ちょっと考えさして」


 そう言って俺は吉田と別れた。

 

 1人、廊下を歩きながら考える。

『これまでの自由時間を部活で制限されることになるんだぞ。いいのか?』

 走るのは楽しい。これはもうずっと思ってきてることだ。部活なんているだけ損。俺1人でやって上達すればそれでいいだろ。たしかにそうだ。だがどうだろ。前々からしこりのように心にあったこのモヤッとした気持ちは。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「よっ」


 久しぶりに陸上部のときの友だちと会った。


 そいつとは趣味が同じだったので中学の頃から遊んでいたが、高校に入ってからはあまり遊んでおらず久しぶりだ。

 

 いつものたわいもない会話。


 その友達は高校でも陸上部に入部しており会話は陸上の話になってきた。


 「ーーーーーーーーーーー」


 どうやら他のやつらも陸上部に入ったらしい。別々の高校に入った今でも大会でたまに合うそうだ。


 「ーーーーーーーーーーーーーなー」


 大会の記録を見せてもらった。そいつは俺と同じ12秒台で中学の部活を終えたが、もう少しで11秒台を超せそうだ。


 「ーーーーなぁ、おい」


 「うん?どうしたよ」


 少し不満そうな顔で俺を見ていた。


 「聞いてるか?なんかちょっと上の空みたいな感じだったぞ」


 「えっうそ。マジ?ごめんな」


 「悩み事か?どしたん話聞こか?」


 「キモいキモいキモいキモい」


 そっと距離を離しながら静かに呟いた。


 「俺陸上部入ってないじゃん」


 「おう。そうだな」


 「それで...もう一回陸上部入ろうかなと思ってんだけd」

 「マジで?ええやん、ええやん、入ろ入ろ!」


 「……」


 その後陸上の話をしたが正直あんま覚えていない。ただ、たしかに覚えているのはすぐに賛成したあの言葉。そしてそれを友好的に捉えていたあの態度だ。それは俺が今まで感じてきた「侮蔑や嫉妬」の感情と大きくかけ離れていたものだった。

 







 帰り道。かつて同じ陸上部だった友達のInstagramを見てみる。そこには頑張っている姿が見えた。中にはあいつとは別で俺と同じ11秒台に辿り着けなかった友達ももう少しで11秒台になれそうだ。


「…頑張っているな」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 「…吉田」


 「うん?」


 帰り際。廊下ですれ違ったときに俺は声をかけた。


 「やっぱり。部活...」


 「......」


 「陸上部に入ることにするよ。顧問の先生にもこれから言ってくる。」


 「そうか。」


 ニコッと笑い「共に頑張ろうな」と声をかけて吉田は行ってしまった。


 躊躇いはある。でも後悔はなかった。







 そして、









 『やっぱりおかしい。何故だ...何故俺はここにいる』

 陸上部に入り初めての大会になっても俺はそう思っていた。


 だがその心の奥で静かに燃えている高揚感。


 これだけはどんなに部活での記憶が苦くても忘れられない。


 そろそろだ。時間が来る。

 

 


 『まぁいい...部活はダルい。これはどんなことがあっても曲がらない。いや絶対に曲げさせない。ただ、それでやる気を無くすのではなくやり続けることが大切なんだ。だから今の俺がいる。』


 「よしっ」 


 心の中で整理をつけ颯太は再びスタートラインに立つ。久しぶりの大会だ。クラウチングスタートの体勢もバッチリ。あとは走るだけだ。集中集中。


 「ふーーーぅ」


 深呼吸をして落ち着く。大丈夫だ。











 パン!


 スタートと同時に走り始める。


 今の颯太には少し淀みながらも全てが輝いて見えていた。



 「完」

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