第40話 アルのお土産 14
「ライラ。いつもは触らずに邪気を取るだろう。何故、触る?」
と、不満げなアル。
「手首から先の邪気が強いから。触ったほうが早く取れると思う」
「なら、早く取る必要はない。いや、むしろ、取るな」
「あのね、アル。ジュリアンさんは痛いんだよ? そのままにしたら、かわいそうでしょ。ね、ジュリアンさん」
そう言って、ジュリアンさんを見たら、何かつぶやいている。
「邪気? 俺に邪気がついてるのか? まあ、確かに、つくかもな……。それより、ライラちゃんだ。邪気が取れるって言ったけど、もしかして本当に妖精? つまり、妖精は実在する!?」
と、すっかり迷宮に入り込んでいるジュリアンさん。
私は二人を放置し、ジュリアンさんの手に集中した。
真っ黒い邪気に覆われた手。
その手に重ねた私の手がスポンジになり、黒い邪気を吸い取るイメージをする。
まずは、一か所に集中して、手のひらを動かしてみる。
すると、黒い邪気の下から、ジュリアンさんの地肌が見えてきた。
すぐに、私の手のひらに種がうまれた。
私の手のひらは、ジュリアンさんの手に重ねている状態なので、その間から、種が転がりでてきた。
その様子に、驚いた顔をするジュリアンさん。
まあ、驚くよね。奇妙だし……。
「気持ち悪いと思うけど、もうちょっとがまんして」
と、声をかけた。
すると、はっとしたように、ジュリアンさんが私を見た。
「いや、気持ち悪くないよ……。それより、びっくりした。生まれてから、一番、びっくりしたかな……。でも、ここらへんの痛みが完全に消えたよ」
そう言って、地肌が見えた部分を、ジュリアンさんは左手で指差した。
「ほんと? 良かった! やっぱり、直接、触ったほうが早いね。この調子で、しっかりきれいにするから。もう少し、我慢して。ジュリアンさん」
嬉しくなった私は、すっかり敬語を忘れて、ジュリアンさんに言った。
「……うっ、弱った体に、ライラちゃんの頼もしさと優しさが染みる。ねえ、アル。幸い、まだ結婚していないことだし、ライラちゃんを、かわいそうな俺にゆずって……」
と言ったところで、アルがものすごい目で、ジュリアンさんをにらんだ。
無言のまま、コリーヌ様からのお土産のひとつ、菓子が入ったかごに近づく。
そして、かごに結ばれていた豪華なリボンをほどいた。
リボンで何をするの?
と思ったら、アルは、しっかりした生地のリボンを素早く二つに折り、ジュリアンさんの口にかませ始めた。
抵抗するジュリアンさん。
「おいこら、アル、やめろ……、うっ………!」
が、腕一本の抵抗ではアルに敵わず、リボンをがっしり嚙まされたジュリアンさん。
何か言っているみたいだけれど、もごもごとしか聞こえない。
「……アル? ジュリアンさんに何してるの?」
「ろくでもないことを言う口は邪魔だからな。これで静かになったし、ライラも邪気を取りやすいだろ? だが、こんな奴、珍しい種がとれたら、後は適当でいいぞ? ライラが疲れたら大変だ」
「私は別に大丈夫。それより、リボン、外してあげて」
「ダメだ。口を外すなら、顔全体を覆う」
と、アル。
意味がわからない……。
ジュリアンさんには悪いけれど、アルの対応も面倒なので、このまま急いで邪気をとってしまおう。
ごめんなさいね、ジュリアンさん。
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