第15話 なんで、隠すの?

 パトリックが、にこやかにお父様に言った。


「ライラをエスコートして、パーティーを楽しんできたいのですが、いいでしょうか?」


 え、やめて!? パトリックと二人じゃ、楽しめないよ!


 私はあわてて言った。


「私は、こんな大きなパーティーは初めてなので、緊張しちゃって……。今日は両親と一緒にいるから。お気遣いなく……」


「そんなこと言わないで。せっかく来てくれたんだし、ライラと一緒にいたいな」


 口調は優しいが、胸からでる黒い煙の量がどっと増えた。


 多分、私が断ったのが気に入らないんだろうね……。

 二人になったら、何を言われるかわからない。

 

 私はすがるようにお父様を見た。断って!

 お父様が私に向かって微笑んだ。


「じゃあ、ライラはパトリック君に頼もうか。こんな豪華なパーティーは、滅多にないぞ。ライラ、緊張しなくていいから、楽しんでおいで」


 違うわ、お父様!


「おお、それがいい。パトリック、ライラさんを、ちゃんとエスコートしてきなさい」

と、公爵様も微笑みながら同意する。


 結局、私の願いもむなしく、上機嫌の二人に笑顔で送りだされた。


 パトリックに連れられて、ホールを歩きだす。

 パーティーを主催している公爵家のご子息といるからか、すごい見られているのを感じるよね。

 視線が、突き刺さるようなんだけど……。 


「ライラ、さっきは、なんで断ろうとしたの? ぼくと一緒にいるのが、そんなに嫌? でもね、ライラは、ぼくの婚約者なんだから、パーティーの間中、ずっと、ぼくと一緒にいないとダメだよ」


 私にむかって、爽やかに微笑みながら、口では文句を言うパトリック。


 傍から見てる人には、優しく気遣われているように見えているんだろうな……。

 全然、違うけど……。


「で、なんで返事をしないの? ライラ」

と、パトリックが言った。


 顔はにこやかなままだけれど、パトリックの声が明らかに、さっきより、いらだっている。

 同時に、また胸から黒い煙がどばっと出た。

 これ以上、黒い煙を増やすわけにもいかない。


「……わかったわ」

と、しぶしぶ、返事をした私。


 それで、パトリックは納得したよう。


「ライラ、なにか食べる?」

と、聞いてきた。


「飲み物だけ欲しい」


「じゃあ、ここで待ってて」

そう言うと、すぐ近くの食べ物や飲み物を準備しているテーブルに取りに行った。


 その時だ。ふと、強い視線を感じた。


 とっさに視線のほうを見ると、女性がいた。

 なんとも鮮やかな、珍しいオレンジ色の髪の女性が私を見ている。


 …っていうか、にらんでない!? 私をにらんでるよね?


 が、にらまれている怖さよりも、驚きのほうが先に立った。

 というのも、その女性の首から下は、黒い煙がいたるところからふきだしていたからだ。


 こんなに沢山、黒い煙を自分から出している人を、私は初めて見た。

 黒い煙で、ドレスの色もわからない。わかるのは、ひときわ目立つ、オレンジ色の髪と顔だけ。


 あいかわらず、その女性は私をすごい目でにらんでいる。

 ええと、初対面だよね……? なんで、にらまれているんだろう?


 そこへ、パトリックが飲み物を手に戻って来た。


 私に飲み物を手渡しながら、パトリックは聞いてきた。


「ねえ、ライラ。何を見てたの?」


「見てたというか、見られてたんだよね……。うーん、そうだ。パトリックはオレンジ色の髪の女の人を知ってる?」

と、私が言ったとたん、パトリックの瞳が揺れた。

  

 そして、焦ったように答えた。


「いや、知らないな」


でも、パトリックの胸から出ている黒い煙が一気に量が増え、どんどん濃くなっている。


どう考えても、これは、知ってるよね……?

でも、パトリックは、なんで、隠すのかな? 


すごーく気になる! 

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