第11話 早く帰って!
そんな風にパトリックとの今までのことを考えながら、ぼーっと植物を見ていると、パトリックがきつい口調で言ってきた。
「ライラはいくつになっても、ぼーっとしてるし、子どもっぽいな」
なんか、今日のパトリックは特に機嫌が悪そう。
とりあえず、植物を見て無になろう。
すると、突然、私の前に、パトリックが立ちはだかった。
驚いて顔をあげると、私をにらんでいる。
「なんで、ぼくを見ない!? なんで、何も言わない!? なんで、いつもそうなんだ!?」
と、憎々しげに言うパトリック。
だって、なんか言ったら、倍ぐらい戻ってくるから、面倒なんだよね。
なんて、本心を言うこともできないし……。
「まあ、私って、いっつもこんな感じだから」
と、よくわからないことを口走ってしまう。
やっぱり、パトリックの顔色が少し悪い。
まあ、こんなに黒い煙をつけていたら、しょうがないけど……。
ばれないように、少しだけでも吸い取ってあげよう。
まあ、パトリックの黒い煙からは、いつも、おもしろい種が取れるから、それだけは興味深いしね。
私は、ばれないように、少しずつ黒い煙を吸い取る。同時に、パトリックの嫌味を受け流していると、やっとパトリックが帰る時間になった。
両親と私でお見送りのために玄関にでる。
思わず、心が浮きたち、口がゆるんだ。
早く帰ってー!
内心、叫んでいると、パトリックは、お父様に微笑んで言った。
「来月、うちでパーティーがあるんです。ライラを招待しても良いでしょうか?」
えっ、やめて!?
お父様が何か答える前に、私はすごい勢いで口をはさんだ。
「私は、王都の、しかも公爵家のパーティーに行くのは不安なので、ご遠慮します!」
パトリックが凍えるような目で私を見た。同時に、パトリックの胸のあたりから、黒い煙がどっとあふれ出す。
せっかく、すい取ったのに、また黒い煙だらけになってしまうじゃない…。
が、ここで、ひるんではいられない! 私は、お父様に必死に目で訴えた。
それなのに、お父様は笑って言った。
「ライラも14歳だし、そろそろ社交もしなくてはな。来月なら私も王都の屋敷に仕事で行くので、ライラを連れていきましょう」
と、パトリックからの招待を気軽に受けてしまった。
「ちょっと、お父様!」
私が、ブンブンと首を横にふる。
「心配しなくても大丈夫だ。私も行くからな」
お父様は、にこにこして言った。
いや、そうじゃない! 私の気持ちがまったく伝わらない!
「それは良かったです! やっと自慢の婚約者を皆に見せられます。楽しみにしてるね、ライラ」
そう言って、爽やかに笑ったパトリック。
はああー、面倒なことになったわ。
でも、パトリックは、なんで招待しようと思ったんだろう?
いっつも、私のこと、あんなに馬鹿にしてるのに……。
あ! もしかして、意地悪をして恥をかかすとか?
婚約者にふさわしくないことを皆に見せつけようとしているとか?
と、こんな感じで、もう、悪い想像しか浮かばない。
が、悩んでもしょうがないよね。パトリックの考えは、私には、ちっともわからないから。
パトリックが豪華な馬車に乗って去っていったら、心底、ほっとした。
削られた心を植物で癒してこよう!
早速、裏庭の奥にある、私の庭を見に行く。
水をやったり、植物に話しかけたりしているうちに、パトリックのことはどうでもよくなった。やっぱり、植物には癒される!
その時だ。
「ライラ」
と、アルの声がした。いつの間にか、近くまで来ていたみたい。
「いらっしゃい、アル。全然、気づかなかった」
「それはそうだろう。ライラは、楽しそうに、その不気味な花たちに、話しかけていたからな」
そう言って、アルが微笑んだ。
おっと、聞かれていたのね。恥ずかしい!
私はごまかすように、花を指さした。
「アル。これ見て! やっと、咲いたの!」
半年くらい、つぼみのままだった花がついに咲いた。
どんな花が咲くかと思ったら、茶色い花で、2枚の花びらが羽みたいに上下に動いてる。
「また、不気味な花が咲いたな」
「これ、半年かかって咲いたんだよ! 虫みたいでおもしろいよね?!」
と、興奮気味に話す私。
「こんな変な花が咲いて、そんなに喜ぶライラのほうがおもしろい」
「え、私? いたって、普通だけど? それより、この花ってね、種の時から、虫みたいな形してたんだよね。確か、パトリックの黒い煙から取れた種だったはず…」
「パトリックって、もしや、婚約者の名前か?」
私はうなずいて、ポケットからごそごそと、いくつも花の種を取り出した。
「パトリックの黒い煙から、今日、収穫した分。本人に私の能力を言っていないから、こっそり吸い取ってるんだけど、それでも、こんなに取れたんだ。すごいでしょ? それに、ほら、これ見て! このオレンジ色の種。黒いリボンみたいな模様がでてるよ?」
私は手のひらにのせて、アルに見せる。
「あのな……、そんな楽しそうに、見せびらかすことか? 婚約者なんだろ、その男。そんなに邪気を沢山つけて、大丈夫な奴なのか?」
「うーん、どうだろう。でも、私じゃ、もう、どうすることもできないんだよね……」
「なぜだ?」
アルが興味深そうに聞いてきた。
私は、パトリックが学園に入って変わったこと。
来るたびに、黒い煙がだんだん濃くなったこと。
そして、その黒い煙が、パトリック自身からではじめたので、吸い取ってもきりがないことをアルに伝えた。
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