第9話 婚約者!?

「ねえ、ライラちゃん。今度、ライラちゃんの植えている花を見に行ってもいいかしら?」

 と、コリーヌ様が、聞いてきた。


「もちろんです! いつでも見に来てください!」


「すごい不気味な花ばかりだけどな」

 

 アルが眉間にしわをよせた。


「そう言いながら、毎日、見に行ってるのは誰かしら。じゃあ、ライラちゃん。明日、アルと一緒に見に行ってもいい?」


「はい、どうぞ! ……あ、でも、明日って、あの日か……。すみません。3時から1時間ぐらいはダメなんですが、それ以外の時間なら、いつでもいらしてください」

 

 私の言葉に、不思議そうな顔をしたアル。


「どこかへ行くのか? いつも庭にいるのに珍しいな」


「いや、いるんだけど、……明日は、婚約者の面会の日なんだよね」


「はあああ!? 婚約者!?」

と、アルが叫んだ。


「そこまで驚くかな?」


「だって、ライラ、子どもだろ? それなのに、婚約者がいるのか!?」

 

 納得のいかない顔でアルが言った。


「子ども? 立派な14歳だけど!? まあ、婚約者は小さい時に決められただけなんだけど……。3か月に1回しか会わないしね」


「3か月に1回って、決まってるのか?」

 

 やたらと聞いてくるアル。


 この話、おもしろいかなあ? 

 私は興味ないんだけどね、と思いつつ、隠すことでもないから、聞かれたことに答える。


「交流のため、3か月に1回、会うことになってるの。婚約者は王都の人だから遠いしね。だから、別に、会いに来なくてもいいって言ってるんだけど……」


「まあ、ライラちゃんに会いたいのね。その婚約者さん」


 コリーヌ様の言葉に、つい、変な顔になった。


「いえ、まったく。そうではないと思います。義務かな……、うーん……」


 私が言いにくそうにしているのを見て、コリーヌ様は言った。

 

「じゃあ、お花を見に行くのは、別の日にするわね」


 そして、顔色も良くなったコリーヌ様に見送られ、花束のお土産もいただき、アルには、歩いてすぐの自分の家まで送ってもらった。


「じゃあ、ライラ、ゆっくり休め。しっかり食べて、しっかり寝るんだぞ? 今日は、本当に母のためにありがとう」

 そう言って、アルは私に向かって微笑んだ。


 あまりに優しい眼差しに、ちょっと、ドキッとした。



 翌日。朝から憂鬱だ……。

 だって、今日は、3か月に1回の憂鬱な日だから。


 仮病を使うにも、元気なのは、みんなにばれてるしね。

 いつものごとく、無になって1時間を過ごすか…。


 午後になると、メイドたちに着替えさせられて、しっかりと髪も整えられた。


 そして、3時になった。時間ぴったりに、豪華な馬車が着いた。

 両親と私は、玄関で婚約者を出迎えた。

 馬車から降りてきたのは、すらりとした、茶色の髪の少年。少し甘い顔立ちのその少年が、私の婚約者パトリックだ。


 パトリックは、私の両親の前に立つと、にこやかに挨拶をした。

 

「ご無沙汰しております。お変わりありませんか?」


「ああ、元気だ。ありがとう。パトリック君は、ますます立派になったな」

 と、お父様も、にこやかに返した。


 そして、パトリックは、今度は、私のお母様の前に立った。


「これ、王都で人気の菓子なのですが、よろしかったらどうぞ」

と、素敵な包みを渡す。


「まあ、お心遣いありがとう。どうぞ、ごゆっくりなさってくださいね」

そう言って、お母様は、嬉しそうに微笑んだ。


 ここで、やっと、私の方を向いた婚約者様。

 いつもどおり、爽やかな笑顔で言った。


「ライラ、久しぶり。元気そうでなにより。会いたかったよ」


「パトリックもお元気そうで良かったです。お会いできるのを楽しみにしていました」

と、私も挨拶をした。


 が、若干、棒読みになったのは仕方がない。

 だって、私、社交辞令は苦手なんだよね……。

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