(本編完結、番外編更新中)私のことが嫌いなら、さっさと婚約解消してください。私は、花の種さえもらえれば満足です!

水無月 あん

本編

第1話 少年

道に座り込んでいる少年がいた。


「どうしたの? 大丈夫?」

声をかけると、少年が顔をあげた。


でも、真っ黒い煙がかかって、顔がわからない。


「…つらそう。でも、大丈夫! 私がお掃除してあげる」


「は…? 掃除…?」

弱弱しい声が返ってきた。


「うん! きれいにしたら、すぐに元気になるからね!」


励ますように明るく声をかけると、私は、早速、座っている少年の顔の前あたりに、両手をのばした。


手のひらを、いっぱいにひろげ、黒い煙を吸いこむようイメージしながら、ぐるぐるとまわして動かす。


すると、黒い煙は、どんどん、どんどん、私の手のひらにすいこまれ始めた。


うん、いい感じ! このまま、一気に吸い取ろう! 


そう思ったけれど、最後に残ったところが、ねばっこい感じで、なかなか吸い取れない。


だから、今度は、自分の両手が消しゴムになったイメージをした。

そして、汚れを消しとるように、両手を上下に動かしはじめた。


動かしている両手が疲れて、棒のようになってきた時、やっと、最後に残っていた黒い煙がとれた。


すっきり、きれい! 


嬉しくて、にんまりしながら少年を見ると、少年が目を大きく見開いて、私を見ていた。


「あ、びっくりしたよね? でも、もう大丈夫。動けると思うよ?」

私が、あわてて説明すると、少年は、はっとしたように、立ちあがった。


おっと、思ったより背が高い…。


すらりとした少年は、確認するように、手足をぐるぐるとまわした。


「うそだろ…。動くし、痛くない…。毒の後遺症がなおったのか…?」

驚いたように、つぶやいた。


え、毒…? なんだか、面倒な感じの人かも…。

さっさと逃げなきゃ。


私の力は珍しいから、知られたら利用されるかもしれない。

だから、うかつに人前で使わないよう、お父様に厳しく注意されている。

使ったことがバレたら、また、怒られる! 


「うん、よかった! じゃあ、私はこれで!」

急いで立ち去ろうとした。


が、少年が私の前に立ちふさがった。


「おい。今のは、なんだ? 説明しろ」

さっきまでの弱ってる感じとは違って、少年は、すごくえらそう…。


しかも、背が高いから、威圧するように私を見下ろしてくる。

黒い煙で、顔がよくわからなかったので、自分より年下かと思ったけれど、どうも年上みたい。


漆黒のまっすぐな髪に、美しい紫色の瞳。

とてもきれいな顔だけれど、切れ長の目で、私を射抜くように鋭い視線をぶつけてくる。


怪しんでるんだね…。 わかるよ、変な能力だし…。


でも、なんか、怖い…。

早く、逃げよう!


ということで、相手の隙をついて、勢いよく走り出した。


「あ、待て!」


ふーんだ。待てと言われて待つわけがないよね?!


植物の間をぬったり、くぐったりして、すばしっこく走る。

絶対に、大きな人には走れないルートだ。


そして、振り返ったら、もう、いなかった。


よし、まいたわ! あー、怖かった。


にぎりしめた手をひろげると、丸い花の種があった。

赤黒くて、ちょっとぎらぎらしていて、不気味な感じ。

しかも、大きいね。


「どんな、花が咲くのかなあ? 楽しみ! フフフン、フフ…」

と、鼻歌を歌いながら、裏口から屋敷の中に入っていった。

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