地獄のラブコメなんて聞いてない!

みけめがね

第1話 地獄行きなんて聞いてない!

人は死んだ後どこに行くのか、誰しも一度は考えるだろう

俺も今考えてる

今目の前に2トントラックが横転してこちらに向かってきているのに死ぬほど冷静だ

まあこれから多分死ぬけど

案の定俺の前にスーパーヒーローが現れて寸前のところで2トントラックを止めてくれるはずもなく

俺の身体は2トントラックの下敷きになって潰れた…ところまでは覚えているが

(ここはどこだ…?)

俺の目に映るのはいつも運転しているような誰もいないバスの車内だった

(もしかして夢だったのか)

と胸を撫で下ろそうとして自分の身体に手を当てたが

何もない、感触がない

(あっ、俺死んだんだ)

恐ろしいほど簡単に俺は自分の死を受け入れた


呆けた表情で俺は不意に窓の外を眺めた

死後の世界というが、想像とは打って変わって

地方都市のビル街のようで針の山や血の池などはなく

どこか俺がいつものように運転していたバスの外の風景によく似ていた


「お客さーん着きましたよ〜不動明王庁ですよ〜お客さんはここで最初に獄録の書類審査を受けてもらいます〜」

と女の子の声でマイクアナウンスが入った

(車内放送の声若いな)

そんなことを思いながら俺は座席を立ちバスの前方から出る

「ありがとうございましt」

言葉に詰まった

運転席に座っていたのは紛れもなく10歳〜12歳の少女だったからだ

(若くね?若すぎじゃね?)

と俺が固まっていると少女は

「おにーさん、私のこと『子供じゃね?』って思ったでしょ」

と眉をしかめてじいっと俺を睨みつける

「お、思ってないですううう!」

俺は少女の得体のしれない威圧感に負けて走り出した


俺は少女がアナウンスで言っていた

不動明王庁に駆け込んだ

地獄のはずなのに俺以外の亡者はパラパラとしかいない

職員と見られる人間より一回り大きい鬼に怯えながら

病院のように受付で番号の書かれた紙を貰い

20分くらいで俺の番号が呼ばれた


「ここを真っ直ぐ進むと不動明王様の審査室です」

(小学生の時サッカーで窓ガラス割って校長室に呼び出された時あったな…)

どうやら俺は緊張してる時の方がどうでも良いことを考えてしまうようだ

ぎぎいっと大きな扉が開いた

書類が山積みになった机に碇ゲン⚪︎ウスタイルで待機する

スーツ姿の大きな強面の仏様がいた

そしてタブレット端末を持った補佐官みたいな仏が俺の人生経歴を隅から隅まで読み上げた

小学生の時好きな女の子に悪戯をしたこと

中学生の時バタフライナイフを学校に隠し持って行って先生に見つかったこと

高校生の時修学旅行で女湯を覗いたこと

バスの乗務員になってすぐに事故に巻き込まれて死んだこと

全て丸裸にされた、今めちゃくちゃ顔が赤い

獄録を聴き終えた不動明王は

「神無正悟(かんなしょうご)、貴様の生前の行いはとても擁護できたものではない」

(あ…俺地獄行き…?死んだ?死んでるけど)

「だが、それより重大な問題がある!」

と不動明王は立ち上がり俺の方へ歩み寄ってきた

その巨体はあろうことか俺に向かって土下座した

そして不動明王庁全体に響き渡るほどの大きな声でこう言った

「貴殿に地獄のバス運転手をお願いしたい!」

俺は本気で聞き返した

「は?」

不動明王は姿勢を直し、おほんと咳払いをした

いつの間にか不動明王の後ろには補佐官が用意したであろうスクリーンに映し出されたプレゼン資料があった

不動明王は語り始めた

「我らが治める地獄は今現在深刻な人材不足にある、そこで一定の技術を持った亡者を制約つきで就労させる政策を試験的に始動することになった。その第一号が若さと技術を持った貴殿というわけだ」

「は、ははあ」俺は状況がよくわからなかった

「あと貴殿はこの就労を拒否した瞬間に地獄行きが決まる」

「!?」

(そんなの絶対断れないだろ!)

俺は内心イラついていたが怒りをぐっと堪えて

「不動明王様先ほどのプレゼンについて質問があります」と震える声で質問した

「なんだ?」

「俺に科せられる制約とは一体なんですか…?」

不動明王は腕を組み少し考えたあと不気味なほど似合っていないにこやかな表情で

「そうだな、絶対に女性と関係を持ってはならないってのはどうだ?」

と持ちかけた

俺は即決した「やらせていただきます!」

不動明王はニッコリしながら俺関係の書類にハンコをポスポスした


(基本バス会社ってのはオジサンだらけで若い女の子はほぼいない!女性がいたとしてもおばさんの確率が非常に高い!と俺の人生経験と偏見がそう言っている!)

と心の中で豪語した

そして一週間後この時の俺がどれだけ愚かだったかを思い知らされるのだった

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