第21話


エマに助けを求めようと振り返ろうとするが、腕を掴まれて引き寄せられてしまう。



「行こう」


「は、はい……」!



抱きしめられるようにして、マスクウェルにエスコートを受けていた。

マスクウェルに触れられている部分が熱をもつ。

ファビオラは気絶寸前なのにも関わらずに、マスクウェルはにこやかに微笑んで涼しい顔である。

馬車に乗り、二人きりの空間になるとファビオラはギュッと膝で手を握った。

この高揚感と緊張感は感じたことがない。


(汗かいちゃいそう……)


ファビオラはチラリとマスクウェルを盗み見る。



「顔が赤いな。窓を開けようか」


「はい、ありがとうございます。マスクウェル殿下」



マスクウェルはファビオラの変化に敏感に勘付いてくれたようだ。

涼しい風が隙間から吹き込んでホッと息を吐き出した。

まるで熱に浮かされているようだ。

コルセットも相まってむず痒い。

意識を逸らそうと、マスクウェルに話を振った。



「ドレス、ありがとうございます。どうでしょうか?」


「…………」


「頑張って似合うように努力したんですよ?」


「…………」


「あの……マスクウェル殿下?」



返事が帰ってこないことを不思議に思っていたファビオラは顔を上げると、何故か目を逸らして口元を押さえているマスクウェルが見えた。


(エマが大丈夫って言っていたもの……!絶対に大丈夫よ)


そう思いつつも、もしかしてドレスが似合わなかったのかもしれないと心配していると、マスクウェルはすぐに元の表情に戻る。



「とても……とてもよく似合っている」


「本当ですか?よかったぁ」


「……っ」



ファビオラはホッとして息を吐き出した。

それから似合っているという言葉に手を合わせて喜んでいた。

たとえ上辺だけのリップサービスだとしてもマスクウェルに褒められて嬉しい。

半年間、マスクウェルのために努力してきた甲斐があったというものだ。

ドレスが似合うようにと死ぬほど体型を整えたり、肌を美しくするために野菜をたくさん食べていた辛さが一瞬にして報われていく。

マスクウェルは以前よりもずっと柔らかい雰囲気ではあるが、再び窓へと視線を向けてしまう。


(前は超塩対応だったのに……!いきなりどうしちゃったのかしら。ハッ、わたくしやっぱり嫌われているのかしら)


思い込みから一気に尻込みしてしまい、エマから借りたナイフホルダーの中に忍ばせているプレゼントは渡せそうにない。


(そもそも受け取ってくれるのかしら……迷惑って言われたら立ち直れないわ!エマァアァッ、助けてぇ)


なんとなく気まずくなり、ソワソワして当たり障りない話題を出した。



「久しぶりのパーティーだから緊張してしまいます。それに……」



マスクウェルがカッコよすぎるから隣に並んだら気絶してしまうかもしれない、とは言えずにファビオラへ口を閉じる。

今日はイメージ回復を目指しているのに絶対にマスクウェルの前で失敗したくないという焦りからか指が震えていた。



「緊張する必要はない。僕が隣にいるのだから」



そう言ってファビオラに視線を送る頼もしいマスクウェルに心臓を撃ち抜かれたファビオラは意識を持っていかれる寸前だった。

白目にならなかった自分を褒めてあげたい。

何故こんなにも彼は尊いのか……思考停止中である。

表向きの顔でいたかと思いきや、途端に裏向きの顔で攻めてる。

油断も隙もないとはこのことである。


なんとか堪えたファビオラはマスクウェルに笑顔を返した。


(あっぶねえぇぇぇ……!もう少しで魂持っていかれるところだったわ)


なんとなくではあるが、また以前のように突き放されるのだと思っていた。

それなのに甘い雰囲気に戸惑っている。

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