第3話

有明さんはいつも石段の下に居た。

いつも俺に優しく声を掛けてくれた。

微笑んでくれた。

たくさんお話した。

お山を一緒に散策した。

有明さんはお山のことをなんでも知っていた。

季節の移ろいを全部知ってて、綺麗な景色や不思議な光景を沢山見せてくれた。

現代の知識も豊富で、知らないことは何でも優しく丁寧に教えてくれた。

その時間は俺のどうしようもない感情を肥大させていった。

本当にどうしようもなくなった。

大好きで、辛くなった。

神様に恋したって叶わない。

なのに、逢わないのは死ぬほど苦しい。


俺は告白することにした。


大好きだと伝えた上で、この町を出ると告げた。


有明さんは怒った。

告白には喜んでくれた。

けど、俺が町を出ると言った瞬間、怒った。

山が震えた。

両目を真っ赤にさせ、怒りの笑みを浮かべた。

まだ登ってない筈の月も真っ赤に浮かんだ。

でもそんなに怒ったって、恐くなかった。

俺の想いは叶わないのだから。




「喜ばれたってあんたは俺を愛してくれないだろっ!」


そう、叫んだら、抱き締められていた。


「ボクは永く在るけれど、こんなに愛おしいと想う人間は鵜篭クン、だけだよ」



有明さんの両目が優しい鴇色になる。


世界で一番美しい紫色になった。

夕暮れの橙と青空混ざった時に生まれるそれ。


「愛してる、キミをボクに頂戴」


そう言って俺に口付けしてくれた。


ああ、幸せだ。

こんなこと、いいのだろうか。

俺でいいのだろうか?

俺の心を見透かしたかのように、有明さんが抱き締める腕に力を籠める。

感情を示す右目は赤、それから徐々にまたピンク。

俺は。

溺れないように両腕で有明さんにしがみつき、願う。


差し上げます。

差し上げます。

だから。

どうか。

俺を愛してください。

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