第6話

「次は、ずびしっと生徒会長にアタックだぜ」


後ろ向きに歩き、指さし確認を俺にする。


「…なんで…会長に?」


確かに部活動、祭事にわたる全てをうちの学校は生徒会で管理、運営してるけど。

生徒会で選出しているとはとても思えない。

演劇部で駄目だったのだから、そうは問屋は卸さないはずだ。


「偉いから、に決まってんじゃん!」


そうして後ろ向きにダッシュして、ねくすと、ネクスト歌っている。

あの子大丈夫なんだろうか。


現生徒会長は確か二年の流さんだったけか?


「ねーくすっとっぐひ」


「何、してるんだ憂鬱」


「なっがーれ!ここいた!」


なんか人気らしいと噂の生徒会長の顔を脳から引っ張りだそうとして、優津の注意を怠っていたら事故が起こっていた。

すでに場面は事後報告状態だ。

後ろ向きダッシュして角から曲がって来た人物にぶつかったようだ。

しかも相手は探していた張本人。

記憶の片隅に合ったとおりの、メガネ男子流生徒会長その人だ。


「…すみません流生徒会長…」


慌てて謝罪しに駆け寄ると、なるほど人気があるのも頷ける。

切れ長の鋭い目に端正な顔立ちをしている。

そうそうたしかこの容姿で、芯の通った熱い演説をぶちかましていたな。


「ながれーおひさー」


高嶺の花的な存在に、やたら懐いている優津はぶつかったことを悪びれもしない。

そして流さんも慣れていた。


「相変わらずだな、お前、とその完璧な保護者有馬くん」


「…保護者……好きでこうなったわけでは…」


微妙な評価を得たが悪く感じない。

流さんが醸し出す雰囲気がそうさせるのかどうか。

ぴょんぴょん飛びはね流さんの周りを回り出す優津。

それを平然と受け入れる流さん。

そして傍観する巨人。

奇異の目を向けられているが気にしないでおこう。


「それで、ここにいた、と言うからには俺に何か用なのか二人は?」


正面で己をアピールしだした小柄な優津の頭を押さえ、流さんが流れを変えてくれた。


「なっがれなだけに」


「…実は『西洋貴婦人』のことについてお聞きしたいってこいつが言い出して…」


「きょじんのくせにすば」


「誰が演じているんですか、かな?答えは生徒会でも分からない、だ」


初対面なのに優津を完膚無きまでに無視して会話が出来た。

流さんもそこそこ背が高いから、大分上の位置で話が出来るのが勝因だ。

しかし返ってきた答えはやっぱりと思わせる内容だった。


「えー、知らないのー」


かなり失礼な口振りの優津に、メガネの奥で悪いなと眉を寄せ、


「残念ながら、生徒会で分かることは何一つないんだ」


まるで、常套句のような台詞をくれた。

あらかじめ決めていたように。


「…つまり、毎年聞かれるんですね?」


演劇部同様、いやそれより情報は皆無というわけだ。


「うん、だから俺に聞くのはお門違いってわけだ、優津」


俺と流さんが話していて間に入れなかった優津は、ずっと飛び跳ねて自己を主張していた。

それにいい加減嫌気が差したのか、流さんは優津のほっぺたを両手で掴み伸ばして制裁してくれた。

なんて楽しい光景なのか、ちょっと黙っておくことにした。


「ひひやいながれー」


「お前有馬くんに迷惑ばっかりかけてないか?」


「ひょんなことねぇよ」


ちょっと上に引っ張られたのか、優津はつま先立ちでふらふらし出す。


「後お前また風紀員に注意されただろ」


慣れていたのはそこの流れか、やっぱり。


「あひーたねふまーたふけてーひひやいー」


段々悲しそうな声色になっているが、校則違反常習犯には良い薬になりそうなので、ほっておく。

日頃の行いの仕返しとかじゃあない、と自分にいい聞かせつつ。


「ま、好きなだけ調べるといい」


縦縦横横円描いてちょん、と下手人の頬を蹂躙して解放した流さんは俺に向かって言い放つ。


「婦人の正体はまさしくアンノウ、創立から守られている伝統」


優しく微笑みメガネをきらりと光らせつつ、


「正体不明で有り続ける、我が校になくてはならない椿の花」


格好良く踵を返していく。

射すくめられ呆然としてしまった。

優津が頬を涙目で押さえ、かっこつけてんじゃねぇぇ、と跳び蹴りをかますのを止められないくらいに。

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