第4話

それで身長いくつなの?と丹後さんに聞かれ、193cmと答えたらやっぱり驚かれ、巨人に見えると笑われ、校舎の天井が低いからそう見えるだけですよ、なんて当たり障りのない会話をしつつ、


「ここ?ねっここ!?」


無駄な腿上げで何かを消化している優津が、開口一番を切った。


別館の一番奥まで来たが、やっぱり広い。

通路が何本もあり、今自分が何処に居るのか不安になる。

まあ一本道だったから帰れないこともないけど。

半地下だから狭苦しさ倍増なのかもしれない。


「そうそう、そこ」


そんで、その隣が演劇部の部室な。

正面の廊下は部屋ひとつ分奥まって、踊り場になっていた。


「あ、しもねたねぎとししかばぶーだ」


そこで見知った獲物を視界に捕らえ、優津が特攻をかました。


「げ、優津だ」


「なんでここに居んの」


談話場所として提供されている場所なだけに、小さな木製のテーブルとしゃれた木製のベンチが設置されている。

壁際には観葉植物と割と大きな本棚、壁上部にある小窓からはほんの少ししか外の様子が伺えない。

枯れ葉に埋もれてんだろな。

そしてベンチに座っていた演劇部員らしき男子が2人、優津と談笑している。

このまま置いてっても良さそうだ。


「なあ有馬ってさ、あっちもでかいのか?」


「色々びっくな野郎だぜ」


「まじでー?そういえばこないださー」


またしても下な話しに俺登場。

育ちが良いくせにどうしてそうこう食い付きがいいのか。

げんなりしすぎて会話に口挟むのも面倒だ。


「有馬くんは…色々大変だな」


「…はあ…まあ…」


優津の友人としてまともに成立しているのは、実は俺だけだ。

優津の人脈はかなり広い。

ただ四六時中一緒に居たら、というか付きまとわれたら正直うざったい。

それを本人は理解しているのかいないのか。

ふらーっと色んなひとと出会っては談笑、気が済んだらあとは俺に付きまとう。


長身で愛想がない俺は、なかなか友人ができなかった。

腰は低いつもりなのにでかいだけで恐れられ、中学でもそうだった。

だから見た目だけで暴力的に絡んでくる輩が少ないと、そう思ってこの学校を選んだのだ。

結局出来た友人はこれだ。

しかも割と小柄な優津と一緒にいるから、比較対照が徒になってますます巨大に見えて避けられてる。

あ、なんか本当に憂鬱になってきた。

俺の心境が伝わったのかどうか、丹後さんはやれやれと息を吐き、


「お前ら、いい加減時間だぞ、油売ってんなよ」


存在を無視された怒りもあるのか声色は恐ろしい。

さすが演劇部部長だ、怒りかたも様になっている。


「ひ、部長っ」


「す、すんませんっ」


男子部員は下世話から一転青ざめ、そそくさ左側にある部室に走り込んだ。

優津はぐっぱーい、と他人事のように手を振っている。

質悪いな本当に。

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