西洋貴婦人

狐照

第1話

「ずばり、探そうぜ」


校則違反の紺のセーターを着て優津が急に立ち上がり宣った。

廊下にいくつも点在する踊り場のひとつでまったり気分で昼食を済ませ、午後の授業サボるぅ、と不気味なしなを作っていた矢先にこれだ。


オレンジの玉を探したい年頃だから仕方がないのかもしれない。

や、探したい衝動に駆られるのは小学校低学年までか。

じゃあオレンジの玉は関係ないか。


などと、俺はとりとめもないことを考えながらパックの牛乳をストローで吸うことに専念する、フリをした。


「なんつったってこの学校の七不思議のひとつ!創立からの伝統!ちょー気になる!が・ぜ・ん気になるだろーがっ」


小柄な体躯ながら優津は声がでかい。

動きも大ざっぱでやたら身振り手振りが大きいし多い。

政治家の演説を小さくして聴いている気分になる。


「な、きーにーなーるー!」


大ざっぱな初動で俺が無視の道具に使用していた牛乳を奪い取り、優津は堂々とした声域で唸り上げた。

周囲に人がいない訳ではないが皆我関せず。

優津のこの様に慣れていて誰一人注意しない。

ちらりと目を向け思うことは一貫してこうだ、また優津かほっとこ。


「神宮高文化祭名物、老若男女を魅了して、来賓淑女釘づけ、これ見て演劇部に入りたがる中学生多数、神宮高創設者作『寒椿の寒空に』の影の主役『西洋貴婦人』!貴婦人の正体!みっ破ろうぜ、たねうまぁ!」


息もつかずにまくし立て、将来は弁士かと思わせるボルテージがやたら上がってきた級友に。


「有馬だ…」


変なあだ名を訂正して回る有馬こと俺は、牛乳を返して欲しくて熱弁最中もそれにずっと手を伸ばしていた。

けれど名前を堂々と間違えた優津にパックは握り潰された。

少量しか残ってなかったのが幸いして、優津は無傷、パックはグラマラス、牛乳はストロー口から少し零れる程度で済んだ。

前回は半分くらいのを潰して牛乳噴出大惨事だったから、いいのか。

いいや、良くない。

俺はがくりとうなだれて、


「お前…本当に憂鬱だよな…?」


荘厳な鐘が鳴り響く昼下がり、俺は優津と共に調査に乗り出すはめになっていた。

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