幼馴染が欲しくて、異世界転生〜彼女たちと【ごっこ】で作った国が、いつの間にか本当の国家になっていた件〜

エンジェルん@底辺作家

第1話幼馴染が欲しければ転生しな

 きっかけは、ボクの生まれた場所がど田舎だったからだと思う。少子高齢化社会、それをもろに反映した村でボクは生まれ育ったのだ。

 

 村にいた子どもはボクただ一人。あと全員が大人で、平均年齢は多分六十を超えていたんじゃないかな……。 


 同年代の遊び相手なんて当然いなかった。だからボクが三次元ではない別の世界に興味を抱くようになったなのは、必然のことだったと思う。

 

「今世は特訓! 来世は幼馴染!」


 いつしか、アニメやらラノベやらの二次元に頭をやられたボクは、本気で異世界転生を信じるようになった。

 そして同時に、そこに登場してきた幼馴染という神がかった存在に心底憧れを抱くようになったのだ。


 彼女たちなら、ボクに畑仕事を手伝わせることもなければ、肩揉みをさせることもない。

 ちびっこい頃は一緒に寝たり、一緒に風呂に入ったりなんかして、大きくなっても何だかんだいつもお互いの側にいる。幼馴染とはそういう存在だろう。


 ……うん。やっぱり憧れるよ。欲しい!!!


 しかし、今年から高校生になるボクの目の前に、幼馴染がふっと、湧いて出てくるなんてことはありえない。いくら二次元に頭を侵されていても、それくらいのことはわかる。多分。


 だからボクは、今世での幼馴染を諦めた。


 その代わり来世に備えて特訓をしている。来世で出会う大切な幼馴染を守るためにね。


 今主にやっているのは、


 空手、剣道、ボクシング、体力作り。


 大体は武術だね。


 本当は魔法の練習もしておきたいところだけど、残念ながらまだ魔力を知覚できていないから無理な話しだ。

 でもね、最近なんだか魔力を感じ始めた気がするんだよ。悟りを開いた効果かな?

 

 ボクの予想通り、地球世界にも魔力があるっぽいんだよね。人類がまだ知覚、発見に至っていないだけで……。だからボクがもうすぐで、世界で初めて魔力を知覚したという偉業を成し遂げるのさ。


 ……これって、ノーベル賞ものだよね? 

 

 いざという時のためにサインのパターンをもう少し考えておこっかな……。まだ八十パターンくらいしか用意してないしね。


 とまあ、こんな感じで、ボクの中にある熱は決して一時の熱病なんかではなかったというわけだ。


 ボクは別にそのことを誰かに理解して欲しいとか、共有したいとかなんて微塵も思っていない。みんなにはみんなの生があって、ボクにはボクの生があるだけ。今の時代多様性を尊重するものでしょ?


 だからボクにはこの世の全てを認め、受け入れる覚悟がある。


 ……もちろん、死が差し迫っている今もね。


 目の前のトラックが、ボク目掛けて突っ込んで来ているのがよくわかる。まるでボクとトラックだけにスローモーションが掛かっているかのようで、ゆっくりと考える暇すらあるよ。


「あっ、これボク死んだね。ようやく異世界に転生できる……………。幼馴染こーーーーーい!!!」


 瞬間、ボクの目の前が暗闇に覆われた。



○▲▽▲○



 結果として、ボクは無事に異世界転生を果たした。それと、


「今日はどこに行こうかしら?」

「近くの森の木々が紅葉を迎えている頃だと思います。そこに行くのはどうでしょうか?」

「それはいいわね!」


 念願の幼馴染もゲットした。しかも二人。

 神様って意外といるものなのかもしれないね。願ったことないけど。ボクの死線を越え続ける修行を見ていてくれたのかな? 

 

 みんなも幼馴染が欲しければ転生しな。そこにいるはずだから。


 と、そうそう。どうでもいいことだけど、一応自己紹介をしておくね。


 ボクの今世での名前はレグルス・ナジミー。今は十歳。


 王国の辺境にあるナジミー男爵家の嫡男だ。


 つまりはご貴族様に生まれ変わったわけで、そこそこ立派なお屋敷に暮らしている。

 

「ということで、レグルス君。これから近く森に紅葉を見に行きましょう」


 ボクの肩を揺らしながら提案をしてきたのは、メイドのディーナ。


 新雪のような白い髪とブルーサファイアのように透き通る青い瞳を持つ、人形のように整った愛らしい顔立ちの少女だ。


 彼女はボクの一つ歳上で、物心ついたときにはいつも側にいた。彼女の一家は代々この屋敷で使用人を勤めていて、屋敷暮らしをしている。それで、彼女はボクの遊び相手を勤めていたのだ。


 ……なんて幼い頃から働いていたかのように言ってるけど、ただただボクと一緒に野山を駆けていただけ。要は幼馴染でしょ。これ。

 もちろん一緒の湯船に浸かったこともあるし、同じ布団で寝たこともある。


 そして、


「レグルス。本なんてそこらへんに投げ捨てて早く行くわよ!」


 綺麗な黒髪を掻き上げながら、凛とした佇まいで言ったのは、


 ……って、今なんて?

 本を、何だって?


 とまあ、物を大切にできないキチガ……こほん。彼女の名前はセレナリカ・ペルティエ。ボクと同じ男爵家の嫡女だ。


 艶のある黒髪と空のように薄い青色の瞳を持ち、喋らなければ美人そのものの少女だ。

 あっ、あと剣を握らなければ!


 彼女はボクと同い年で、現男爵である父親たちが治める領地も互いに隣同士。


 さらにお互いの父親は、かつての大スタンピードで共に戦った仲かつ貧乏男爵ともあって、助け合いながら毎日を過ごしている。


 だからボクとセレナリカが仲良くなるのは当然で、もう一人の幼馴染である。


 ――そして、

 ボクの肩を揺らすのにセレナリカも加わり、顎がガクガクなったボクは、ついには本を読むどころではなくなった。


 が、

「はあ、仕方ないな」とため息をつきつつ、ボクは、ふっ、と自然に笑みをこぼしていた。


 その顔を二人がマジマジと見ていたことなんて知らない。


 サッと立ち上がりながら、本に栞を挟み、机上に丁寧に置き直した。


 ボクは道具を大切にするタイプでね。

 キチガイさんとは違って。

 

 ……それで。

 えっと、確か紅葉を見に行こうっていう話しだったよね?


 ……んまあ、風情なんて知らないけど、幼馴染と行くなら楽しいでしょ。


 それに、


「紅葉を見たらすぐに帰りますか?」

「それは……どうする?」


 ボクはこの三人でやるあれが好きだ。いかにも幼馴染って感じがする。

 森でなら、さらにスケールの大きいやつができるだろうね。


 二人の青い瞳がレグルスの黒い瞳を映し、返事を待っていた。


「それじゃ、ついでに『お国ごっこ』でもしよっか!」


 ボクは両手をグーにしながら、力強く叫ぶのだった。


 



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