第2話 魔法試験

 午後。剣術試験での疲れを癒した俺は、魔法試験の会場に向かっていた。


(さて、会場は...と、あれ?)


 少し行った先で、何やら揉め事が起こっているようだった。


「なぁおいお前ぇ、この俺様にぶつかっておきながら謝罪もなしかぁ?」


「ちっ、薄汚い平民風情が」


「この方はモーブ伯爵家のご子息なのだぞ!?」


「ご、ごめん……」


 おわぁ。思いっきり身分で差別してんじゃん。しかも取り巻きまでいるっていう…絶対甘やかされて育ったじゃん。


「あぁ?何タメ口聞いてんだ?てめぇは平民、俺は貴族だろうがよ!」


 ぶんっと貴族の男が平民の子に向かって拳を振り上げる。

 おっと、ありゃまずい。平民の子は無抵抗だ。


 パシッ


「ダメだろ?人を殴ったり、身分で差別したりしちゃあ」


「あ?誰だてめぇ?」


「教える義理はないね!」


「舐めてんのかっ!離せよ!」


「いやいや、だって離したら君、また殴ろうとするだろう?だから……《スリープ》」


 俺は手っ取り早くこいつを眠らせることにした。


「なんっ…ぐぅ...」


「坊ちゃんんん!?」


「貴様!何をした!」


「何って眠らせただけだよ。めんどくさいことになりそうだったから」


「無礼だぞ!この方は――」


「モーブ子爵家だったっけ?この学園では親の権力を笠に着ることは禁止されている。しかもそれで言ったら無礼なのは君たちのほうだけど。俺一応伯爵家の人間なんだけど」


「なっ…!?」


「大事にされたくなかったらそいつ連れてとっとと失せろ」


「し、失礼しましたぁぁぁ!!!」


「去るのが早い…所詮小物か……っと、君大丈夫?」


「は、はい。ありがとうございました。それと、申し訳ありません!」


「へ?なんで謝んのさ」


「なんでって、僕なんかのことで貴族の方の手を煩わせてしまって…本当に申し訳ございません!」


「うーん、特に問題ないんだけどなぁ。俺が助けたかったから助けたんだけど…じゃぁ一つお願い聞いてよ。」


「お願い、ですか?」


 ちょっとおびえたような様子で聞いてくるから、


「まぁまぁそんなおびえないで。簡単なことさ。俺と……友達になって!」


「え!?と、友達!?なんで!?」


「そうだね…強いて言うなら、俺友達いないんだよね!」


「そ、そんな明るく!?」


「いやね、生まれてこの方魔法と剣術の練習と魔物討伐しかしてこなかったもんだからさぁ。ね?いいでしょ?かわいそうな貴族を助けると思って!ね!」


 と頑張って説得すると


「な、なんて言えばいいんでしょう……えっと、僕でよければぜひ…?」


 と首を縦に振ってくれた。


「よ…」


「よ?」


「よっしゃあぁぁぁぁ!!人生初!友達ゲットォォォ!!!」


「そ、そんなに喜ぶことなんですか?」


「あったりまえよ!人生初だもん!あ、自己紹介してなかったね。俺はアリオスト・レグシェル!レグシェル伯爵家の三男だよ!よろしく!」


「あ、僕はルーノって言います。よろしくお願いしますアリオスト様…って、レグシェル!?あの!?」


「あーうん。なんか父様と母様がいろいろやってたみたいだね。ま、俺関係ないしー。ここではただのアリオストだしー」


「なんていうか軽いですねアリオスト様...」


「だってこっちのが楽なんだもん」


「もんって、貴族がそれでいいんですか…」


「いいんだよ~あと、アリオスト様ってのと敬語止めていいよ?俺のことはアーリー、って呼んでくれたら嬉しいな」


「分かりまし…」


 じー...


「...もー!分かったよ!これでいい!?」


 にっこぉぉ


「うん、ありがとうルーノ!改めてこれからよろしくね!」


「……うん、よろしく。アーリー!」


 アリオスト・レグシェル10歳。この世界に来て初めての友達ができました。

 ……おっしゃあ!!


「ところでルーノ、君も魔法試験受けるんだよね?」


「うん。合格しただけでも奇跡だと思ってるけど、せっかくならいいクラスに入りたいなって思ったんだ。だから魔法試験でいい成績を残したいなって思ってる」


「魔法得意なの?」


「うん。昔から魔法が大好きでね。幸い僕には魔法の才能があったみたいで、どんどん上手に使えるようになっていったんだ」


「そっか。俺と一緒だね!俺も魔法大好きだよ!」


「アーリーは魔法得意?」


「結構得意…かも?母様に教えてもらっていたし」


「へぇ~」


 そんな話をしていたら試験会場に着いた。すると、係員の人かな?


「お、ここだね。俺はもう少し後に試験だけど、ルーノは?」


「僕もだよ」


「じゃあ暇だし、他の人の試験でも見てよっか」


「そうだね…あ、あの人なんてどう?見てる人がいっぱいいるよ!」


「お、ほんとだ」


 そこでは、一人の女の子が試験を受けていた。小さな女の子に見えるけど、有名なのかな。


 魔法試験は、設置された50個ほどの的を時間内に何個破壊できるか、というものだ。これによって魔法の精度や連発力をはかるらしい。また、使える属性が多いと、少し評価が上がるらしい。少しってあたり、才能だけで評価してない感があっていいよなあ。


 オオオオ!


 そんなことを考えていると、歓声が上がった。見ると、さっきの子が試験が終わったようだった。なんと、的はほとんど壊されていた。


「すごいなあの子…」


「ね。なんか話を聞く限り4つの属性が使えて、しかも、どの魔法も精度がすごいんだって!《神童》って呼ばれてるらしいよ」


「ほえ~小さいのにすごいんだなぁ」


「……僕たちと年は変わらないよ?」


「あ、そっか!めっちゃ忘れてたわ~」


「アーリーってちょいちょい抜けてるよね」


「なぬっ、そんなことない、はず……ないよね?」


「知らないよ!僕は抜けてると感じたよ!」


 わぁわぁと言い合っていたら、ルーナの試験の時間になったようだ。


「次、ルーナ!前へ!」


「呼ばれたみたいだ。行ってくるね」


「行ってらっしゃ~い」


 さてさて、ルーナの魔法の腕はどのくらいかな?


「試験、開始!」


「まずは…『清らかなる水は、敵を穿つ』《ウォーターランス》!」


 ドドドドドッ!!!


 一気に10個ほどの的が水の槍に貫かれる。


「次。『鋭き風、敵を切り裂かん』《ウィンドカッター》!」


 並んだ5.6個の的が風の刃に切断される。


「最後に…『我が身に宿りし閃光、敵を散らさん』《ライトニングバースト!》」


 手の平より少し大きいくらいの光球が飛んでいき、着弾。刹那、光があふれ、収まればそこには無残に破壊された的だったものが10数個分ほどあった。


(い、いやいや、これ、結構すごいレベルじゃん)


「終了!」


 ルーノが戻ってくる。


「ふぅ。結構うまくできたかな?」


「ちょ、ちょいとルーノさんや。あなたこれ、得意ってレベルじゃなくないかい?すごすぎるんだが」


「そう?ありがとう!じゃあ僕はアーリーの楽しみにしとくね!」


「どっからそうなった!?ま、期待には応えますけどね!」


「次。アリオスト・レグシェル」


「お、呼ばれた。行ってきま~す」


「行ってらっしゃい、頑張って!」


「準備はいいですね?試験、開始!」


(そんじゃあまずは…)


「《ファイヤーボール》10連!」


 ボォォォォン!!!!!

 大きな音を立てて的が炭と化す。


「次は~っと、《ウォータージェット》!」


 キィィィィィン!ズガガガガガッッ!!!

 圧縮された水がレーザー状になり的を5個ほど両断する。


「どんどん行くぞー《ウィンドブレイク》!」

 

 ヒュヒュヒュヒュン!

 俺の周りに小さな風の刃がたくさん生まれ、一気に飛んで行ったそれは5,6個の的を破壊する。


「《ストーンバレット》!」


 ドドドドドッ!!!

 小さくはあるが鋭い土の塊が的確に的に命中し、10個ほど的は壊れる。


「ちょっともらうね...《ライトニングバースト!》」


 ルーノと同じようなことが起こるが、壊された数はそれを越えており、15,6個の的を破壊していた。


「ラストはちょっと派手に…《ダークウィーラー》!」


 俺の陰から黒い影のような、触手のようなものが飛び出て、それらは意思を持つようにうねうねと動きながら的に向かっていった。

 しかし、舐めてはいけない。この魔法は標的を補足したら最後、俺の魔力がある限り追跡し続けるのだ。今回は動かないただの的なので関係ないが。


 ビュビュビュビュビュ!!ズガガガッ!!!

 影は残った的をすべて壊し、俺の影に戻ってきた。


「ふぅ、おしまい…あれ?あの~、終わりましたけどー」


「えっ!あっ、し、失礼しました!試験、終了!」


(どうしたんだろう?俺の魔法がすごすぎて声も出なかったとか?なんつって、流石に無いわな)


「ルーノ~、終わったよ~。ただいま~」


「お、お疲れ様……じゃなくて!なに、あれ!?君の方こそ得意なんてレベルじゃなかったでしょ!ちょ、ちょっとこっち、来て!」


 ??そんな大事……か。よくよく考えたら大事だわ!初の友達やらルーノからの激励やらで浮かれてたけど、俺やばいんだった!!!


 ―――――――――――――――――

 作者です。


 詠唱考えるの大変でした。世の異世界作家さんたちはすごいなぁ…と。


 次回:怒られ……ないよね?((((;゚Д゚))))ガクブル


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 またお会いしましょう。ではでは~

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