ギャルゲー世界でヒロインの母親たちと恋します

三葉 空

第1話 陰謀と信念

 これは陰謀だ。


 俺はあくまでも部外者であるけど、イチユーザーでもある。


 熟女ヒロインの名手『しじみ汁』さんシナリオの新作ゲームを心待ちにしていた。


 予告の映像と文面を見ているだけで、心が躍った。


 しかし、そんな俺たち熟女好きの期待は、一瞬にして裏切られる。


 突如として、しじみ汁さんの降板が発表。


 代わりに抜擢されたのは、名も知らぬシナリオライター。


 そして、発売されたのは、テンプレギャルゲー。


 量産型のザ◯にも等しい。


 ザ◯でありザコゲーと化した。


 意味が分からなかった。


 確かに、昨今は熟女ブームとはいえ、相手は人妻であることが多い。


 不倫がご法度の今の世において、色々と不都合かもしれない。


 それが例え、フィクションの世界であったとしても。


 しかし、それでも、表現の自由は保障されているはずだ。


 だから、これは陰謀なのだ。


 恐らく、人気者のしじみ汁さんが社内でねたまれ、企画をかっさらわれたのだ。


 俺はそう思っている。


 その証拠に、当初ヒロイン予定だった熟女たちは、テンプレヒロインたちの母親役として登場する。


 テンプレヒロインたちは本当にテンプレで、ありきたりすぎる設定なのに対して。


 その熟女、母親たちは、キャラ設定がしっかりと考えられて作りこまれている。


 ちなみに、主人公もテンプレだ。


 けれども、その親友キャラは……燦然さんぜんと輝いている。


 親友キャラは快活で良いやつが多いと思うけど。


 それにしたって、こいつは輝きが違う。


 ああ、そうか。


 こいつが真の主人公なんだと。


 そう気付いた時、俺は違法に手を染めていた。


 今までの人生、犯した罪と言えば、ばあちゃんのサイフから、小銭をちょっとばかし拝借したくらい。


 ちなみに、ばあちゃんはそれに気付いていて、知らぬふりをしてくれた。


 とにかく、比較的に善良市民である俺だけど、今は違法に手を染めている。


 それは、ゲームの改造だ。


 ゲームの改造は、ネットで速攻に叩かれる。


 俺だって、そんな手法に手を染めるつもりなど、全くなかった。


 しかし……どうしても、あくなき欲望が湧いた。


 いや、これはそんなドロついたものじゃない。


 もっと確かな、信念に基づく。


「よし、これで……」


 このエンターキーを押せば、真のシナリオが現れる……はず。


 真の主人公と、真のヒロインが織りなす、めくるめく世界に出会える。


 本来、正々堂々とプレイできるはずだった、しじみ汁さんの極上の熟女ゲーム。


 俺はその世界に飛び込んで――


「――うっ!?」


 ふいに、パソコンの画面がきらめいた。


 一瞬、目が潰れてしまうんじゃないかというほどの光量に包まれて。


「……うわあああああああああああああぁ!?」


 天罰が下ったのかもしれない。




      ◇




 次に目を開けて、目の前の光景がしっかりと映った時、ホッとした。


 けど、見知らぬ風景だ。


 もしかしたら、ここは天国……?


 いや、それにしては、日常感が溢れている。


「一体、ここは……」


 声も、俺のそれではない。


 あれ、でもなんか、聞き覚えが……


元則もとのりぃ~! 朝よ、起きなさーい!」


 部屋のドアの向こうから、せわしい声が聞こえて来る。


「……元則?」


 それは俺の名前ではない?


 あれ、でもなんか、これも聞き覚えが……


「……あっ」


 俺は思い立ち、立ち上がる。


 部屋に姿見があった。


 まだ若い男子の身分で、随分とマセている……


「……えっ?」


 映ったのは、やはり若い男子の姿。


 これは俺ではない。


 けど、俺と言っても過言ではないかもしれない。


 だって本来、俺の分身になってくれるはずだった奴だから。


「……須郷すごう元則」


 俺はこいつの名前をフルネームで呼ぶ。


「これって、もしかして……ギャルゲー転生ってやつ?」




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