第二節 双子のイケメンと清原王の恋

第二十三話

 黄葉もみじばが東宮御所に上がったのは、十六歳のときだった。


 いずれ迎えられる皇太子妃付きの女官として、勤めに出たのだった。(ちなみにそのときの皇太子妃と目されていたのは光子ひかるこだった。)

 成人したばかりの黄葉もみじばは親元から離れて、とても心細く思っていた。また、同時に皇太子妃付きの女官ということで、緊張してもいた。


 そんなある日、黄葉もみじばは失敗してしまった。

 運んでいた卵を割ってしまったのだ。それも籠に入っていたもの、全て。

 困って涙を浮かべて四阿あずまやに座っていたら、八束やつかが通りかかった。


「どうかしたの?」

「……卵を割ってしまって……どうしよう……」

「……そうか」

 八束やつかはまず、割れた卵を片付けた。そして、黄葉もみじばに言った。

「ここで少し待っていてくれる?」

「え?」

「すぐに戻ってくるから」

 八束やつかは空の籠を持って、そしてしばらくして、息を切らして戻って来た。

「はい」

 見ると、籠には卵がいっぱい入っていた。

「あの」

「これで、怒られない? だいじょうぶ?」

「はい、でも、あの……!」

「よかった! じゃあ、おれ、仕事があるから」



「なるほど。それで好きになってしまった、と」

「それだけじゃありません! その後、八束やつかさまと真楯またてさまが清白王きよあきおうの側近だと知って、……ずっと見ていたんです。八束やつかさまは無口だけど、とても優しいんですよ。この間は木の上に登って下りられなくなった子どもを救けていらっしゃいました。清白王きよあきおうをいつもしっかりと護っていらっしゃるし。そういう仕事ぶりも素敵で」

 黄葉もみじばは顔を赤らめる。


「そっか。……じゃあね、あたしが八束やつかといっしょに七夕しちせきの祭りにいけるよう、とりもってあげる!」

「え? な、なにをおっしゃるんですか? ――いいんです、わたし、見ているだけで幸せですから」

「見ているだけじゃ、何も進まないわよ!」

「だってだって!」

八束やつか真楯またてははき氏よね」

「はい」

「乳兄弟ということだけど、母君は、今はははき氏の屋敷にいらっしゃるのかしら。紫微宮しびのみやじゃなくて」

「そうだと思います」

「じゃあ、あたし、ははき氏の館に行ってくる!」

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