第4話 非日常の日常④

(ああ~~……またやってしまったあぁ)


仕事が終わり、尊は店を出て鎌倉駅へと向かう道の途上にいた。

めちゃくちゃに具合が悪い。

自業自得だ。

それは分かっている。

さっきのアレを、自分に『取り憑かせた』からだ。

どうしてだか分からないが、尊にはそういう能力もあった。

『他人に憑いているモノを引き寄せられる』という全く有り難くない能力である。欲しかったのはこれじゃない感が半端ない。


幸運を引き寄せる人を引き寄せ体質などと言ったりするが、これは真逆な引き寄せだよなと、ついつい自虐的になる。

最初は偶然だったが、自分に引き寄せることが出来れば『怪しげなモノは消える』と――幸か不幸か分かってしまった。

そうと分かると霊に取り憑かれた人間の前を素通りしにくくなるのも、この能力の困ったところなのだ。


自分に憑かせると具象的な姿は視えなくなるのが常で、その代わり、頭痛や吐き気など身体的な苦痛に苛まれる。

それが何時間か何日か続き、しばらくすると消える…というのがこれまでのパターンだった。

今回は、いきなり重めの症状がガツンと来た。吐き気もだるさもあるし腰も痛い。

尊は真っすぐ歩けず少しずつヨロヨロと進んでいく。

仕事中は何とか耐えたが、今はかなりツラい。

駅まで二十分くらいの道のりが永遠のように長く感じる。

はぁと息を吐き、冷や汗を拭う。駅までたどり着く前に、公園でもどこでもいいので、一度座って体を休めたかった。


そう言えば、と、尊はふと上着のポケットを探る。パティスリーの先輩が最近見つけたとかで、今朝勧めて来た店のカードが入っているのを思い出したのだ。


『日本酒Bar ななつ星』


カードの裏に描かれた地図を見ると今いる所から近い。五分もかからない場所だった。

とてもお酒を飲める状態ではないが、休めるならどこでも構わないと藁にも縋る気持ちで尊はその店に向かうことにした。


それが自分の運命を変えることになるなんて、全く思いもせず――。

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