第47話変態になりさがりましたか。

私は今、王宮のお風呂に入っている。

お風呂とは言えない湖のような広さに赤い薔薇の花びらが浮いている。

明らかに先ほどまで咲いていたような生き生きとした花びらだ。


サム国が世界一裕福な国だとは知っていたが、お風呂が100人以上入れるような湖で薔薇の花を毎日無駄遣いできるレベルとは知らなかった。

「このようなお風呂に入っていたら、まるで毎日使い捨てしてそうな薔薇の花びらのように女性を扱ってしまうのかもしれないわ。」

私の体をひとしきり洗ってくれたメイドを下がらせ、私は薔薇の花びらの浮く湖のようなお風呂にいてレイモンドのことを考えていた。

明らかに生き生きとしている薔薇の花びらは先ほどまで咲き誇っていたものだ。

高級なバラを1000本以上毎日使い捨てにしているのは明らかだ。

この後大勢の使用人がこのお風呂を使ったりしないのだろうか、この薔薇風呂を無駄にしたくなくてもう30分以上入っているのに誰も入ってこない。


「私が出ないから、入ってこないのだわ。」

私は自分が客人であることに気がついた。

流石にこのような贅沢な湖のような薔薇風呂を王宮に住み込みのみんなが使わないはずがない。


私は風呂から上がると用意された部屋に入った。

50人以上は入れるような広い部屋の真ん中に10人くらいが寝れるような豪華絢爛なベットが置いてある。

どうしてこんな大きなベットが存在するのだろう、博物館のように周りの調度品も高級なものばかりで壊してしまうのが怖くて身動きがとれない。


帝国の皇宮も高級な調度品が並んでいるけれど、ここはその比ではない。

泥棒が入られたらどうするつもりなのだろうか、サム国の国民の国に対する満足度は高いけれど王族がこんな訳のわからないレベルの高級な生活をしていることは知っているのだろうか。


用意された部屋着は私にぴったりで、高級な素材で作られていた上に服に興味のない私でもわかる可愛いデザインだった。

勉強をしようと思ったけれど、雑念が多すぎてもう寝た方が良いと思いベットに横になった。


薄れゆく意識の中で、扉のノックの音がしたので目覚めた。

しつこいくらい続く音に不安が募る。

今が何時かわからないけれど、このようにしつこく扉を叩くような人間がいるのだろうか?


「エレノア、寝てしまったのですか?」

扉の向こうから、レイモンドの声がした。

私が王宮に宿泊していることが露見してしまっているようだ。


「寝てしまっています。お休みなさい、レイモンド。」

私は扉ごしにいるであろう、彼にこたえた。


「今、嘘をつきましたね。エレノア・アゼンタイン。」

私は扉ごしに聞こえるレイモンドの声に震え上がった。

彼に二度と嘘をつかないと、この名において宣言したばかりだった。


私は慌てて扉を開けると、レイモンドが部屋に入ってきて扉を乱暴に閉めた。

「あの、エレノア・アゼンタインというのはどなたのことでしょうか。私はエレノア・カルマンと申します。」

自分の名に誓ってまで嘘をつかないと約束をしたのに、嘘をついてしまった。

彼が怒っているのかと思い、怒られるのが怖くて咄嗟に厳しい言い訳をした。


怖くて彼がどんな表情をしているのか見れない。

私は彼の腕を引っ張って、ベットに座らせ自分は彼の膝の上に座った。

「もしかして、私が怒るようなことをさせてしまいましたか?どのようなことをしたらあなたの怒りを沈められるのかしら?」

私は彼の瞳を見つめながら、彼の胸にもたれかかり彼の顔を撫で回しながら囁くように伝えた。


「怒ってなどいません。ただ、心配で。寝巻きとても似合っています、用意しといてよかった。」

明らかに彼が動揺しているのが分かった。

私から目を逸らし、少し震えている。

そして今着ている寝巻きは彼の趣味で彼が用意したものだということが分かった。


「心配してくださっているのですか、私のことを。」

彼の黒髪に指を通しながら告げた言葉に彼は掠れた声でこたえた。

「赤い薔薇を嫌いだと言っていたのに、赤い薔薇の花びらを浮かせたお風呂に入られられたと聞いたから。」

彼の言葉に本当に私のことが心配で彼が部屋に来たのだと感じた。


赤い花が嫌いだったのはカルマン公爵家での苦しい時を思い出したからだ。

あの花が魅了の力の原因だったと、アーデン侯爵令嬢が伝令で伝えてくれた。

もう、あの花を怖がることはない。


「エレノア、あなたを愛しています。」

突然、彼にベットに組み敷かれる。

「4年近くの女断ちで、少女に手を出そうとする程の変態になりさがりましたか。不快ですので退室してください。」

私は彼を押し退けて、部屋の扉を開けた。


「あの、エレノア・カルマン公女はどちらに行かれたのでしょうか?また、お会いしたいのですが。」

レイモンドが私に言われた通り、扉の方に向かいながら遠慮しながら語りかけてくる。


「知りません。私は孤児院の野良猫エレノアです。少女に欲情する大人を憎みます。気持ち悪いです。出てってください。」

私は彼を部屋の外に押し出すと、扉を閉めた。




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