第5話 ボンゼラン魔使具商会

リラス親方の仕事が終わり、穏やかな数日が過ぎた。しかし、そんな日々は長くは続かない。


またしても”あの”店とのトラブルが発生したのだ。あぁ、本当に腹が立つ。もう完全に、ボンゼラン魔使具商会とは縁切りだ。これまでの契約に関するこちらの質問には一切応えず、新たな交渉をもちかけてくる。もういい加減、堪忍袋の緒が切れた。紹介者の手前もあるが、ボクは同商会との縁切りを決断した。


ボクも仲間内では、それなりに名の知れた魔法使いである。そのボクが同商会との関係を断ったと知れれば、ボンゼラン商会の評判はある程度は下がるだろう。勿論、あちらも対抗手段を取ってくると思われる。ある事ない事ウワサを流し、ボクの評判を貶めようとするかも知れない。しかしそういったトラブルがあったとしても、僕の決意は変わらない。


あそこを紹介した人には、明日一番で魔法電信を打って仁義を通す事とする。費用は掛かるが仕方がない。電信はすぐに届くから、昼前にはボンゼラン商会に絶縁状を叩きつけに行ってやろう。どれだけ懇願されても、絶対に撤回する事はあり得ない。


翌日の昼過ぎ、紹介者に魔法電信を打ったあと、ボクはその足でボンゼラン魔使具商会へと赴いた。契約の全面解除を言い渡すためだ。店舗に入る時、多少の緊張感はあったものの、なに、凶悪なモンスター相手に戦う事を思えばどうという事はない。


商会側の対応だが、案の定、最初はポカンとした顔をしていた窓口係が、段々と状況を飲み込んでいくにつれ、みるみると顔色を変えていく。すぐに上司を連れて来て、お得意の謝罪と説得工作が始まった。


しかしそんなものを聴く気はサラサラない。こちらの行為は法的に何ら問題のない点を強調すると「おかしいですね~、そんなはずは、ないんでがね~」等々、自分たちのしでかした事を矮小化する言いわけの山を築き始める。


こちらはそんなものに付き合う気はないので、簡単な決別の言葉を述べた後、颯爽と出口へと向かった。その途中、店の責任者がうしろで「覚えておけよ……」と呟いたのをボクは聞き逃さなかった。


振り向きざまに「あぁ、覚えておくよ、100年でも200年でもね。ボクの種族がそれくらい生きられる事を、知らないわけじゃないだろう」とニッコリ。


相手には聞こえないであろうと思った独り言を返され、驚いたようなバツの悪いような顔をする責任者。そんな彼を尻目に、ボクは意気揚々と店を出る。多少大人げないとは思ったが、これまで被って来た被害を考えれば、まぁ、可愛いものであろうと、ボクは一人微笑んだ。

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