第3話 ボンゼラン魔使具協会

今日は朝から気が重い。かねてより問題のあったボンゼラン魔使具商会との契約に不備が発生したのだ。


この商会とは、世話になった知人からの紹介で取引きをするようになったのものの、トラブルが絶えない


彼らは魔使具に関する能力そのものには問題ないが、商取引という観念自体に大きな欠落がある気がする。まるで学園祭の出店でも運営するかのような感覚で、商売をしているとしか思えないのだ。


そのおかげで、こちらの行動が制限される事が多く、何度も注意するように申し入れたが一向に改善する兆しがない。その度に謝罪の言葉のみがあるだけで、また似たような事を繰り返すのである。


いい加減、縁を切りたいところだが、紹介者の面子を考えればそうもいかない。こちらとしても、きちんと常識的な取引きをしてくれれば問題ないので本当に悩むところだ。だが、それもそろそろ限界だ。紹介者に仁義を通したうえで、スッパリ縁を切るか……。


今回のトラブルは、3カ月前に購入した魔使具が壊れた事だ。魔法使いと言えども、仕事の効率化を図るためには魔使具の使いようが重視される。だから魔使具を使わないという選択肢はない。もっとも、魔法使いの中には「魔法使いが魔使具を使うなど邪道」と息まく連中もいるが、ボクは意に介さない。


魔使具も機械なので当たり外れがあるのは仕方ないが、保証内容でこれまたいい加減な対応をされ困っている。理想的には予備の物を準備しておく事が望まれるけど、ちょっと値段が高かったので躊躇していたのが裏目に出たか。まぁ「壊れたら、普通に魔法を使えばいいか」と甘い考えをもっていた事が悔やまれる。


……なんて考えていたら、また新たなトラブルが発生。弱り目に祟り目って奴だ。魔法に関する書籍を本屋に注文していたのだが、その宅配時間に家に帰り着く事が出来るかどうか、非常に微妙なタイミングに見舞われた。


近所の本屋では注文すら出来ない書籍で購入を諦めていたものの、仕事で遠出をした時にタマタマ立ち寄った専門店で注文出来た代物である。半月もあれば手に入るという事だったので、余裕を見て1カ月後の午後9~10時の配送としてもらった。


魔法電信で書籍の入荷を知らせてもらう事も出来る。しかし、いかんせんこちらが電信代を負担しなくてはならないし、結構高額なのもネックとなりそれはやめておいた。そのため到着日は家に居ようと仕事の調整をして万全の態勢で到着を待つ予定だったのに……! どうしてもとの急な仕事を依頼された結果が、本日の有り様となった次第である。


結果から言えば、ギリギリのタイミングで間に合った。だがもし間に合っていなかったら、相当に面倒な事態となっていたと思う。


あ~、本当に間に合って良かった。夕食を済ませた後、早速待望の魔法書の読破に挑んだが、昼間の目が回るような忙しさの疲れが出てしまい、早々と就寝する事とした。晩御飯を食べた後、しばらくしてベッドに潜り込み朦朧とした意識の中で考える。


次は、いつ”あの部屋”に行って時を過ごそうか。ボクがマジックエッセンスを集めているのも、いやこうして生きているのも、彼との巡り合う為だ。あと何年、いや何百年過ごせば、その願いは叶うのだろうか。


あの部屋で時を過ごせば、今の知り合いの多くはいなくなる。そののち、生活を安定させるのには幾年も掛かるだろう。もちろん、今すぐというわけではないけれど、いつの日にかまた決断しなければならない。それは何年あとだろうか、それとも何十年あとだろうか。


こんな事を考えるのも、あの魔法書を読んだせいかも知れない。あの本はボクと彼が過ごした時代の事が少しは書いてある。不正確な所も多いけど、今では貴重な書と言えるだろう。記憶の彼方に消えかけた彼との思い出を頭に浮かべている内、本格的に睡魔が襲ってきたようだ……。その夜は、悲しいような嬉しいような夢を見た。

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