間違ってヤンデレちゃんを魔法少女にしてしまった…後悔しても遅いけど……

カモシカ遊歩道

夏の日

「りょーく〜ん、あついよぉ〜」

「そう思うなら離れろって…」

「離れるのは嫌だけど〜」

「はぁ……」


 強い陽射しが窓から照りつけ、例年よりも気温が上がっている夏本番

 とある一軒家の一室で二人の男女がぴったりと密着していた。


「なんでエアコンしんでるのぉ〜」

「昨日壊れたんだよ…業者に電話しても最近忙しいから一週間後って言ってたし…」

「えぇ〜扇風機だけじゃ私しんじゃうよぉ〜」


 二人は一台の扇風機の前で密着している。

少女は少し大きめのクッションに腰を置き、床に座る青年の肩に自分の顎を起いて、後ろから抱き締めている。

 少女は少し汗ばんでいる。対する青年は額から汗を流し着ているシャツをパタパタとはためかせて、目の前の強風に設定した扇風機から風を受けている。


「じゃあ自分の部屋で涼めよ…美香の部屋はエアコン生きてるんだろ?」

「私はりょーくんの部屋で涼みたいのぉ〜」


 暑い…とにかく暑い……

 昨日エアコンが壊れたせいで、家の物置きから引っ張ってきた扇風機一台で、修理まで過ごさないといけないのは仕方が無い…

 俺一人なら扇風機一台で過ごす事ができただろう…だが俺は油断していた。

 彼女はエアコンが壊れていると知るといなや、『じゃあ一緒に扇風機の風当たろ〜』と目を輝かせ俺の背中に引っ付いて来たのだ。


「プールでもゲームセンターでもいいから、涼しい所行きたいぃ〜」

「一人で行ってこいよ、美香が引っ付いてるせいで俺は暑いんだよ…」

「私はりょーくんと行きたいのぉ〜」


 その結果がこれだ。

 今もこうして俺の背中に引っ付き、暑い暑いと言いながら扇風機に向かって『あ"〜』と声を出している。


「もう私の家行かない〜?今日は熱くて耐えられそうにないよぉ〜」

「うーん……」


 誰もが飛びつきたくな提案である。

この暑い部屋を抜け出して、エアコンが効いた涼しい部屋で過ごせるならば、今すぐにでも飛び出したいだろう。

 しかし彼は決断を渋っていた。


「ねぇ〜行こうよぉ〜前みたいな事絶対しないからさぁ〜ねぇ〜いいでしょ?りょーくん〜」


「でもなぁ……」



 それは一ヶ月ほど前、凌羽が彼女…北条美香にお呼ばれして家に遊びに行った時の話。


その時佐藤凌羽は、北条美香に襲われそうになったのである。



 普段と何ら変わらない雰囲気だった。小学校の時、初めて出会っときから変わらない距離感。

 美香の部屋で勉強して、疲れたら部屋にあるゲームをして遊んでいた。


 一時間程経っただろうか、美香の親が買い物に出ていった。

 それに合わせたように美香が『飲み物取ってくるね!』と二階にある美香の部屋から一階にあるキッチンへと降りて行った。


 しばらくして、美香が飲み物をのせたおぼんを持って部屋に戻ってきた。

 『はいどーぞ』と冷えたオレンジジュースが入ったコップを俺に渡す。

 俺もそれを『ありがと』と軽くお礼を言ってから口に含んだ。

 今までもこうして美香の部屋に来てゲームをする事は沢山あった。だから完全に油断していた。


 違和感に気づいたときにはもう遅かったのだ。

 少し経つと急に眠気が襲ってきた。

 美香を横目に見ると、こちらを見てニコニコと笑ってる。

 それだけならいつもの事だ。俺がやっているゲームを美香はじっと見ているだけ。たまに『私もやりたい』と言うが基本的には何も言わずに俺に引っ付いている。


 でもその日は違った。

 オレンジジュースを渡してきてから、俺に引っ付く事もなく、ただ俺の方をニコニコと笑顔で見つめていた。

 美香の部屋の机に置かれたオレンジジュースを見る。俺が飲んでいた方のコップは空になっている、だが美香のコップは手を付けられて居なかった。


 『どうしたの?りょーくん、眠い?』


 その時何かされたと分かった。

 徐々に意識が朦朧としてくる。

 『りょーくん眠いんだよね?ちょっと私のベットで横になろっか。』

 耳元でそう囁いた美香は、俺の脇に手を通して持ち上げると、俺を可愛らしい人形が置いてあるベットに寝かせた。

 横になった途端、我慢の限界が来てしまい俺は眠りについてしまった。


 次に目が覚めたとき、時計の針は三十分程しか動いていなかった。

 三十分では何もできないだろう、そう思って少し安堵したのだが……

 下半身が少し涼しい…恐る恐る目線を下に向けると……


 『んぁっ…んむっ…りょーくん…起きちゃった?…んむんむっ…あむっ……』


 美香は咥えていた…

 何とは言わないが、俺のナニを咥えていた。

 それだけじゃない、ナニを咥えながらスマホで自撮りをしているのだ。俺が少しだけ写るように…


 パシャパシャ…


 『えっ…なにしてんの………』


 何をしているか…そんなの見れば分かる。俺のナニを咥えて自撮りをしているのだ。

 でも混乱しすぎて聞いてしまった。


『んはっ……えっ…記念撮影?』


 俺を見つめては首を傾げる美香に恐怖心が生まれた。

 その瞬間、俺は美香を突き飛ばしてしまう。

 美香はベットと壁の隙間に転げ落ち、すっぽりとハマってしまった。

 『痛い…痛いよ…りょーくん……』と潤んだ声が聞こえてきたが、俺はそれを無視。ベットの横に丁寧に畳んであったズボンを履いて急いで美香の家を出た。


 その日の夜の事、美香から大量の連絡が来た。

 夜の間だけで着信は百件以上、メールに関しては三百件以上である。

 大体の内容が、『ごめんね』『もうしないから』『許して』『りょーくんのしたいこと何でもするから』『声聞きたい』『ほんとは見てるんでしょ?』など許しを乞いたいのか、欲望を満たしたいのかよく分からなかった。が、狂気に染まっている事だけは理解できた。

 いつもはすぐ返さないと美香が怒るのだが、その日は少し気が立っていた事もあって、全ての連絡を未読スルーして早めに寝た。

 

 次の日の事。

 美香が謝りに来た。

 俺が好きなお菓子と昨日履き忘れたパンツを持って…

 親に察知されてギクシャクするのも嫌だったので、その日はそれで手を打つ事にした。


 本人は反省してるみたいだしな。

 そして今に至る。



「ね〜りょ〜く〜ん頼むよぉ〜溶けちゃうよぉ〜」


こうして俺によりかかりスライムのように、とろけている美香を見ていると安全な気がしてきた。


「暑いし……いくか」


「うんうん!それがいいよ!えらいえらい!はやくいこ!こんな暑いとこから涼しい私の部屋へ!ついでに同棲もしよ!」


「同棲はしない。」


「もぉ〜りょ〜くんったら〜」


 財布とスマホを持った。

 家の扉を開けるとそこは灼熱地獄。太陽がギンギンと照りつける地獄と化していた。


 そんな地獄の中でも、美香はしっかりと俺の手を握り隣を陣取っている。

 正直暑いから辞めてほしいのだが、この暑さの前では口を動かす事すら面倒に感じる


 美香の家までは歩いて五分程度。

 一本道の中にお互いの家がある為、迷うことは無いし、お互いの家からお互いの家が見える。

 はやくはやくと美香に急かされながら歩いていると、突然それは現れた。


「君を魔法少女に任命する‼」


 白く小さい体、大きな目、ウサギのように大きく垂れた耳、無駄に渋い声、言葉で表せる特徴はこれくらいだが、この手のひらサイズの生物?が宙に浮いて喋っていた。

 とりあえず白くて小さくて浮いてる奴と仮名しよう。


「君にはこれからこの国を襲う怪獣や怪人を討伐してもらう!」


「無理」


 美香は冷たくそう言い放つと、俺の手を掴んで再度歩き出した。


「魔法少女になれば君は何でもできるようになる!」


白くて小さくて浮いてる奴は美香に向かってそう言った。さらに美香へと言葉を投げる。


「君の努力次第ではあるが、魔法を使って飛んだり、姿を消したりできる!」


「それ……」


 今まで無視を貫いていた美香が足を止めた。


「ほんとに何でもできるの?」


「魔力の力は無限大!横にいる冴えない男をイケメンにすることだっ…ぁあぁあぁっ!」


「りょーくんは今のままでイケメンだろうがよぉ?おい、なんだお前?謝れよ?」


 文字で表すなら ぶにゅうぅぅぅぅっ!って感じだろうか。

 伸ばされた美香の手に、白くて小さくて浮いてる奴は収まり握られていた。


「謝る!謝るから!……ふぅ…」


「次言ったら殺すから。じゃあね」


 白くて小さくて浮いてる奴はクッキリと美香の指の跡がついていた。

 美香は再度俺の手を取り歩きだそうとした。

 

「なぁ美香、なんかこいつ可哀想だし、話だけでも聞いてやったらどうだ?」


 少し勧誘がしつこかったとはいえ、初見の相手にアイアンクローを食らわせてハイサヨナラは可哀想だ。


「まぁ……りょーくんがそう言うなら…」


「よし!では、魔法少女のぉっ!」


 美香は白くて小さくて浮いてる奴の長く垂れた耳を掴んだ。


「とりあえず私の家で話そ、暑いし。」


「そ、そうだな……」


 こうして俺と白くて(以下省略)は美香の家にお邪魔した。

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