第5話

いつものように道場の門をくぐる。


そこには珍しいことに道主が立っていた。


「アレン。最近、変わったことはないか?」


「変わったことですか。特にないですけど」


変わったことはアリアが先輩達に相手をしてもらっていることだが、アリアから道主には絶対知らせないでと頼まれていた。


「ふむ・・・。そうか」


それだけ言って道主は道場に戻る。


道主は結構忙しい。


多くの門下生を抱えているからだ。








いつものように素振りを開始する。


少し遅れてアリアがやってくる。


息は荒く、はぁはぁいって服は汗を吸ってびしょびしょだ。


「どうしたの?遅かったけど」


「先輩達が朝から相手してくてたの」


「へぇ。不真面目な先輩達がねぇ」


アレンの感覚では先輩達はそんな真面目な風には見えない。


朝から相手をするだろうか。


「まぁまぁ。そんなことはいいじゃない。今日も頑張ろう」


アリアはそう言って素振りをはじめてしまった。


アレンも慌てて素振りをする。


アリアの横顔を見ようとちょっと顔を横に向けるとアリアと目線があってしまう。


「何?何かついてる?」


そう言って髪や顔をぺたぺた触っている。


その行動の意味がわからないが答える。


「いや、いつも通りだよ」


「そう」


どこか焦っていたようにも見えたが何かあったのだろうか。


疑問には思ったが素振りを続けた。


そして3時間ほど経った頃、やはり先輩がアリアを迎えにやって来る。


「おう。今日も嬢ちゃん借りてくぜ」


「あっ。はい」


何故だか胸がもやもやする。


その理由はわかっている。


今までアリアとの時間は自分だけの物だった。


それが横からやってきた先輩達に奪われ続けている。


だが、今の自分は弱い。


自分と修練を続けるよりも強い先輩達と修練を積んだ方がアリアの為になるはずだ。


「アリア。頑張ってね」


「う、うん・・・」


アリアの顔はどこか沈んでいるようにも見えた。








アリアを見送ってからもやもやを晴らすように素振りに没頭する。


思い出すのはボコボコにされたあの日だ。


もっと自分に力があればアリアのあんな顔を見ることはなかった。


自分の宝物であるアリアとの時間を盗られることもなかった。


全ては自分の弱さのせい。


もっともっと修練して強くなれば取り戻せるはず。


それだけを目標にひたすら木刀を振るう。


アリアがその時間、どんな目にあい。


どんな気持ちで過ごしてるかも知らずに・・・。

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