第38話「魔王には言われたくない」

 復活したラスボスの魔王ソルティアを倒して従属させたと言っても、これでハッピーエンドとはいかない。


 原作的にはまだ何もはじまってないし、そもそも本来の目的はオルロのほうだ。

 

「あ、あのう……」


 これだけド派手に戦ってエルフたちに気づかれないはずもなく、集団がおびえをふくんだ目でこっちをうかがっている。


「ああ、すまんな。試練をクリアしたのはいいが、ちょっとやりすぎたようだ」


 ウーノが笑うと


「い、いえ、ご無事で何よりです」


 と答えたエルフの長の顔が引きつった。

 これぞ最強のボスって感じで大暴れだったからね。


「そちらの女性は?」


 長は遠慮がちにではあるけど、ソルティアのことを聞いてくる。


「試練をクリアした結果、仲間になった」


 とここで俺が返事した。


「そうでしたか。そのような試練だったとは知りませんでした」


 というエルフの長の答えからするに、彼らはソルティアのことは知らなかったんだな。


 知っていたらそりゃよそ者に試練を受けさせるはずもないか。


「我々は修復は苦手でな。申し訳ないが頼んでかまわないか?」


 とウーノは要求する。

 しれっと後始末を押し付けたな。


「ええ。仕方ないでしょう」

 

 エルフの長はあきらめた顔で受け入れる。

 よそ者たちにあんまり長居されたくないって気持ちもあるのかも。


 さてとオルロのことはどう切り出そうかと迷っていると、金と銀の瞳を持ったエルフの少女が前に出てくる。


「あの! わたしを連れて行ってもらえませんか!」


「オルロ、何を言いだす!?」


 エルフの長が驚いて𠮟りつけた。

 やっぱりこの子がオルロなのか。


 この展開は想像してなかったけど、俺にとっては都合がいい。


「べつにいいぞ」


「!? 何をおっしゃるのか!?」


「ありがとうございます!」


 俺の返事に驚愕して叫ぶ長を無視するように、オルロ自身は笑顔で元気よく礼を言う。 


 この子、いい性格してるみたいだな。


「お待ちください! このオルロはエルフの一般的な魔法を使えぬ身! エルフと思っているときっと後悔いたします!」


 長があわてて早口でまくし立てる。


 ああ、オルロが期待外れだったら、自分たちに怒りの矛先が向けられるかもしれないからか?


「なるほど。そっちのほうがいいかもな。珍しい魔法を見てみたいものだ」


 これは本心ではあるけれど、事実とは言いがたい。

 オルロが使える特殊な魔法、知識としてはすでに持っているからだ。


「が、がんばります」


 俺の言葉を自分への期待と受け取ったらしく、オルロの顔が緊張でかたくなった。


「じゃあ今度こそ引き上げるとしようか」


 と俺はみんなに告げる。


 長居したらエルフたちに迷惑がかかってしまうだろう。(すでに充分かけてるという点は置いておく)


 ウーノとふたりで来たのに、戻るときはシンクエ、ソルティア、オルロが増えていたが気にしたら負けかな。


 【庭】に戻ってみんなと合流する。


「えっ、誰?」


 とトーレが聞いたのは当然ソルティアに向けてだ。

 エルフ・オルロのことは事前に共有していたし、シンクエとは面識あるからな。


「まさか魔王ソルティアを連れてくるとは。仲間にしたのか?」


 とクワトロが驚きの声を放ち、ドゥーエとトーレが驚愕の視線を俺に向ける。


「えっと、魔王?」


 ドゥーエの困惑はわからなくもない。

 見た目は彼女よりも幼い少女だからだ。


「魔王は女って情報は本当だったの?」


 トーレの言葉に俺も驚く。

 驚きの多段ヒットである。

 

 こっちの世界ではそんな情報があったのか。


「え、魔王?」


 オルロが話についてこれずに硬直している。

 あとでフォローがんばる必要がありそうだ。


「こいつらが仲間なの? ずいぶんとすくないけど……」


 呆れた顔がこわばって警戒に変わったのは、クワトロを見たときだった。


「何でこんなのが? えっ? こいつもあんたの仲間?」


 ウソでしょ、と言いながらソルティアは俺に聞く。


「気づいたら仲間になってた」


 クワトロはウーノが連れてきたんであって、俺が勧誘してきたわけじゃないんだよな。


「地神龍と邪精霊とニブルヘイムって、あんたは世界でも滅ぼす気なの?」


 うすら寒い表情で俺を見ているのは気のせいだろうか。


「え、え、え?」


 オルロが混乱しているが、ニクスとフィアも同様だ。

 彼女たちもウーノとクワトロの正体を知らないはずだからな。


「たしかにやべー戦力が集まってきてるかもしれないけど、世界を滅ぼす魔王には言われたくないんだよなあ」


「それはたしかに」


 俺の言葉をウーノ、ドゥーエ、トーレ、クワトロ、シンクエが肯定して、いっせいに笑う。


「いや、あたしなんて可愛いというか、あたしと部下が全部束になっても勝てない超ド級戦力じゃん?」


 ソルティアが納得してない表情で、ひとりぶつぶつ言った。


「そういや、ソルティアには部下たちがいるんだったよな」


 四天王って呼称じゃなかったけど、三大幹部がいてそれぞれ軍団を従えるって設定だったかな。


 こっちの世界ではどうなってるかわかんないけど、ゲーム的な優秀な部下たちが揃っていた。


「うん? いっそのことこいつの部下ももらっておくか?」


 とウーノが言うと、


「実現すれば戦力の拡充という課題が一気にはかどるな!」


 クワトロも乗り気になって、ソルティアの表情が引きつる。

 

「まさか貴様に拒否権があると思っているんじゃないだろうな?」


「お、思ってないです」


 ウーノの圧力にソルティアは屈した。

 

「まあ、みんなまとめてきみが管理下に置くなら、世界は平和に近づくね。ボクは反対しないよ」


 とシンクエが話のわかるところを見せる。


 ニクスとオルロはまだ成長途中だから、即戦力になれる魔王の三大幹部はできればほしい。

 

「とりあえず改めて自己紹介しておこうか」


 と言ってオルロの背後に回って彼女の肩に手を置く。


「そうだな。新入りが魔王以外にもいるんだからな」

 

 とクワトロがうなずいた。


「むしろそのエルフが本命で、魔王がおまけなんじゃない?」

 

 トーレがストレートに言い放つ。

 オルロは彼女の言葉にぎょっとしたが、


「おまけ? あたしが? このエルフの?」


 ソルティアはさらにショックを受けたようだった。

 トーレ、前から思ってたけどわりと容赦がないよな。


 空気を読めないわけじゃないんだから。


「お、オルロです。エルフです」


 最後に自己紹介をしたオルロはおどおどしているが、これは仕方ないかな。

 俺だって彼女の立場だと場違いな空気に飲まれそうだ。


「オルロとやら。エルフの中では珍しい魔法とは何だ?」


 とウーノが問いかける。


「えっと、わたしが使えるのは空間魔法と幸運魔法です」

 

 とオルロはおそるおそる答えた。


「ほう。たしかにエルフらしくない、しかも希少性の高い魔法だな」


 ウーノは興味を持ったように瞳を輝かせる。


「具体的なものについてはその、まだ練習中でして」


 オルロは恥ずかしそうに言ってうつむく。

 まあ、時系列的にゲームのストーリーははじまってないはずだからね。


 まだ会得できていなくても何もおかしくはない。

 彼女が使える魔法は一度行った場所に行き来できるという、便利なもの。


 そしてもうひとつはアイテムドロップ率と経験値効率を上げるという、やはりゲームで便利なもの。

 

 その分戦闘での性能はほかのキャラより劣っていたが、人気はとても高かった。

 

「何、わらわが鍛えてやろう。何ならほかの魔法も教えてやるぞ」


 とウーノが言う。

 彼女ならゲーム的制約のないこの世界でなら、普通の魔法でも教え込めそうだよ

な。


 オルロまでが仲間になってしまったら、主人公はどうするんだろう?


 冷静になって考えたらやばい気がしたけど、倒すべき魔王も俺の仲間になってるから、逆に苦労はしないかも?


 せめてものお詫びに魔王の幹部たちも仲間にして、旅立つ必要性を減らしていくとしよう。


「す、すごい人だらけだけどがんばります」


 とオルロは言うが、彼女は反則的に便利な存在になるから、心配はいらない。

 このままだと俺が一番いらないまである。


 いや、破滅フラグさえ全部壊せたらそれでいいんだけど。

 ことが終わったらどこか田舎でのんびりとスローライフでも送ろうかな。


 うん、働かずにだらだらして生きていくってのはアリだ。


 ナビア商会の権利料もあるし、いまのままでもつつましく生きていけそうだけど、念のためもうちょっと稼いでおいたほうがいいかな。


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