第24話「これくらい普通だと思ったら快挙ラッシュだった」

「いったい何の騒ぎだ?」


 階段のほうから金髪のツンツン頭の男が入ってくる。

 たしかこの冒険者ギルドの責任者かな?


「ぎ、ギルドマスター。このふたりが、最硬測定機を破損させたんです」


 受付が言うと、近くにいたらしい冒険者が寄ってくる。


「ウソだろ? 誰も壊せないアダマンタイト製って触れ込みじゃなかったのかよ?」


「ニセモノつかまされたんじゃね?」


「バカ。この間【希望の灯】が試して、本物って言ってたやつだよ!」


 近くの冒険者たちも騒いでいる。

 

「俺や【希望の灯】でも壊せなかったこいつを、彼らが破損させたというのか?」


 とギルドマスターは俺たちをじろじろ見た。


「たしかにふたりとも尋常ならざる空気をまとってるようだ」


 と納得されたけど、何割かは契約してるウーノなんじゃないかな。

 いまも不可知化して俺の真横にたたずんでいるんだし。

 

「いいだろう。特例だが二級冒険者のライセンスを発行しよう」


「に!? いきなり二級は前代未聞です!?」


 俺たちを除いた全員がギルドマスターの決断に騒然となった。

 

「有望な戦力を遊ばせておく余裕はない。一級でもいいくらいだが、さすがにな」


 とギルドマスターは苦笑いする。


 銀級と金級は特別な功績が必要という立ち位置なので、実質的な最高ランクは一級という見方をする人もいるらしい。

 

 そんなポジションに来たばかりの新人を置くわけにはいかない、という判断なのは理解できる。


「一番下からでお願いします」


 二級からスタートなんてなったらいやでも目立ってしまう。


 それに冒険者としてのノウハウを持ってないのに、すっ飛ばされても自分たちがあとになって困るだけだ。


「下積みをきちんとやりたいんです」


「いまどき立派な心掛けだな」


 ギルドマスターどころか、ほかの人たちもなぜかびっくりしている。


「では本人の希望を尊重して六級からスタートとする。ところで君たちの名前は?」


「ルーとセリアです」


 俺はともかくセリアは本名でかまわない。

 ゲームでもそこまで珍しい名前じゃないってあったはずだ。


「チーム名を考えたら教えてくれ。そのままでもかまわないが」


 チーム名は考えてなかったな。

 ネームド冒険者以外のチーム名なんて出てこなかったし。


「わかりました」


「ではあとはよろしく」


 ギルドマスターが去っていったことで、受付嬢が寄ってくる。


「では下の階にて説明と手続きをいたしますね」


 畏怖の念がこもった視線はあまり心地よくない。

 ドゥーエは満足そうにしているし、ウーノは当然という顔をしているけど。


 俺が目立ってどうするんだよ……。

 謎の強い冒険者ルーがルークと仲よしって持っていけばぎりぎりいけるのか?


「では説明させていただきます」


 と受付嬢が話すのを整理してなるべく短くまとめよう。

 冒険者ライセンスは金属板に一本のラインが引かれている。


 これが一番下の証で、ランクが上がればラインは増えていく。

 

「紛失しても再発行はできますが、ランクは強制ダウン。あと手数料をいただきます」


 ライセンスをなくすマヌケは無条件にランクダウン、はゲームでもあったな。

 主人公にはサブイベントがあったけど、俺には関係あるのか?


 俺たちはライセンスを受け取って、次の説明を聞く。


「最初はみなさん、薬草集めか、大ネズミ退治からはじめます」


 そして冒険者としての功績を積むことでランクアップする。

 

「魔物退治からやっていこうか」


 最下級冒険者でも魔物の間引きくらいはやらせてもらえる──自己責任で。

 

「了解」


 依頼書をチェックしてふところに入れる。


 魔物の間引きは指定された種か、格上で危険度の大きい種を狩らないと評価してもらえない。


「魔物は魔力を宿す生物の総称だ。全部が危険ってわけじゃないんだ」


 ほかの魔物を捕食し、ヒューマンには害がない種だっている。

 ここクストーデでは危険のない種を狩っても評価してもらえないだろう。


 一応ドゥーエにも共有しておく。


「ヒューマンに害のある種を間引いていく感じだね」


 りょーかいとドゥーエは答える。


「クストーデにいる危険な種は……いろいろだな」


 魔物が手ごわい地域として有名になるくらいだから仕方ない。

 城壁の外に出て魔物が現れやすい森に近づく。


「【ドリルビートル】、【ブレードアント】、【アシッドスネーク】」


 遭遇したすべてが危険な魔物だったので倒してウーノに保管してもらう。


「保管のためのアイテムを買ったほうがいいな」


 何でもウーノ頼みはさすがにちょっと発覚リスクがある。

 

「お前が使う分はわらわが用意してやろう」

 

 とウーノが人目がないので声を出した。


「あんまりすごいのは困るな。精霊からもらったアイテム、で説明できる範疇で頼む」


「ある意味ぜいたくだね」


 とドゥーエが笑う。


「そういうものか? では手を抜いて【精霊のポーチ】にしてやろう」


 と言ってウーノがつくり出したものを受け取る。


 精霊のポーチはゲームの終盤で手に入るかなりのレアアイテムだけど、これくらいならかまわないだろう。


 ギルドマスターたちの反応からして、一級くらいまでは上がれそうだし。


「初日からやりすぎるのもよくないから、そろそろ帰るか」


 十五匹の魔物を狩ったところでドゥーエに声をかける。


「了解」


「まあザコばかりだしな。これじゃあお前たちの戦闘経験にはならない」


 とウーノも認めた。

 多彩な種との戦って経験を積む予定のはずだったんだけどなぁ。


「弱いと単純作業。強いと学ぶどころじゃない。難しいな」


 と俺は嘆息する。

 

「誰かを教え育てるのは難しいだろ。学園とやらを運営してるあたり、ヒューマンどもは容易にできると思ってるらしいが」


 ウーノはチクっと皮肉を口にした。


「たぶん、多くの生徒をそこそこレベルまで引き上げたいんだろうな」


 と俺は答える。


 学校による集団教育は均一された個を量産することに適している、なんて遠いむかし聞いた覚えがあったからだ。


 学園は貴族と裕福な平民しか通えない場所なので、もっと違う考えで運営されてる可能性は高そうだけど。


「たしかに数は力だ。強い個よりも、そこそこの大群のほうが面倒な場合はすくなくない」


 何かを思い出すような表情になりながら、ウーノは苦々しく語る。

 ギルドに戻って精霊のポーチを取り出すと、


「ま、ま、まさか!? それは精霊のポーチですか!?」


 受付嬢が目を大きく見開きながら、叫ぶように声を張り上げた。


「ええ、そうですが……」


「リミテッド・レアアイテムをいきなり入手したのですか!?」


 受付嬢の叫びに「えっ」という声が漏れてしまう。


「リミテッド、レア?」


 ゲームでは一番上が「アルティメット」、次が「リミテッド」というランクだったと思うけど、精霊のポーチってもっと下のランクだったよね?


「精霊のポーチは伝説的に存在を語られているだけで、長いこと所有できた人は確認されていなかったのです!」


「……マジですか」


 思わず言ったけど、目を輝かせて、熱心に語る受付嬢がウソをついてるとは考えづらい。


 聞いてる人たち全員が何度も首を縦に振っているし。


「わたしの記憶が正しければ、五百年ぶりくらいの快挙です!」


 ……どうしてこうなった?

 俺はただ、契約した精霊からアイテムをもらっただけだったのに。

 

「狩った魔物はこちらです」


 と切り取った部位をカウンターの上に並べる。


「【ドリルビートル】、【ブレードアント】に【アシッドスネーク】!?」


「どれも三級くらいじゃないと対応できない魔物たちだぞ!」


「それをたったふたりであんなに倒したというのか!?」


「す、すげえ」


 あれ? 強い魔物なんていなかったと思ったのに。

 ゲームで見なかった魔物だからと安心しすぎていたかな。


「あのふたり、最硬の測定機を壊したらしいから」


「クストーデ最強の金級でも壊せなかったものを壊せるって、冗談だろ?」


「本当だよ。ギルドマスターが出てくる騒ぎになってたんだって」


 どんどんウワサが広がっていってる気がしてならない。


 冒険者として名をあげようと思っていたことは否定しないが、狙っていた方向性とはかけ離れてきてる。


「希少部位を提出していただいたので、お支払いは金貨二十枚になります」


 金貨二十枚?

 それだと三億ゴールドくらいになるんじゃなかったっけ?


 こっちの世界の平民の平均生涯収入はたしか二億なので、それ超える金額を早くも稼いでしまったらしい。


 しかもこれ、税金を強制的に引かれた差額だし。


「初めての冒険でこれほど稼いだ方も前代未聞の快挙ですね」


 と女性受付が何やら熱っぽい口調で言う。


 これじゃあ悪目立ちするだろうと思ったけど、もう遅いというのは周囲の空気で何となく理解した。


「この地域は強くて価値がある部位を持つ魔物たちがいるから、腕があれば稼げるんだよなぁ」


 と誰かがうらやましそうに言う。


「クストーデ・ドリームってやつか。まさか初日でいきなり実現させるやつらが現れるなんてな」


「ルーとセリアだっけ? すごいふたり組が現れたもんだ」


「将来の英雄候補だな」


 英雄になりたいわけじゃない……とは言えない空気だった。


「おふたりの測定結果と今回の実績で、三級まではランクアップできますが」


「します」


 受付嬢の提案を即座に受け入れる。


 断ると「あいつら低ランクなのに」みたいな騒ぎが今後も続きそうだと感じたからた。

 

 三級になればすこしはマシになるだろう。


「初日で三級に昇格したやつだって、史上初めてじゃないのか!?」


「すげええええ!」


「ルーとセリアか。とんでもねえふたり組が現れたもんだ!」


 どうやらこの熱気はおさまる気配はなさそうだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る