ネガティブな感情が生まれるとき

不信との闘い

 品質管理はタフな仕事だ。精神と体力をすり減らして仕事をやり遂げても、スポットライトをあびるシーンはない。すぐれた機能を持つ製品は、多くのお客さまから称賛を勝ち取る。生活を豊かにし、しあわせをもたらすのだから当然である。一方、『この製品には不具合がひとつもない。なんてすばらしいのだ』の声は、まずあがらない。不具合は、存在しないのが当たり前なのだ。存在しないものをほめる人は、どこにもいない。光り輝く製品が落とす影こそが、品質管理を担う者の居場所である。

 しかし、不具合があるとなれば、状況はがらりと変わる。『品質管理をしていないのではないか。わたしのような素人でも不具合を見つけているというのに』と、お客さまの声は痛烈である。品質管理とは、タフでいて割に合わない仕事なのかもしれない、といまさらながら思う。

 だからだろうか、品質管理の現場では戦線離脱がはげしい。職場によっては、体調不良による欠勤が日々絶えない。欠勤に欠勤を重ね、出勤した日のほうが少ないまま会社を去る者もいるほどだ。

 仕事に来ない、会社を辞める、のどちらもその人の人生における選択である。理由は問わない。脱出でもいいだろう。少なくとも、今よりしあわせになりたい、とその人が選んだのだ。会社は一生面倒をみないのだから、しあわせになろうとする者を引きとめてはいけない。引きとめていいのは、今より幸福度が上がる、と約束できる場合だけだ。

 だが、仕事を続けるのならば責務が生じる。毎日仕事をする、たったそれだけのシンプルな果たすべき責任だ。知識も技術も、業界経験すらもいらない。仕事をする、本当にそれだけである。

 しかし、ここで不信との闘いは避けられない。「体調不良」という名のカードが毎日のように切られるのだ。このカードをたくさん切る人が、本当の体調不良であることはまずない。残念ながら会社は騙されていない。容易に見抜いている。親が子どもの隠し事に気づくくらいのたやすさだ。

 自分の責務を投げ出し、仲間の負担を増やし、周囲からの不信を積みあげる。考えてみてほしい。そんなサイクルを繰り返す者と、あなたは一緒に働きたいと思うだろうか。品質管理はタフな仕事でいて、報われる場面は少ない。だが、あなたが手がけた製品は、あなたの見えないところで、確実に人々の生活を豊かにし、しあわせな時間を提供している。たったひとりであっても、開発者にではなく、製品を陰で支えてくれたあなたに感謝の言葉を送ってくれている。それを信じて実現するのはあなただ。

 不信との闘いを誰にも強いず、品質管理としての責務を果たし、仲間とともに戦ってほしい。そうすれば、きっと誰からも信頼を得られるだろう。そのとき、ほかの誰でもないあなたを称賛する声が、確実に届くのだ。

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