第3話 強さランキングって誰得?

「ここが森か」


 不思議な光景だ。

 背の高い木のせいで光が届かないはずなのに、地面にはたくさんの草が生えている。

 ただ、どれが薬草なのかはわからない。


「俺はここで見張ってるから」


 周囲を見回すガダンさんを置いて、とりあえず地面に生える草を観察してみる。

 わかるはずがない――そう思っていたけど、足下近くの草の中にうっすら青色や水色、そして時折赤色の草が見えることに気づいた。

 さらに集中すると、その色は草の周囲をぼんやり覆っている。

 これは、人間と同じオーラ?

 光らない草はただの草っぽく、オーラを持つ草は薬草に形が似ている。


「おっ、これ良さそう……」


 歩き回っていると、青色がほとんどの中でたまに金色や赤色のオーラを持つ草がある。

 近づかないとわからないのが難点だけど。

 とりあえずいくつか引っこ抜き、ガダンさんのところに戻る。


「おっ、やるじゃないか。確かに薬草だ」


 やった。

 続いて青色と赤色に光る草も見てもらった。


「また正解だ。すごいな。俺もだいぶ苦労したのに……目がいいんだな」


 感心するように瞳を丸くする。

 どちらも薬草で間違いないらしい。ただ、オーラの色で違いはないようだ。

 俺はとりあえず、光る薬草を青、金、赤の三種類でそれぞれ束を作っていった。

 と、ガダンさんがガサガサと走ってきた。


「下がれ。モンスターだ」

「どこに?」


 声を潜めて尋ねると、ガダンさんが指を指した。

 森の奥に黒い塊が歩いていた。

 

 そして、さらにその奥から「わっ!」と突然大きな声がこちらに向けて響いた。

 人の声だ。


 驚いた黒い塊が俺たちの方に勢いよく駆けてくる。

 地響きに身がすくむかと思ったが、なぜか冷静だ。現実感がないのかもしれない。

 二メートルはゆうに超えたイノシシだった。

 ガダンさんが「ここらじゃ珍しいな」と、走り出して腰の剣を抜いた。

 流れるような抜刀から正面を塞ぐように肉迫し一振り。逃げる暇も与えない。

 イノシシの頭が割れた。

 

 グロい光景なのに感心の気持ちしか出てこない。

 すさまじい腕前だ。

 っていうか、剣で一刀ってもう異世界決定だな。


「いい土産が手に入った。なかなかの大きさだ」


 俺はゆっくり近づいた。イノシシが息絶える瞬間だった。

 

 ――オーラが見えた。濃い紫色だ。


 それがじわっと消えていく。

 なんとなく、スキルの仕組みがわかってきた。

 でもそれが何の役に立つのかはわからない。


「近いから俺が担いでいく。薬草も採れたし一度戻るか」


 ガダンさんは獲物を軽々と持ち上げ身を翻して森を出る。


「さっきのモンスターを驚かせた声はどうやったんですか? ガダンさんの声でしたよね? 真逆から聞こえましたけど」

「おっ、気づいたか? スキルを使って声を飛ばしたんだ」


 そんなことができるのか。


「ある程度の範囲なら声を届かせられる。地味だが結構役立つぞ」

「剣もすごかったし、強いんですね」

「少しはな」

「もしかして……ガダン=ライドリアって名前だったりします?」


 その問いにガダンさんは手を止めて、にかりと口端を上げた。人懐っこい笑顔だ。


「目ざといな。それも気づいたか」


 俺は上空を見つめた。

 浮かんでいる透き通ったディスプレイがある。

 そこに並ぶ上から11番目の名前と同じだ。


「あれな。俺たちは【世界告知】と呼んでる。強さを指していると言われているが、実際にはモンスターもいるからあてにはならないな」

「強さ……」


 話が本当ならガダンさんは世界で11番目の強さ。

 とんでもない人だ。

 でもその強さは誰が決めているんだろう。

 本当に不思議な世界だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る