胸糞小説

N.F

第1話 

小学生の頃は良かった。それは中学生になってみて分かったことだった。

 小学生の世界は単純で、汚れが無く純粋だ。いやもしかしたら残酷だったのかもしれないけど、僕個人としては生きやすかった。

 小学生と中学生で、どうしてこうも世界が変わるのか。その原因は分からないけれど、実際とても生きづらい。そう感じている。


 僕は中学校ではサッカー部に入っている。何となく「サッカー部に入ってるならそれだけで勝ち組だろ」という風潮があるが、そんなことは無い。その恩恵を全く受けていないとは言わないが、僕自身は断じて勝組ではない。


 結局、勝つ奴は何処に居ても勝つし、負ける奴は何処でも負ける。それが僕の出した答えだ。つまり僕はこの法則の後者で、何があった訳でもないけど、そう感じている。そう、この世界はとても生きづらい。


「来週から中間テストが始まるからな〜、赤点だったら3年に上がれないぞ」


 担任の田宮の声が飛ぶ。


 田宮は社会を受け持つ教師で、生徒からは授業が適当だと言われている。確かに教科書に載っていることを黒板に写しているだけで生徒の学力を上げようという気概は感じられない。必ずしも教師という人間が生徒達のことを考えているとは限らない。それも中学生になってから知ったことだ。小学校の頃の守屋先生は僕達にもっと親身で、もっと打ち解けていた。


 他の皆が同じことを考えているかは知らない。きっと何とも思っていないのだろうが、勉強では色々考えさせられるのに、深く考えない方が生きやすいという矛盾がこの世界にはある。だとすれば何の為に勉強なんてするのだろう?


「おい、淳史。また一緒にテスト勉強しようぜ」


 肩を叩かれて背後を振り返る。やや髪が茶色で、肌が日に焼けているつぶらな瞳の少年。小学校が同じの将吾だ。


 彼の肌が焼けているが部活には入っていない。何でも、夏休みに家族で海に行ったそうだ。思春期の彼は行くのを嫌がったそうだが高3の兄貴に強要されて連れて行かれたという。彼が海を堪能して帰ってきたのは、数日後に会った時に東南アジアの人のような肌をしていた時から分かっていた。彼は鼻を膨らませて海の良さを語った。


「おう、いいぞ。またウチに来るか?」


「ああ、行く。新作は仕入れてあるか」


「一本だけ。お前は?」


「ばっか、少ねえよ。俺は3本だ、楽しみにしてろよ、このエロガッパが」


 新作とはAVのことだ。内向的な僕は女子との関わりが未だに少ない。けれど性に興味はある。女子のシャツから覗くブラジャーや短いスカートの中をつい目で追ってしまうのだ。これは中学生になって身についたもので、小学生の頃はそんなこと断じてしてはならない空気だった。


 それなのに、中学生になると逆にそうならない方が異端な目で見られるのは不思議である。けれど自分自身そうなっているし、これは年齢じゃなく「小学生」と「中学生」という区分が明確な線引きになっている。この日本にいつの間にか根付いた習慣なのだろうが、全くもって理解しがたい。たった数年しか変わらないというのに。


「じゃあホームルームは終了だ、気をつけて帰れ〜」


 田宮の適当な声が飛ぶ。きっと今の田宮だってエロイことしか考えていない。田宮は現在32歳で、結婚2年目の新婚だ。何年目まで新婚かは知らないけど、奥さんと子作りに精を出しているらしい。


 と、同じサッカー部で、クラスの中心人物である悠人が言っていた。とは言っても僕に話したのではなく、休み時間に悠人が机の上に座って喋っているのが聞こえてきただけだ。


 往々にして目立つ奴というのは人に聞かせるようにして話をする、まあだから目立っているのかもしれないけど。


「じゃあまたな」


 将吾に言う。


「おう、部活頑張れよ」


 将吾は鞄をもってさっさと帰って行く。そんな彼を何度羨ましく思ったことか。彼があまりに楽しそうに帰るものだから、1年の頃に何度もサッカー部を辞めようと思った。もう辞めようとは思わないが、部活は今でも億劫だ。この気持ちはきっと部活を引退するまで続くのだろう。

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