第11話 断捨離

 とある事情で精神を病み、うつ病と診断された。会社や仕事が原因じゃないことは確かなため、会社を休職するのは少しだけ気が引けたが、せっかくの長期の休みだ、この際だから断捨離をしようと思い立った。


 まずは、スマホ内のデータの断捨離からだな。


 先程から煩いほどにコールやメッセージの着信音を鳴り響かせているスマホ。

 余りに煩くてクッションの下に押し込んでいたのを取り出し、連絡先アプリを開く。

 本当に信じられる友人やお世話になっている人達を残し、ほか全ての連絡先を消去した。電話は、登録されている電話番号からのコールのみを着信する設定になっている。これであの、煩わしいコールは無くなるだろう。

 次に、メッセージアプリを開き、同じように要らない連絡先を全て消去。こちらも登録外からのメッセージは全てブロックする設定になっている。

 これだけでもかなりのすっきり感だ。


 その後は淡々と、引き出しからクローゼットから、溜まりに溜まった不用品を選り分けて段ボールに詰めていく。


「もう一回り小さい部屋でも、いいかもしれいな」


 そんな事を独りごちながら、昼食を買うために少し離れたコンビニへ向かうべく部屋を出た。

 だが、出てすぐに、物陰に身を隠す羽目になった。見たくもない顔が、そこここに散らばっていたのだ。

 仕方なくコンビニを諦め、部屋に戻って買い置きのパンを胃に流し込む。


 ここももう、すぐにでも引き払ったほうがいいかもしれない。いや、引き払うべきだろう。


 そう考えたが、待てよ、と思い直す。

 今、ちょうど断捨離をしているところだ。アレらもまとめて断捨離をしてみては、どうだろうか?


 30cmを超えるものは粗大ゴミになるという。いや、その前にアレらは生ゴミになるのだろうか。いやいやそもそも、アレらを全て断捨離する必要はない。断捨離すべきは、『関係性』なのだから。


 暫く悩んだ挙げ句、役所に電話を掛けて聞いてみた。


「家族を捨てる場合は、どうすればいいでしょうか?」


【終】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る