第14話 毒と獣避け
彼らは毒を有しておきながら、その毒全般に対する耐性を身体の大部分は持っていないことだ。
これは推測だが、毒は獲物を捕えるためだけではなく各々の縄張りを示すためや、雄同士が戦う時にも用いられるのだろう。
胃の中の分解酵素が毒を分解するため、獲物を食べても問題はないが、同じ毒で攻撃をされると弱ってしまうらしい。
なので彼らの目は人間の目ではみえない特殊な光を見えるように発達している。毒液が発する特殊な光を見分けることで、同胞が出す毒を見分けているのだ。
「ですから、
逆に毒でなくとも、例えば畑に敷く網が似たような光を発するような仕組みにできれば、
「ほぉ……。」
「毒を畑に撒くわけにはいかないが、それが出来たら農牧を営んでる人たちはだいぶ楽になりそうだな。」
「それに毒を光で見分けているとは思いもしませんでした。似たような魔獣がいるなら、そちらの対応にも役立ちそうですね。」
私の説明にあちこちから驚嘆の声があがる。
衛兵たちの言葉を受けて、オスカーが深く首肯した。
「……試す価値はあるだろう。カナン、その毒の発する光の原理とやら、解析は可能か?」
「無論です。毒の要素とそれ以外を分解して、別々のものに付与すれば事足ります。理論的な体系もまとめられますから、他の方に知識を伝授することも可能かと。」
それが出来ないのなら魔道具学の名折れだ。
胸を張り宣言をして、毒腺のある場所を衛兵が解体して取り出すのを待った。
◆ ◇ ◆
鉄製のお盆の上に置かれた
とはいえ、これくらいのものなら学院に通っていた頃に何度か見た覚えがあるので、動じることはない。
「
術式を唱えれば、毒腺に魔力が通る。光の粒のように分解される光景に、周囲から歓声があがった。
……正直なところ気恥ずかしい。術式自体はさして難易度が高いものでもないのだけれど。
「(毒腺の中から毒の要素とそれ以外を分解して……)」
はじめての素体を扱う時はいつだって緊張する。
毒を扱うことそのものは
一歩間違えれば畑に毒を撒き、武器が意味を為さなくなる。そうすれば多くの人々が被害に遭うことになる。
私の技術が、魔道具学の知識が誰かを傷つけるようになるなんて嫌だった。周りの反応を意識的に追い出して、全神経を集中させる。
「すごいな……。俺、四大元素以外の術式なんて初めて見たぞ」
「あれが王都から来た、学院の才女さまか」
「オスカー様が見初めた方なだけあるな。それとも学院ではあんなすごい魔法を使えるのが普通なのか?」
だから魔道具生成の光景を見た衛兵の皆さまがそんな風に言葉を交わし合っていたことも。ましてやそれを見てオスカーさまが誇らしいような悋気を起こしたような複雑な顔をされたことも。
私には知る由もありません。
「…………よし。これで毒の取り出しは完了したわ。」
シャーレに入れた粉状の物質と、小瓶に入った液体をそれぞれ机の両脇に置く。粉が毒、小瓶がそれ以外だ。
「念のため付近で小型の魔獣を1匹捕まえて、小さじひと掬い分くらいこの液体を投与してもらっていいかしら。経口でも注射でもいいけれど、それで麻痺毒の症状が出なければ問題はないわ。」
「若奥さまの御命令とあらば。」
「ええ、それと衛兵たちが汎用的に使う武器はあるかしら?」
「こちらに。」
ユナイド衛兵長に小瓶を託し、代わりに彼らがよく使うらしき長剣を受け取った。
奥さま呼びに少しくすぐったさはあるけれど、今はその前に武器の作成を進めましょう。
分解したもの同士を混ぜ合わせる時とは異なり、今回は剣に毒の効果を
シャーレに入っていた粉をただ振りかけるだけでも効果はあるのだが、それだと持ち歩きに手間も危険もある。
斬った相手にのみ毒を与えるだけなら、技術があるのなら
「
呪文を唱えれば今度はシャーレに入っていた粉のおよそ半量ほどが浮かび上がり、液体のようにどろりと溶ける。
溶けた毒が染み込んだ先の剣は、一瞬薄紫の光を放つ。
「……よし。これで毒の
勿論取り扱いには気をつけてください。
重ねて注意して伝えれば、大仰に頷いた衛兵長が大きく頷いた。
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