第25話 日常と戦闘と

 セインはエルフの里に家を借りていた。

客人として領主の屋敷に住んでいたのだが、ポメ共々居候になるのは気が引けていたのだ。

そこで家を借りたのだが、その家賃は無いに等しかった。

セインがエルフの里の警備を手伝っていたために、その給料が支給され、そこに家賃補助があったのだ。

それはツヴァイの操者を逃すまいとしているという邪な理由ではなく、単純にセインが領主のアロイジウスはもちろん、娘のアンネリーゼに気に入られていたからだった。

エルフの里に住む限り、お金はほぼ必要ない。

しかし、客人を働かせて報酬を出さないなど有り得なかった。


 だが、アンネリーゼには、その借家住まいが不満の材料でもあった。

給料を支給するのは、当然のこと。

そこに家賃補助があるのも仕方がない。

だからといってセインが屋敷を出て行くとはアンネリーゼは思ってもいなかったのだ。


 屋敷を出て行くということは、セインに会う機会が減るということだった。

結果どうなるか?

アンネリーゼがセインの借家に入り浸るという現象が発生した。


「セイン、起きてる?」


 アンネリーゼがセインの借家に勝手に入って来る。

大家であるためにマスターキーを持っているのだ。

セインは、前世の記憶でコンプラ違反と思ったが、この世界では知られた間柄の好意による家宅侵入は、何の問題もなかった。


「なんか身体が重いけど、いま起きたよ」


 ドア越しに返事をすると、勢いよくドアを開けられた。

勝手知ったる他人の家というやつだろう。

或は幼馴染あるあるか。

そこにはハプニングが付き物。


「あーー! ポメちゃんがまたいる!」


 ベッドにはセインの胸に横抱きに抱き着いているポメが同衾していた。

セインの身体が重かった理由はポメの体重だった。


 その様子はセインがポメと昨晩……というように見える。

だが、アンネリーゼはそうではないという結論に達する。

セインには、そのような根性はないのだ。

奴隷に手を出すなんて当たり前、そんなこの世界ではそれは珍しい規律意識だった。

アンネリーゼはセインとはそういうやつだという好意を持っていた。


 だが、それとこれとは別。

ポメにやきもちを焼くのは、アンネリーゼにとっては当然だった。

それがポメへの世話へと変化する。

そうすることでポメをセインから引き剥がせるのだ。


「ほらほら、ポメちゃんも着替えないと」


 まるでお母さんのようにポメを扱うアンネリーゼ。

その様子を微笑ましくセインが見つめる。


「なんか、幸せな家族みたいだね」


 その一言にアンネリーゼの顔が爆発したかのように赤くなった。

セインには全く他意のない台詞だったのだが、アンネリーゼは真に受けた。


「ど、ど、ど、どういうつもりよ?」


 それはポメのお母さんになっても良いという気持ちと、セインのお嫁さんになるということを意識をしてしまった結果だった。


「三人一緒の生活って、なんか良いなって思って」


 それは聞く人によってはプロポーズと捉えることもある台詞だ。

アンネリーゼは当然そう思った。

エルフの里にほんわかした時間が流れる。



 セインはエルフの守備隊に混ざってツヴァイで警備に参加していた。

それはツヴァイの操縦の慣熟を兼ねた行動でもあった。


 警備が強化されたのは、恐獣がカシーヴァの街に現れたからだった。

恐獣は、自然災害的に発生しているとも、どこかの国の侵略だとも言われていた。

そう言われるのには理由があり、原因が全くわかっていないからだった。

ただ、この世界で信者の多い聖星教では、恐獣は積極的に倒すべき敵であると喧伝されていた。

その理由は市民には明らかにされていない。


 恐獣は、突然出現する。

いくつか原因があるとも言われているが定かではない。

そして、破壊の限りを尽くす。

そういったことからも、聖星教の教えは正しいと思われているし、聖星教が恐獣を積極的に倒すために、国を跨いで支持されている理由でもあった。


 だが、恐獣被害は甚大であり、街ごと消滅するなどということがざらだった。

その半分が聖星教の攻撃による被害だとは思われていない。


「……っ! 警戒態勢!」


 エルフ守備隊長の操るトレントの騎士が空間異常を認識した。

それは恐獣が出現する予兆だと思われている現象だ。

だが、それは100%ではない。

ただの自然現象や、センサーの誤作動ということもある。


 だが、今回は本物だった。

空間を裂いて恐獣が現れる。


「ウゲロタイプ!」


 それは地球で言うナメクジのような恐獣だった。

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