第14話 歓迎

 セインはアンネリーゼの案内で、簡単にエルフの里に入れてしまった。

樹木医の爺さんの紹介状が無意味になってしまったが、セインは里に入れればどちらでも良いと思っていた。

だが、その結果は全くの別物だった。

樹木医の爺さんの紹介状ならば、そこでエルフのトレントの騎士工房へと行くだけだっただろう。

だが、アンネリーゼというお姫様の案内だったことで、セインは領主の館へと連れて行かれることになってしまった。


 領主とは、そのエルフの森全てを統治する、氏族の長の事を指す。

つまり、このエルフの森という王国の王様にあたった。

エルフにはエルフ全体が古代から続くエルフ国家の所属だという意識があるため、領主を名乗っているに過ぎなかった。


「ここが領主館だ」


 アンネリーゼが連れて来たのは、領主館というよりも城だった。

エルフといえば、木の家に住んでいるイメージだが、それはしっかりとした石造建築の城だった。

そのようになっているのは戦備いくさぞなえなのだろうと思われる。

その門も扉もトレントの騎士サイズになっていた。


「リーゼ! 無事だったのか!」

「心配したのよ?」


 城門を顔パスで通り、内部にある広場を通ると、城の玄関前の車回しでセインたちはトレントの騎士を跪かせて降りた。

伝令が行っていたのだろうか、その先の玄関ホールの中からアンネリーゼの父親と母親――つまり領主夫妻が迎えに出て来た。


「そのトレントの騎士には気を付けて。

たぶんロストナンバーだから」


 アンネリーゼがトレントの騎士をどかそうとしたバレーに注意した。

バレーとは、車回しに駐車した馬車やトレントの騎士を預かって駐車場まで運ぶ係のことだ。

アンネリーゼはトレントの騎士を奪おうとした、程度の悪い騎士がミイラ化したという話をセインから聞いていたため、バレーでは危険と判断したのだ。

だが、ロストナンバーとは何だろうとセインは首を傾げた。


 それを領主様リーゼの父親が聞きとめる。


「ロストナンバーだと!」


 そして愛しい娘の帰還そっちのけで、セインのトレントの騎士に歩み寄り、しげしげと観察しだした。

暫く操縦洞の中を覗いたり、トレントの騎士が纏った鎧や装備している剣を調べていた。


「間違いない! ツヴァイだ!」


 領主様リーゼの父親が興奮気味にそう叫んだ。

それは、セインにも興味深い話なのだが、直ぐに訊く空気ではなくなった。


「あらあら、それは大変ですわね。

しかし、それの研究は後にしてリーゼの無事の帰還を祝いましょうよ。

そして、そのトレントの騎士の持ち主も歓迎しませんと」


 領主夫人リーゼの母親が笑顔でそう言うが、その言葉は丁寧ながら刺があった。

これではセインも安易に訊ねる事は出来ない。

領主様リーゼの父親もそれを察したのか、態度をころっと変えた。


「そうであったな。

リーゼ、よく無事で戻った。

パパは心配で眠れなかったぞ」


 つい今までセインのトレントの騎士に夢中だったことは無かったことになったようだ。

そして、領主様リーゼの父親がセインに向き合う。


リーゼを助けてくれたこと、感謝する。

我が森の客人として歓迎しよう」


 そして、そこが玄関ホールだということに気付き、セインとポメを促して奥へと歩を進めた。

どうやらポメも客人扱いのようだ。

謁見のような面倒なことにならなくて、セインはむしろ歓迎していた。

だが、この後、領主一家と一緒に晩餐を食すことになるとはセインは思っていなかった。

ポメも奴隷であるにも拘らず一緒に食卓に着くことになり、セインは冷や汗が止まらなかった。

マナーのこととか、奴隷と知らないのではとか……。


◇◇◇◇◆


「セイン起きてる?」


 領主館に客人として宿泊することになったセインは、朝も早くからアンネリーゼの襲撃を受けていた。


「今起きたところ」


 そのベッドにはポメも寝ていた。

所謂同衾だが、ベッドが広いのと、テント生活で一緒だったので、誰も気にしなかった。


「じゃあ、トレントの騎士工房に行くわよ。

樹騎職人が待っているわ」


 セインはトレントの騎士工房と聞いて、一瞬で目が冴えていた。

それほど、興味深い場所だったからだ。

それとロストナンバーの話を訊きたかった。


 セインのトレントの騎士も、そこでメンテナンスされているはずだった。

あれから、ベテランの技師が馬回しに現れて、トレントの騎士を動かしたのだ。

その技師がミイラ化することなくトレントの騎士を動かせたので、セインもほっとしたところだった。


「すぐ用意するよ。

ポメ、起きろ。

直ぐに着替えるんだ!」


 そして、セインはアンネリーゼの案内の元、興味が全くなく目が死んでいるポメを連れてトレントの騎士工房へと向かうのだった。


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