第11話 野営

 セインは小麦粉を少量の塩と水で溶き、熱したフライパンで焼いた。

これが簡易的なパンとなる。

前世の知識にあるクレープと似た感じの薄い焼き物だが、野営で食べるには十分すぎる出来だった。

家で焼いたものは、発酵させるためもう少し膨らんでいるが、旅の途中の野営では焼きたてなだけマシだった。


 これもトレントの騎士に荷物用のうろがあるおかげだった。

そこにテントを始めとした野営道具や着がえ、食料を格納出来るのだ。

そこは高気密なために湿気る事が無いため、小麦粉を袋のまま運べたのだ。

そうでなければ小麦粉は湿気てしまって、あっと言う間に黴たり腐ってしまっていただろう。

尤も、家では小麦は粒のまま保管し、食べる前に挽いて粉にするのだ。

小麦粉としての販売先は、主に大量に使用するパン屋や料理店だった。

それを前世の知識のあるセインが買ったというわけだ。


「よし食べて良いぞ」


「わふわふわふ」


 待てをさせられていたポメが焼き魚をかじって、パンをかじって、鳥のモモをかじってと貪り食う。

セインがそれを笑いながら見守り、パンに焼き魚の身を解して挟んで食べる。

いや、挟むというよりも薄いパンを巻いている感じか。


「美味い!」


 続けて鳥の丸焼きも身をナイフで切り取って挟む。

それを見たポメが自分もと目をキラキラさせてねだる。

あっと言う間に薄焼きパンが減って行った。


「美味しかった」

「満足。ポメ幸せ」


 2人とも、それらを美味しそうに平らげた。

味付けが塩と乾燥ハーブだけなのに、焼き魚と鳥の丸焼きは絶品だった。


 夕飯も終わり、セインとポメは、テントで寝る事にした。

さすがに野営となると見張りが必要だと思われたが、そこにはトレントの騎士がいたため、弱い魔物は寄って来なかった。

虫も焚火にくべた防虫草で寄って来ない。

ましてや、道なき道の未開の地なため、人などは寄って来るはずもなかった。


「見張りをお願い出来る?」


 セインは降着状態で三角になったトレントの騎士の脚の間にテントを張っていた。

そこからトレントの騎士に見張りをお願いした。

トレントの騎士は、セインが乗っていなくても、自分の意志で動くことが出来る。

戦闘行為は微妙だが、見張って合図するぐらいならばしてもらえる。

セインは闇闘技場で大金を得るまでは、そうやって野営を過ごしていた。


 夜中、寝静まったセインとポメの野営地に近付く影があった。

ちなみにセインとポメは同じテントの中だ。

さすがにポメのためにテントをもう一張りというわけにはいかなかったし、ポメもそれで平気だった。

むしろセインの方が同衾という事実にその場になって躊躇ったほどだ。


 それでも暢気に寝ていられる所がセインの良いところでもあった。


 影が焚火にまで接近した。

見張りを頼んだトレントの騎士は反応しない。

その影が焚火に残されていた鳥の丸焼きの残りに手を出す。

どうやら食べ物が目的のようだった。


 その影が明日の朝食として残されていた鳥の丸焼きを貪り食う。

腹が減っていたようで、その場から逃げようともせずに一心不乱に食う。


 その時、ポメが目を覚ました。

外の気配に気付いたのだ。


「誰かいる」


 震えながらポメがセインの身体を揺する。

それにより、セインも目を覚ます。

寝ぼけ眼でポメを見つめ、その尋常でない様子にはっきりと覚醒した。


 震えながら外を指差すポメ。

それにより、セインも外の気配に気付く。


「人か?」


 咀嚼音がする。

それは獣でなく人のようだった。

セインは弩弓を手にし、弦を張るとボルトをセットした。

そして、そっとテントから出る。

そこには、やはり人影。


 まさか、このような未開の地に人がいるとは思わなかったセインは、驚きつつも相手が一人だと見て取った。


「動くな!」


 セインは弩弓でその人影を狙いつつ誰何した。


まない、なんにふぃふぁべてなくて」


「食べるのやめて話せ!」


 その人影の耳は笹耳と呼ばれる長いものだ。

そこには残念そうな女エルフがいた。

泥棒だが、その姿は専属の野盗とは思えなかった。





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