僕らのこれから


「――って、事がありました」


「政府の人に掃除までさせるなんてね……」


「政府に『掃除』してもらったって、何か意味深だよな」


「言うてる場合でありますか!」


 明くる日、俺は『クロスワールド』を起動して異世界に戻ってきた。

 メンバーたちと出会って真っ先に話し合ったことは、当然、調査室のことだ。


「ママは聞いたけど、マウマウやエミリンのところにも政府の人が来たの?」


「もちろんであります!」


「うん、他のメンバーにも行ってるまう。でも本当によかったまう~?」


「まぁ、まるで後悔が無かったとは言わないけど……」


「異世界につながったなんて、僕らの手に余る出来事だからね」


「ああ、ママの言う通りだ。俺たちだけじゃ、知恵も能力も足らない。助けを求めたのは、間違ってないと……思う。」


「ユウさんがそういうなら、従うであります!」

「同じく」「まう!」


「ありがとう。他のメンバーは?」


「調査室も人手に限りがあるからね。順次連絡してるみたい」


「ログインしてないメンバーは応対中ってことか」


「そうだね。事前にクランのメールと掲示板でお知らせを飛ばしたけど、見てない人はちょっとびっくりするかもね」


「さすがママ。ちゃんと仕事してるなぁ」


「本当なら、ユウがやることまう!」


「うん、それはごめんなさい」


「ユウにデュナミスのリーダーを任せる時、足りないところは僕がやるって約束だったからね。でもここからが大変だね」


「だよなぁ。今さら早まったなんて後悔しても仕方がないけど、メンバーの中には混乱して、怒る人もいるかもしれないよな」


 もしそうなったら……俺には謝ることしかできないな。


「ユウならきっとわかってもらえると思うよ」


「そうかな?」


「ユウは大事な失敗をやらかすって、皆知ってるであります!!」

「まう!」


「グフッ!!」


「そういうこと。で、次の動きを相談しようか」


「だな。切り替えていくか」


 デュナミスのメインメンバー、つまりママやマウマウ、エミリンと言った面々の所にも調査室の人が来て、今はモニタリングされながら接続している。


 監視付きというのはつまり、これまであったプライバシーが一切なくなるということだ。嫌な人は当然嫌だろう。現に俺が嫌だし。


 そうなると、もう『デュナミス』を出る……。

 いや、ゲームを辞めるという人も出てくるかもしれない。


 俺の勝手が原因で、ゲームを辞めてしまう人が出る。


 無論、『クロス・ワールド』以外にもNRゲームはたくさんある。

 だから彼らがここを後にしたとしても、他でのゲームで遊ぶことはできる。


 だけど、俺が彼らから楽しみを奪ってしまったという事実は変わらない。

 そう考えると、ちょっと気分が沈んでしまう。


「ふぅ……」


「まず、僕から提案していいかな?」


 先にママから声が上がった。悶々もんもんとした俺の様子を気遣きづかったのだろう。

 実のところ、今の俺は考えがまとまりそうにない。


 俺は彼に頷き、言葉を待った。


「まずは、デュナミスが目指すべき目的、僕らの目的を決めたらどうだろう?」


「目的?」


「そう、今まで僕らはゲームの中で何となく行動していたわけだけど、この世界で活動する目的が必要だと思うんだ」


「そっか、俺がトリオンさんに説明した『エネルケイア』を止めるっていう目的は確かにあるけれど……手段でしかないよな」


「どういうことであります?」


「えーっとつまり、エネルケイアを止めたらそれで終わりじゃない。そもそも何で俺たちが奴らを止めるかっていうと、連中があることの障害になっているからだ」


「あること、まう?」


「そうだ。俺たちが目的にしないといけないことは、なんで俺たちがこの異世界に来たのかを突き止めて、原因を知ることだ。エネルケイアを止めるのは、その調査の障害になるからだ」


「うん、そう言うことだよね」


「ユウ殿は異世界の原因を突き止めて、どうするであります?」


「俺たちが異世界に来た原因を知るっていうことは、それがどういう働きで起きたのかっていう事を知ることになる。つまり――」


「この異世界からクロス・ワールド、ゲームの世界に戻る方法もわかるっていうことだね。行き来する方法もわかるかも知れない」


「うん。2つの世界を行き来できるかもしれないし、帰ったらそれっきりで、もう異世界には戻れない。そんな可能性も十分あり得る」


「せっかく異世界に来たのに、帰っちゃうまう?」


「もったいない気がするであります!」


「なんで、方法がわかったその後は――各自で決めて欲しい」


「……そこはユウらしいね」


 俺は正直、この異世界に残りたいという人がいるなら、それでいいと思う。

 実際俺もそっちに傾いているからだ。


 でも、何となくこの世界には、長く居てはいけない気がする。

 自分の心がどんどん異世界に削り取られているような、そんな感じがするのだ。


「これでデュナミスがバラバラになるかも知れないけど、俺は別にそれでいいと思ってる。ママはこの世界に残りたそうだし」


「まさか。ユウを置いて残るわけには行かないよ」


「ほんとー? めっちゃ目キラキラしてたじゃん」


「うん。楽しいし、研究したい気持ちがあるのも確かだけど……異世界だからね。学会に発表しても『で?』としか言われなさそうだもん」


「そりゃそうか。異世界だもんな」


「うん。」


「で、話を戻すけど、今やらなきゃいけないのは、これだよな」


 俺はママやマウマウたちにあるものを取り出してみせた。

 トリオンさんの印章が押された、許可証と紹介状だ。


「まずはこの世界の『創造魔法』の弱体化の原因を調べる。そしてエネルケイアが創造魔法を求めて行っている略奪の阻止。この2つだ」


「うん、それで良いと思うよ」


「調査室の人たちも、創造魔法について知りたいって言ってたまう!」


「うん、これは確信に近い推測なんだけど、きっと創造魔法を調べるうちに、これは俺たちにも深く関わってるはずだ。俺たちの目的にもな」


「僕らの目的に?」

「いったい何のことでありますか?」

「まうー?」


「つまりだ……俺たちって、何者かに『創造』されたんじゃないか?」


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