マイ・エージェント

<ゴツッ!!!>


 小さなげんこつは俺の額に直撃し、その衝撃で俺は悶絶した。


「おぉぉぉぉぉ……!!」


「あ! やっと出てきたのう!」


「出てきたじゃないよ!! 痛ったぁ……!」


「ツバ付けとけば治るってー」


「いや、そこまでじゃないですけど、ひょっとして、調査室の?」


「あ、もう話いってたのか、あたしはマイ。よろしくのぅ兄さん!」


 ノリが軽すぎる。

 この人、本当に政府の人かなぁ……。


 目の前に立ったマスクをした女性は、俺と同じくらいの背の高さで、すこしピンクがかった金髪に髪色のロングヘアーだ。


 そして、彼女のぱっちり開いた目は、何にでも興味を示す子供のようで、とても落ち着きがなさそうに見える。いや、現に落ち着きがないのだが。


 調査室っていうのは、ようはスパイ組織だ。

 そして、そこに務める人たちはスパイということになる。


 しかし俺には、彼女がスパイにはとても見えない。偽装って言う点では有能なのかもしれないが、一人で仕事に送り込んじゃダメなタイプに見えた。


「えーっと、まず個人情報の確認から。お主の名は神崎かんざき ゆう。ゲームで何か変なところにつながったチームのボスじゃな?」


「お主って……」


「とりあえず中に上がらせてもらうぞー」


 マイさんは俺を押しのけ、家の中に上がり込んできた。


「押しが強い!! あの、部屋の中がですね――」


「うわ汚ねッ! 見たこと無い虫とか出てきそう!!!」


「スンッ……」


「お、これis何~?」


 ぎゃぁ!! 早速「クリエイト・ジェム」で出した宝石が見つかった!!

 なんて説明しよう……。


<バッ!!>


 ヒィッ!! 宝石にかけてた毛布取られた!!!

 マキさんって、人んちのもの勝手に触るタイプ?!


「わぉ、こりゃご立派様! これが例の創造魔法で出せるやつ?」


「え、もうご存知なんですか?」


「っと、リアルネームはダメか。魔法のことはウルバン君から聞いたぞい」


「じゃあ、もう大体のことは分かってるんですね」


「うむ。実際に見るまでは信じがたかったけど、これは大変じゃなー」


「まぁ、はい」


 マイさんは立ったまま説明を始めた。

 座らない、いや、座れないのは、家がクソ汚いせいだ。

 何かすみません。


「まずコトの起こりから行こうか、お主らが異世界に行った原因だけど~」


「わかったんですか?」


「いや全然。ゲーム会社の方もあたってみたけど、再現性がないそうじゃ」


「再現性……? あぁ、そっか。修正前のバージョンを使って遊んでも、異世界には行けなかった。そういう事ですか?」


「んむ。で、主らのアバターが異世界に行ってしまった原因は、たぶん異世界側にあるんじゃないか、ってことなんじゃが……」


「何か証拠が見つかったり?」


「いや全然。むしろ、それをお主らが探すんだなー」


「なるほど……」


「で、調査室としてはさらに調べたいことがあってのぉ、それは創造魔法についてのことだったんだけど~」


「あっやべ」


「そう、超やべーよねこれ。こんなの出しちゃってどうしよう?」


「そこは政府の力とか何とかで、引き取ってくれません?」


「……面の皮がゾウくらいあるね、お主。」


「言ってみるだけならタダかと思いまして」


「まぁ『機密費』で何とか出来んこともない。1000万くらいでいいかの?」


「……え、そんな大金を?!」


「まぁ、これは調査の手付金も含めてるがのー。で、どうする? 断ったらたぶん謎の力で逮捕からの刑務所一直線じゃけど」


「拒否するルートが存在しなく無いですか?」


「いやお主、異世界が現実に影響するかどうかって、ドチャクソデリケートな問題じゃったんよ。何してくれてんの?」


「あっはい」


 普通に怒られた。

 まぁうん、そうだよね!

 そうなるよね!!


「ってか、機密費で何です? ヤバイ気しかしませんけど」


「ああ、機密費ってのは、領収書とか記録を残さずに使える、とってもアングラな予算じゃ。主に<ピー?>とか、古いのだと、チリの人質事件の<ピー>とかに」


「はい。あんま深入りしちゃいけない話なのはわかりました」


「うんむ。」


 ここまで話して俺はようやく気付いた。


 このマイっていう調査室のエージェント、実はクソ有能なのでは?

 彼女と話していると、俺の手持ちの情報がどんどん抜かれていく。


 話術とか催眠術とか、そんなチャチなものではない、

 何かとんでもない力が働いているようだ……。


「んじゃ同意とみたぞ。金は振り込んどくからの」


「えーと口座番号いくつだったかな」


「一番金が入っている口座でいいかの? U◯Jがメインバンクじゃろ?」


「さすが調査室……」


「そりゃ、これが本業じゃからのう」


「それで、俺たちは政府のために何すれば良いんですか?」


「うむ、いくつかあるが、そう難しいものでもない。まずはエネルケイアの行動の抑止じゃ。わしらも確認しているが、あやつらをあのまま放っておくと、そのうち外交的な問題になる」


「ああ、確かに……」


「次に、異世界の政府機関と外交関係を築くことじゃな。異世界の指導者に、わしらの存在を認知してもらい、連絡を取り合えるようにして、のちのち、条約なんぞが交わせるように、下地作りをするんじゃ」


「それって政府の人の仕事じゃ?」


「その政府のわしらが異世界に行けないから、お主らが代わりをするんじゃ」


「なるほど。」


「最後に、異世界の資源や物品の調査じゃな。とくに『創造魔法』はヤバイのう。こちらの世界で使えるとなると、世界に与える影響が大きすぎるわ」


「あんな宝石がポンポン出せるようになったら、給料三ヶ月分で買った結婚指輪の大きさが、家くらいの大きさになりそうですよね」


「うんむ。ちょっとシャレにならんのぅ」


 ちょっと足を組み替えようとして、足元のゴミを引っかけたマイさんは、眉をひそめ、すっげぇ嫌そうな顔をした。


 ごめんて。人を迎える家じゃないんですよ我が家は。


「で、一応なんじゃが……お主ら『デュナミス』のメインメンバーには、それぞれ調査の補助として、わしら調査官がつくことになったんじゃが……」


「え、じゃあマイさんが俺の担当ってことですか?」


「そうなるのぅ」


 わぉ、なんかすごいことになってきたぞ。

 俺はマイさんの、つまり政府の指示でゲームするって事になるんだろうか?

 それってもう仕事じゃん。


「ってことは俺、政府公認のゲーマーってコトォ……?!」


「政府の金で遊べて良かったのう。さて、ワシはしばらくお主の家を出入りする事になるんじゃが……ま、体よく彼女ってことにしとくか」


「ほげ!?」


 さっくり衝撃的な事をいうマイさん。

 いや、これは彼女の仕事だ。彼女が出来たわけじゃない。落ち着け俺。


「そしてお主には、最初の任務を命じるぞ!」


 彼女の言葉の衝撃で頭が痺れたままの俺は、固唾をのんで彼女の言葉を待った。

 いったいどんな任務が俺に与えられるのだろう。


「心して聞くが良い。それは――」





「――掃除じゃ!!!」


 ですよねー。


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