創造魔法


 俺が出会った女の子はリリカと名乗り、村まで案内してくれた。


 彼女はこのゲームのノンプレイヤーキャラクターだというのに、まるで本物の人間と変わりない様子だ。


 村で生まれ育ったという彼女は誇らしげに村を紹介した。

 なんでもこの村は、どんなに厳しい冬でも餓死者を出したことがないらしい。


 現代人である俺にはあまりピンとこないが、ここは中世ファンタジーな世界だ。ここではきっと、食料の問題が重要なんだろうな。


 村の家々はそれぞれ個性的で、カラフルな漆喰で彩られ、花や野菜が軒先に植えられている。村の匂いは新鮮で甘い。


 ゲームにしちゃ、スゲー生活感だな。ここまでやる?


 花や野菜はそれぞれサイズが違い、虫食いやしなび方まで差分がある。


(スッゲー……使いまわし感がまるで無いぞ)


 いかに質感やライティングがリアルなゲームでも、同じような箱や草が並んでると「あ、ゲームなんすね」と思ってしまう。


 しかし、この世界は違う。


 何が違うって、全部違う。同じものがまるで無いのだ。

 これによって段違いの没入感が得られている。


「あの、旅芸人さんは、お名前はなんというのですか?」


「あぁ、ユウでいいよ。あと、俺は旅芸人じゃなくて、アークメイジだから……」


 アークメイジとは、『クロス・ワールド』の魔法使いの最上位職だ。


 といっても、実装されている中での最上位になる。

 この拡張された世界では、さらに上位の魔法使いが存在するだろう。


「あ、アークメイジ!? ユウさんは魔術師さんなんですか!?」


「うん、何か使ってみようか?」


「村の中ではちょっと……」


「そうだね、ごめん」


「そうだ、ユウさんに村長のゼペットさんを紹介しますね!」


 お、村長キター!!

 どうやら職業の会話でクエストが進行したみたいだな。


 ふむふむ、新拡張のシステムが大体わかってきたかも。


 キャラクターと自然な会話を通して、クエスト、それ自体を探しだせ。

 開発が意図したのは、きっとそういうコンセプトなんだろう。


 よほど会話を「スキップ」されるのが頭に来たんだろうか?


 『クロス・ワールド』って、ゲームは面白いけど、ストーリー自体はポンコツでクソって評価されてるからな。


 まぁ、ぶっちゃけると、世界観とキャラ、そして会話の質が低すぎるんよ。


 リリカとしたような、こういう自然な会話だったら全然OKなんだが、クロス・ワールドのクエストとか会話のテキストって、ファミコン時代よりヒドイからな。


「開発もやればできんじゃん……」

「はい?」

「いや、なんでもない」


「はぁ……稀人さんは不思議な言葉使いをしますね」


「言語の翻訳に不具合があるのかもな。なにせ、俺は別の世界から来たから」


「そ、そうでしたね!」



「ゼペットさん、稀人まれびとさんがいらしましたよ!」

「どうも、俺はアークメイジのユウと言います」


 俺はリリカに村の丘にある、ちょっと大きめの家に連れてこられ、そこで村長のゼペットじいさんと引き合わされた。村長は俺の姿を見ると、白く長いヒゲを撫でながら、感嘆の混じったため息を吐いた。


「おぉ……! 稀人まれびと様、それも魔術師とは……!」


「そのマレビトっていうのは、なんですか?」


「これは失礼しました。別の異なる世界より来た方々に対して、我らはそう呼んでおりますのじゃ」


 とりあえず村長なら、なにかクエストを持ってそうだな……。

 ……いや、まてよ? リリカの例がある。

 フツーに「クエストくれ」といっても「は?」となりそうだ。


 そうだな、クエストの要求か、こんな感じか……?


「ところでゼペットさん、村でなにか困っている事はないか?」


「困ってること、ですかな?」


「あぁ、俺は人の助けになりたいんだ。困ってる人のために、俺の力を使いたい」


 おぉ……我ながらなんか勇者っぽい発言。

 やれば出来るもんだな。――さぁ、どうだ?


「そこまで言うのでしたら……村の近くにある丘から、山牛がやって来ては畑を荒らして難儀しておりますのじゃ、山牛をなんとかしていただけたら、村から感謝の証を差し上げましょう」


(よし、ビンゴォ!!)


 なるほどな、この拡張された世界のシステム、やり方が大体わかってきたぞ。


 俺は村の外に向かい、速攻で山牛とやらをファイアボールの魔法で消し飛ばすと、残骸から頭骨を回収して、ゼペットの前に並べた。


 どうやら新拡張では、クエストの「何匹倒せ~」というシステム的な表示もないようなので、とりあえず10匹分だ。これで足らなかったらまた行ってこよう。


「とりあえず10匹ぶっ倒してきました。どうでしょう?」


「や、山牛を10頭も……?」

「1頭倒すだけでも、騎士さんたちが10数人で取り囲むのに……!」


「まぁ、確かにデカいことはデカかったですが、大したことは無かったです」


 山牛の強さは、俺の体感的には序盤の強さだった。新エリアの敵って、フツー序盤から強いもんだけど、どうやら新拡張で新しく遊ぶ人に向けて優しくしたんだろうな。このゲームの開発にしては、気が利いている。


「ユウさま……旅芸人かと思ったら、こんなにお強かったんですね!」


「いやー、俺より強い人は、元の世界にゴロゴロいますけどね」


「ユウさんよりお強い人が、ゴロゴロ……?」


「うぅむ……これほどの働きに見合う価値があるものは、我らの村には――」


「ゼペットさん、ここは村の宝をお分けしたらどうでしょう?」


「村の宝?」


「うむ……この村がどんなに厳しい冬でも餓死者を出さなかったのは、村の宝である、とある創造魔法そうぞうまほうの力によるものなのですじゃ」


 ぬんぬぬん? 「創造魔法」とな?

 どうやら新要素が出てきたな。これが新拡張の目玉要素か?


「創造魔法? 聞いたことがない魔法ですね」


「ユウ殿、これをお持ちくだされ。村人用の『写し』ですじゃ」


 俺は羊皮紙に複雑な文様が書かれた『呪文の写し』を受け取った。

 なるほど、カタカナっぽい形の異世界文字が、文様に囲まれている。

 これを読み上げれば『創造魔法』が使えるのか?


「これは……ここにある言葉を読み上げれば使えるのですか?」


「うむ、試しに使ってみてくだされ」


「では、失礼して――『クリエイトフード』!!」


<ポンッ!>


「おぉ……」


 呪文を読み上げた俺の前には、お皿に乗った黄色いマフィンが出てきた。

 こりゃ面白い。戦闘以外にもこんな魔法が使えるようになるのか!


「ゼペットさん、この世界には、他にもこういった創造魔法があるんですか?」


「もちろんです。ポーションを作り出したり、武具を出したり、優れた術者であれば、宝石・・を出すこともできますぞ」


「生き物は出せないんですか?」


「と、とんでもない!! 創造魔法で出して良いのは、物だけです」


 おっと、怒られてしまった。


 どうやら創造魔法で生物を出すのは禁忌らしいな。


 しかし、逆に生物以外、「物」は出して良いわけか。

 こりゃ面白くなってきたぞ!

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