第六章 中盤戦 妙子

ドーン!ドーン!


 


乾いた二発の銃声が大勢の招待客や関係者達を混乱させ、会場に緊張を走らせる。




「キャーーー!」


「どうした!何が起こった!」


「そこをどけー!」




ここにいる大半の者達は恐らく人生で一度も聞いた事のない爆音を耳にし、既にパニック状態だ。




「貴様ら命が欲しければ勝手に動くな!喋るな!騒ぐな!我々の指示通りに動け!分かったな!」




銃を発砲した男がそう言い放つと会場全体が一気に森閑になった。




「いいか、良く聞け!このホテルは今から我々が乗っ取る。そして、これより貴様ら全員我々の指示通り動いて貰う。自分がハイジャックに遭遇する訳ないとまだ思っている奴、これは現実に起こっている事だぞ。目を覚ませ!いいな!」




「おいおい、なんだ、お前達。私ですらこんなサプライズは聞いていないぞ。それにお遊戯にしては少しやり過ぎではないのか?」




透が勇敢にも立ち向かった。




「なんだ、貴様。俺はさっき勝手に喋るなと言った筈だが。それとも殺されたいのか?それに我々は別に貴様らを楽しませる為の余興でハイジャック犯を演じている訳ではない。これは現実に起きている事だ」




そう言いながらハイジャック犯が透に銃を向ける。




「・・・・・分かった。お前の言う事を信じよう。しかし、当然我々が助かる道は用意されているのだろうな」




「ああ、勿論だ」


 


ハイジャック犯はそう言うと銃を引っ込め、マイクを片手で持った。




「いいか、我々は別に貴様らの命が欲しい訳ではない。但しこの場から逃げた者、つまり我々の目的を阻害した者には容赦なく発砲する。覚悟しておけ。もう気付いている者もいると思うが、既にこの会場には俺の仲間が三人いる。また更に後一人仲間がいるが、その者はこの会場以外の部屋やロビー、廊下等にいた全ての者達を人質にし、一階のロビーにいる。また、外からこのホテル内に人が入れないように入口等を完全に閉鎖した。よって、このスカイタワーは全て我々が占拠し、貴様らは誰一人外に逃げられないのである。そして、今から貴様らが執るべき行動、つまり貴様らが助かる唯一の方法を説明する。一度しか言わなから良く聞け。今から貴様達は我々の人質になって貰う。そして、その人質は二つのグループに分かれて貰う。一つ目のグループは一階のロビーで既に人質になっている者達と同じく目隠しをし、ロープで両手両足を結び共に人質になって貰う。ロープは適当に近くにいる者に結んで貰え、そして、それを繰り返し、最後まで残った者は我々の仲間が結んでやる。今言ったグループを仮にグループ1としよう。ああ、ちなみに一階のロビーには遠隔操作出来る爆弾と監視カメラが仕掛けられている。もし意図的に監視カメラを破壊し、我々に一階の様子を監視させない行為を執る事や人質から脱出する為の不審な動き等があったら容赦なく爆破スイッチを押す事になる。覚悟しておけ。一人がそんな事を行ったら当然全員が爆破に巻き込まれる事になる。今、もしそんな行為を執るような事を考えている者はその辺も覚悟しておけ。そして、二つ目のグループ、つまりグループ2。こっちはグループ1程きつくない。ただ我々が指定した部屋に監禁され、ひたすらハイジャックが終わるのを待つのみだ。目隠しもロープで両手両足を結ばれる事もしない。飲食は自由で部屋にあるトイレも使っても良いし、適当に睡眠しても良い。一階のグループ1に比べたら天国だろ。但し、当然部屋の外から我々の誰かが交代で監視する。そして、何故グループ2を作るかを一応言っておく。もし警察等に潜入された場合の最後の人質として保険を掛けておく為だ。そして、グループ2の選抜メンバーは公平にクジ引きで決める。当たりクジは八枚だ。よって、八枚当たりクジが出た時点で自動的にクジ引き大会は終了する。但し、当然ここの最高責任者である笹野透氏はクジを引かずして、自動的にグループ2のメンバーに入って貰う。よって、計九人がグループ2に選ばれる事になる。そして、全ての者達の携帯電話、ノートパソコン、タブレットPCといった外部と通信が出来る機器は全て没収する。クジ引きの時それらを渡して貰い、隠し持っていないかを確認する。女でも容赦なくするからな。もし後でそういう機械が見付かったら容赦なく打ち殺す。覚悟しておけ。そして、もう一つ大事な約束事がある。それは我々の目的等は一切訊かない事。これだけの事を守れば命だけは助かる。いいな!・・・・・ああ、それと一階のロビーで人質になった者達は当分の間トイレに行けないから後で行っておけ。後でその時間を作ってやる。但し、我々の見張り付きだがな。よし、ここまでで何か質問がある奴は手を挙げろ」




ハイジャック犯が発するマイクを通した大声が会場に響き渡たり、壇上の上から会場にいる者達を見渡す。




「おい、そこの貴様なんだ?」






みっ、御神君が手を挙げている。




「質問というより一つお願いがあるのだが良いか?」




「・・・・・取り敢えず聞いてやる。なんだ?」




「一階のロビーで人質になる人達のグループは長い期間飲食が出来ないのだろう。だったらせめて人質になる前にここにある食べ物を食べさせてくれないか?」




「・・・・いいだろう。トイレに行く時間の時に食事をする事を許可する」




「今度は本当に質問があるのだが、良いか?」




「なんだ?」




「あんたらの目的は?」




「貴様、さっきの俺の話を聞いていたのか?それとも殺されたいのか?」




ハイジャック犯が御神に銃を向ける。




「分かった。申し訳ない」




 御神が両手を挙げそう言うと、ハイジャック犯は銃を下におろした。






「よし、早速クジ引きを始めるぞ!順番は適当だ。近い者からどんどん引いて行け。当たった者は壇上に来い。外れた者は適当に部屋の端に行け。そして、引いたクジはテーブルの上にある回収箱の中に入れろ」




客席にいるハイジャック犯の一人が黒色のクジ引き箱と回収箱を用意し、テーブルの上に置く。




「よし、クジ引き大会開始だ!」




壇上にいるハイジャック犯がそう言い放つと招待客達、関係者達が恐怖を抱えながらも言われた通り携帯電話やノートパソコン、タブレットPCを素直に差し出しどんどんクジを引いていく。


 


クジ引き大会が始まってから五分が経過した。




まだ当たりクジは一枚も出てない。




次は佳純の番だ。




「・・・・・あっ、当たりですね」




当選者一号が出たようだ。




更に十五分が経過した。




次は昨日と同じスーツを着ている誠の番だ。




「・・・・・これは、当たりだね」




ハイジャック犯にゆっくり引いたクジを見せる。




「そのようだな。さっさと壇上に行け」




そう言われた誠はクジを回収箱の中に入れ、足早に佳純の待つ壇上に向かった。


次は大きなバックを肩に抱えた三十代前半に見えるスーツ姿の女の番だ。




「・・・・・当たったわ」




天国か地獄かを選ぶクジ引き大会が始まってから一時間経過した。




今の所当選者は三人出た。




残っている当たりクジは五枚だ。




「こんなの当たる訳ないよ」




「いいからさっさと引け」




「・・・・・」




「い、嫌だー」




外れた者達の反応は様々だ。








「妙子、大丈夫か?」




隣にいる御神君が私の事を心配して小声で話し掛けて来た。




「・・・・・うん」




震えが止まらない。




さっきから声を出そうと思っても出せない。




勿論怖かった。




いや、自分がハイジャックに巻き込まれるなんてまだ信じられないと言った方が正しいかもしれない。




でも御神君と一緒なら・・・・・大丈夫。




前方を見ると次は篠坂さんと名刺交換していたコバルトブルーの長袖のワイシャツを着ている気弱そうな男の番だった。




「あのー、煙草は持っていても宜しいでしょうか?」




「・・・・・良いだろう」




「有難う御座います」




ハイジャック犯にそう礼を言うがその男はなかなかクジを引かない。




「おい、貴様さっさと引け」




「すみません。緊張してしまって・・・・・あっ、当たった」




どうやら当たったようだ。




そこから更に十分が経過した。




次は篠坂さんの番だ。




・・・・・私は正直、外れて欲しいと思った。




「おい、貴様そのカメラも差し出せ」




「分かったよ」




篠坂が首から下げている商売道具を素直に差し出し、クジを引いた。




「・・・・・よし、当たった」




更に十分が経過した。




次は眼鏡を掛けた四十代前半に見えるスーツ姿のインテリ風の男だ。




「・・・・・これは当たりクジですね」




その男がハイジャック犯に自分が引いたクジを見せる。




「ああ、その通りだ。壇上に行け」




当たりクジは後二枚だ。




御神君と一緒にいると何故か助かる気がした。




御神君と一緒ならどっちのグループでも良い。




そして、いよいよ私の番が回ってきた。




妙子が黒い箱に手を入れ、クジを引く。




折り畳んでいるクジをゆっくり開き確認するとそこには「当たり」と書かれていた。




「・・・・・あっ、当たったわ」




「これで後、残っている当たりクジは一枚だな」




私はクジを回収箱の中に入れて壇上へ向かう。




次は宮内君の番だ。




私は複雑な気分になった。




宮内君がクジを引き、確認する。




「・・・・・これは外れですね」




今、私は宮内君に対して罪悪感と感謝が混在している。




正直自分が卑しく思えた。




次はいよいよ御神君の番だ。




当たって、当たって。




神に祈るような気持ちで御神君を見つめた。




御神が黒い箱に手を入れ、クジを一枚引き、確認した。




「・・・・・当たりだ」




・・・・・良かった。








「よし、グループ2の全てのメンバーが確定したな。クジを引けなかった者達はこっちに来てノートパソコンや携帯電話、タブレットPCを差し出せ。グループ1になった者達は早く食事をして、トイレに行っとけ。三十分やる。はい、スタート!」




ハイジャック犯が手を叩き、約五百人が一斉にトイレと料理に向かって走り出す。




「どけ!」




「これは、俺の物だ」




「まだかよ、さっさと出ろよ」




私はこの乞食のような光景を目の当たりにし下卑した。




「人間なんていざという時、醜い生き物に変わるものだね」




そう言いながら宮内が御神達の元に近づいて来る。




「それが人間の本質だからか仕方のない事だよ」




「まぁ、そうだね。それより俺と御神が別のグループになって良かったね。一階のロビーは俺に任せて。後ハイジャック犯達の目的って何なのかな?」




「ああ、クジ引きで人質のランクを決めるなんてふざけている。よって、これは何か別の目的があるに違いない」




「人質になっている間、考えてみるよ。解放されたらお互いのグループで何が起こったのか話し合おう」




「ああ、お互い生きて脱出出来たらな」




私は宮内君に対して罪悪感の方が大きくなった。








あっという間に三十分が経過し、グループ1になった全員がハイジャック犯三人によって一階のロビーに連れて行かれている。




今の所大した、トラブルはなく皆、大人しくハイジャック犯達に付いて行っている。




「よし、貴様らも移動するぞ。付いて来い」




そう言われた御神一行は三十五階の3501号室に連れて来られた。




その部屋はスカイタワーでも有数のVIPルームであり三十畳程の広さがあり、九人は十分収容出来る。




青い光が照らされた専用プールも付いている。




また、冷蔵庫の中には水や酒、ジュースなどが入っており、更にガラスのテーブルの上にはフルーツや菓子も置いてある。




「我々の指示があるまでこの部屋の中にいて貰う。中にトランプ、囲碁、将棋が置いてあるからそれまでそれらで遊んでいろ。分かったな!」 




ハイジャック犯がそう言い放つと九人を部屋の中に入れた。




「私達、凄いVIP待遇だわね。一泊何十万円もするこの部屋が監禁部屋に選んで貰えたなんて。逆にハイジャックされてラッキーだったかしら。でも、透さんは何時でも入れるけどね」




扉が閉まる音を確認すると、早速大きなバックを肩に抱えたスーツ姿の女がそう皮肉を発した。




「そんな悠長な事を言っている場合ですか。それにそんなに大きな声で喋ると外にいるハイジャック犯達に聞こえますよ」




クジ引きの時、ハイジャック犯に怒られていた男が自分の身を心配する。




「それは大丈夫ですよ。この部屋は防音で作られていますから例えこの部屋でピアノを演奏しても銃を撃っても外に音は漏れません」


 


透がこの部屋の構造を説明した。




「そうですか。では窓から外に助けを呼ぶ事は可能でしょうか?この部屋は防音だそうですから犯人に大声で叫んでも窓を激しく叩いても聞こえないと思いますし」




「残念ながら恐らく無駄な事でしょう。何故ならこのホテルの全部屋の窓は勿論開きませんし、全てのガラス窓は反射率の高い熱線反射ガラスを使用しているので、朝や昼でもホテルの中の様子は外から見る事は出来ませんし、夜なら尚更です。また、ハイジャック犯達がこの部屋以外の明かりをつけているとしたら我々が何処の部屋にいるかも分かりませんし、しかもこの雷雨ではまず我々の存在に気付かないでしょう」 




「・・・・・そうですか」




「透さん、グランドタワーの方もそういう材質のガラスを使用しているのですか?」




「そうだよ、御神君」




「こうなったのも何かの縁だ。皆さんそれぞれ自己紹介しましょう。但し、透さんは有名ですから除きますけどね」


 


突然、篠坂が八人にそう提案した。




「そんな悠長な事を言っている場合ですか?篠坂さん」




怒られ男が篠坂の提案に苦言を呈した。




「まあまあ、良いじゃないですか。今川さん。今は特にする事もないでしょうし、この先全員の名前を知っていないと何かと不便ですしね」


 


誠がその怒られ男の事を知っている様子だ。




どうやら名前は今川と言うらしい。




「分かりましたよ」




「では順番は時計回りで、まず私から。フリーカメラマンの篠坂純一です。今考えている事は、もし生きて家に帰れたらこの事をネタにして本でも書いてみるかです」




篠坂さんの発言によって場が少し和んだような気がした。篠坂さんは本当は凄く気さくなだけで、少し横柄なだけなのではないか?




さっき「外れてしまえ」と心の中で言った事を思い出し悔恨した。次は怒られ男、今川さんだ。




「私の名前は今川晋司と申します。山鍋興業の社員として参加しました」




だから誠さんは今川さんの事を知っていたのか。




納得した。




次は大きなバックを肩に抱えているスーツ姿の女の人だ。




「ジャーナリストの二宮香織よ。全くこんな事に巻き込まれてとんだ災難だわ」


 


だから大きなバックを持ち歩いていたのか。




次は佳純さんの番だ。




「山鍋佳純と申し上げます。そこにいらっしゃいます笹野誠さんの婚約者という事でそのお兄様である透さんにご招待して頂きました」


 


次は誠さんの番だ。




「笹野誠と申します。山鍋興業の社員であり笹野透の弟でもあり、更に先程紹介に挙がった佳純の婚約者です」




「へー、貴方が誠さんか。これまた婚約者共々で当たりクジを引く事が出来て運が良いですね。貴方、玉の輿にも乗れるし、最近相当ついているでしょう」




篠坂が揶揄した。




「玉の輿?」




二宮が反応した。




「ええ、佳純さんは山鍋興業の社長のご令嬢さんなんですよ」




「ああ、そういう事」


 


二宮さんが何か知っていて納得した様子だ。




一体何なんだろう?




次は眼鏡を掛けているスーツ姿のインテリ風の男だ。




「東京で弁護士をやっている榎本駿二と申します。現在、透さんの顧問弁護士を承っていましてそれが縁で今回のオープンパーティーにご招待して頂きました」




本当にインテリだった。




この時だけは人は見掛けによるものだと思った。




次は御神君の番だ。




「東京の秀明館高校二年の御神蓮司です。佳純さんの友人という事で今回のオープンパーティーにお招きして頂きました」




「へー、君高校生なんだ。しっかりしているからもっと歳が上だと思っていたわ」


 


二宮さんが意外そうだ。




同意見だ。




確かにそう思うのも無理もない。




御神君は大人びて見えるし、考え方もしっかりしている。




そして最後に私の番が回ってきた。




「同じく秀明館高校二年の秋山妙子です。御神君とクラスメイトという事で本日のオープンパーティーに誘って頂きました」




「君達、同級生なんだ。・・・・・もしかして恋人同士?」 


 


二宮がそう茶化した。




「そう見えますか?」


 


御神がそう答えると妙子の顔が少し赤く染め上がった。




「ええ、美男美女の理想のカップルに見えるわよ」




「実際にそうだったら、良いのですが」




「違うんだ」




「残念ですが」


 


・・・・・えっ。もしかして?だったら・・・・・両想い?








妙子の顔が更に赤く染め上がった。




「全く、ハイジャックに巻き込まれるなんてとんだ災難だ」


 


透がこの予期せぬ事態に慨嘆した。




「山光興業は株主総会が近いですし、今は貴方にとっても大事な時期ですからね」


 


榎本がそう補足した。




「と言いますと?」


 


御神が訊ねる。




「はい、実は十一月に山光興業の株主総会が開かれるのですが山光興業の喜田社長はご存知の方もいらっしゃると思いますが予てから持病を抱えており、今回のオープンパーティーには参加しておらず、次の株主総会を以って社長の座から身を引く予定なのです。山光興業は派閥関係なしの実力主義の企業で、自社の社員ならば実力があれば誰でも栄達していく世俗なのです。そして、今度の株主総会で恐らく現在の副社長が社長の座に居座り、重役の一つ空いたポストを含めて副社長、専務、常務の全ての取締役を大株主の投票によって決めるのです。そして、透さんは今回のスカイタワーの開業が成功するのかどうかが、重役の座に上り詰められるのかのキーポイントなのです」 




「そうでしたか」




「御神君、このハイジャック事件に対する君の見解を訊かせてくれないか?」


 


篠坂が唐突に御神に問う。




「何で高校生の御神君なんですか?」


 


今川が不服そうだ。




「いや、この中で彼が一番冷静そうだからですよ。・・・・・御神君、訊かせてくれないか?」




「はい、現時点ではあまりにも不確定な要素が多過ぎるので、私からはまだ何とも言えませんが一つ確定した事があります」




「その唯一の確定要素とは一体何なのだね?」




「はい、私は先程ハイジャック犯に「あんたらの目的は?」と質問しました。


そして、ハイジャック犯は少し激昂して「貴様、さっきの話を聞いていたのか?それとも殺されたいのか?」と答えました。つまりこの事から本当に目的を我々に知られたくないという事になります。では、人質にも知られたくない目的とは何でしょうか?普通ハイジャック犯の目的と言えば海外への亡命、刑務所にいる仲間の保釈、身代金の要求でそれらは別に我々に知られても構わない事です。そして、ハイジャックを開始してから直ぐにその要求を警察や山光興業本社に連絡し、交渉し取引をするものです。しかし、ハイジャック犯達は開始してから直ぐに警察や山光興業本社に連絡もしていませんでしたし、まだ外にはパトカー等が来ていませんから今も恐らくしていないでしょう。つまり、我々に知られたくない目的とは通常のハイジャックをする目的以外であるいう事が現時点で確定しているという事です」




「そうだね。君の言う通りだね。どうでしょう。もっと皆さんでハイジャック犯達の目的について考えてみませんか?」


 


篠坂が御神の意見に賛成し、そう提案した。




「それを今議論した所で意味はないわ。それよりも我々が助かる方法を考えましょうよ」


 


二宮が篠坂の提案を却下し、提案する。




「私も二宮さんの意見に賛成です」


 


榎本も二宮の意見に乗った。




「いや、このまま大人しくしていればハイジャック犯達は我々に危害を加える事はしないと言っていましたので下手に動かないようにしませんか?」




今川がそう言いながらワイシャツの左胸ポケットから一本煙草を取り出し、火を点けた。




「ハイジャック犯達の言葉をそのまま盲信するのは如何なものでしょうか?」


 


榎本がハイジャック犯達の言動を懐疑的だ。




「それに何時私達が解放されるのかも分からないし、実行する、しないにしても脱出する方法を考えるだけはした方がいいんじゃないですか?」


 


二宮が榎本に続く。




今川は面白くない顔だ。




吸ってから間もないのに口に加えていた煙草を灰皿に擦った。




「裏口から逃走するというのはどうですか?透さん」


 


二宮がそう訊く。


 


このホテルには裏口があるんだ?




いや、そんな物の存在は当然か。




「現在、両ホテルに出入り出来る裏口のカードキーはスカイタワーの一階のフロントに置いてありますから、そこはハイジャック犯達が占拠しているので取りに行くのは無理です」




透がそう反論した。




「そうですか」


 


二宮がそう残念そうに嘆いた。








暫く沈黙の時間が流れる。




「こんな時です。皆さんでトランプでもやりませんか?」


 


誠が静寂を破り、そう提案した。




この部屋にはハイジャック犯が言っていた通りトランプ、囲碁、将棋が置いてある。




「そうですね。気分転換にもなりますよ」




私が誠さんの提案に乗る。




こんな時だ。




少しでも明るくしなくては。




「こんな状況にもかかわらず呑気でいいですね。そんな事より、脱出の方法を考えるべきだと思うのですがね」




二宮が少し呆れている。




「良いじゃないですか、二宮さん。どうせハイジャック犯達の指示があるまでは下手に動けないのですし、ハイジャック犯が「それらで遊んでいろ」と指示していましたしね」




透が二宮を説得した。




「分かりましたよ」




「佳純さんは如何ですか?」




妙子が無言でずっと窓から外を見ている佳純に声を掛けた。




「すみません。私は遠慮しておきます」




「・・・・・佳純」




誠が切なそうに佳純を見つめる。




「御神君、我々は囲碁でもやりせんか?時間潰しになりますよ」




今川が碁盤と碁石を手に持ち、そう提案した。




「ええ、構いませんよ」




「煙草吸いながら、打っても良いかい?」




「良いですよ。今川さんはヘビースモーカーなのですか?」




「そうだよ。煙草は私の大好物なんでね」




御神VS今川の対局開始から二時間経過した。




その間、他の者達はトランプをしたり、窓から外を見ていたりしていた。




「・・・・・負けました。いやー、御神君、強いね」




「囲碁はルール自体にあまり制約がない分、自分の発想が自由に生かされるので昔から嗜んで良く父と打っていました」




「へー、そうだったのか。通りで強い訳だ」




更に一時間過ぎた。




今川さんはさっきからずっとソファーに座っている佳純さんに話し掛けている。




二宮さんは篠坂さんと何か話している。




榎本さんと透さんもだ。




誠さんと御神君は黙ったままだ。




「皆さん、そろそろ仮眠を取りませんか?」


 


透さんがそう提案した。




時計を見ると既に二十四時を回っていた。




「透さん貴方、このパティーの最高責任者でしょう。自分達だけ休んでグループ1になった人達に申し訳ないと思わないのですか?」




佳純が反発する。




「分かっています。グループ1になった皆様方には何かしらの形で責任を取るつもりです。ただ比較的自由に動ける我々が疲れたまま、休まずに動けなくなってしまっては本末転倒でしょう」




「そうですね。透さんの言う通りです。皆さん、休みましょう」




二宮が佳純に少し冷たい態度を執り、透の意見に賛成した。




「好きにして下さい。でも私は起きていますから」




そう言って、佳純は窓際に向かった。




「佳純!」




「佳純さん」




誠と今川が佳純の憤りを抑えようとしたが、佳純は振り向かなかった。








十分が経過した。




ベッドやソファーで横たわっている者、座っている者、床に立っている者と九人の状態は様々であるが誰一人として口を開かない。




しかし、御神がこの沈黙を破った。




「透さん、休んでいる所申し訳ありませんが一つお訊きしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」




御神がソファーで横臥している透に近づき、声を掛けた。




「・・・・良いよ。なんだい、御神君」




透が眠たそうな声でそれを了承した。




「はい、確か現在、透さんだけがスカイタワーとグランドタワーを行き来が出来るIDカードを持っているのですよね」




「ああ、そうだよ」




「今日一回でもそのIDカードを使って、渡り廊下の扉を開け、グランドタワーに行きましたか?」




「ああ、システムチェックと嫁に会う為にオープンパーティーが始まる一時間前位に開けたよ。でそのまま開けっぱなしにして十五分位前に閉めたよ」




「嫁と言いますと?」




「私の嫁は積王商事の社員でグランドタワーのオープンパーティーに参加しているんだよ。そして、嫁から直接話したい事があると連絡があり、わざわざ豪雨の外に出て、グランドタワーに行くのは手間が掛かると思い、丁度シムテムチェックもしなければならなかったから三十階からグランドタワーに行ったんだよ。丁度、嫁の部屋も三十階だったからね。まぁ、主催者の特権を使った訳だ」




「透さんはもしかしてスカイタワーもグランドタワーも泊っていないVIPルームのカードキーを自由に持ち運び出来るのですか?そして、その部屋に自由に出入り出来るのですか?」




「出来るよ。私は両ホテルの最高責任者だからね」




「今、VIPルームのカードキーを持っていますか?」




「いや、まだ一度も勝手に持ち運びした事はないから持っていないよ」




「そうでしたか。休んでいる所起こしてしまい申し訳ありませんでした」


 


そう一言詫びを入れて御神は透の元を去って行った。




「御神君は休むの?」




妙子が疲れた表情でそう訊いた。




「俺は起きているよ。でも妙子は寝た方が良い。寝不足は肌にも悪いしね」




「・・・・・うん、そうする。でも亜理紗達は大丈夫かしら?」




「オープンパーティーの開始時間に三人共間に合わなかったとなると、考えられるパターンは恐らく三つ。一、オープンパーティーの会場に行く途中、彼ら達の興味が沸く何かを一人以上が発見し、それに他の者が付き合わされ、俺達と逸れ、その際ハイジャック犯達に捕われた場合。二、何か理由があって三人共スカイタワーの外へ出て、スカイタワーに戻ろうとしたがその時にはもうハイジャック犯達にスカイタワーの入口等が全て閉鎖された後で、戻れなくなった場合。三、彼らの内最低一人が、透さんが扉を開けた渡り廊下を発見し、一人でもグランドタワーに興味を持ち、三人共渡り廊下を渡りグランドタワーへ探検しに行き、スカイタワーへ戻ろうとしたがその時にはもう透さんが扉を閉めた後で三十階からスカイタワーへ戻れなくなり、一階まで降り、グランドタワーを出て、スカイタワーへ入ろうとしたが、その時にはハイジャック犯達がもう入口等を閉鎖した後で入れなくなった。もしくは三十階からスカイタワーに戻れなくなった時点で誰か一人でもそのままグランドタワーのオープンパーティーに参加しようと言い出し、そのままそれに飛び入り参加した場合。しかし、三つ目の後者の場合はもしグランドタワーの方もハイジャックされていたら、今頃彼らも俺達と同じく人質にされている事になるな」




「・・・・・そっ、そうだね」




「明け方、タイミングを見計らってハイジャック犯にグランドタワーもハイジャックしているのか訊いてみるよ。取り敢えず今日は疲れているだろうからもう妙子は休んだ方が良い」




「うん、分かった」




そう言って直ぐにソファーに横になったが、暫くは寝付けなかった。




今日一日いろいろな事があり過ぎて疲れている筈なのに。




何時襲ってくるか分からないハイジャック犯達が怖いからなのか?




それとも、こんな時でも御神君に寝ている姿を見られるのが恥ずかしいからなのか?




さっきの見解は凄かった。




一目見た時から確信を持っていた。




御神君は他の人と何かが違う。




やっぱり御神君と一緒なら何とかなる気がする。




必ず助かる。




安心した私は何時の間にか寝ていたそうだ。








一夜が明けた。全員が起きている。




六月九日六時半。




唐突に御神達にハイジャック犯が山光興業本社にスカイタワーをハイジャックしたという内容の連絡をした事を告げる。




突然防音扉が開かれた。




「おい、貴様ら良く聞け。たった今、山光興業本社にスカイタワーをハイジャックしたと連絡した。恐らく後十分程で警察にホテルの周りを取り囲まれる。俺はやらなければならない事があり、直ぐにこの部屋を出ていかなければならないが念の為、貴様達を直ぐに盾に出来るようにこの部屋に二人の仲間を置いておく。分かったな!」




そう告げると、リーダー格と思われるハイジャック犯は部屋から出て行き、その後ろにいた二人のハイジャック犯はこの部屋に残った。






それから十分が経過した。




「・・・・・一つ訊いても良いか?」




御神君、もしかしてあの質問をする気なの?




「・・・・・良いだろう。但し手短にな」




「グランドタワーもあんた達の仲間達が占領しているのかい?」




「・・・・・いや、していない」




だったら、亜理紗達は無事なの?


 




二十分が経過した。




窓から外を見ると既に警察がスカイタワーとグランドタワーの周りを取り囲んでいる。




しかし、当然外からはここにいる私達の姿は確認出来ない筈だ。






三十分が経過した。




ハイジャック犯達が少し後ろを振り向いた。




その時、透さんが立ち上がった。




何をする気だ。




「きっ、貴様!何をする!」


 


何と透さんが勢い良く走り出し隙を付いて後ろを向いていたハイジャック犯の一人を抑え、銃を奪ったではないか!




突然の出来事に混乱してしまった。




「透さん!」


 


御神君が大声で叫ぶ。




「止めるんだ!透さん!」


 


御神君が再び大声で叫ぶ。


 


ドーン!


 


しかし、間髪を容れずもう一人のハイジャック犯に向かって発砲した。

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