第13話 突然の電話(拓也視点)

 スマホに表示された名前を見た時、無視しようか迷った。ただ、出ないと何を言い出すか分からない。それに俺は真香のやる事を事前に知る必要がある。もしかしたら、とんでもないことを考えてるかもしれない。俺はスマホに表示された通話を押した。


「ねえ、今から出てこれない?」


「なんの用だよ?」


「それは会ってから話すからね」


 どうせ、ちさきに対することに決まってる。俺はもうやりたくない。確かに当初はあわよくば、ちさきと付き合えるかも、と期待したのも事実だ。


 ちさきは見た目の可愛さは当然だが、本を読んでる姿がとても絵になる。クラスで色々な頼み事をされても嫌な顔一つしないちさき。俺は本気でちさきが好きだった。だからこそ、今の状況を利用して近づいてはダメだと思った。


「その件で、俺に電話しないでくれよ」


「どうしてよ?」


「もう、うんざりなんだよ。意識が戻っても、ちさきが俺に振り向くことはない」


「そんなこと分からないじゃないの? あなた一応彼氏なんだし……」


「あのさ、隼人の行動見ててお前は何も感じないのか?」


「なんのこと?」


「隼人は寝取られた女の起きるのをずっと待ち続けてるんだよ」


「それは違うじゃない。拓也はちさきとキスもしてないよね」


「それを知ってるのは俺やお前だけだろ……、隼人はあの一件で相当参ってた。それなのになぜ、あいつはちさきを待ち続けられるんだよ」


「それは……そうだけどさ」


「そうだけどじゃないだろ! 隣で見てたんじゃないのか。聞いたんじゃないのか。あいつの叫びをさ……」


 隼人のちさきへの愛は本物だった。真香のかりそめの恋なんてすぐに消えてしまうだろう。今、真香がやってることは、海岸で必死になって砂の城を作ってることと変わりない。少し高い波が来たら壊されてしまうのだ。


「それ以上は言わないで……」 


 真香だって分かってるんだろう。俺が次に言おうとしている言葉を嗚咽で止めようとした。


「いや、言うね。あいつは目を覚さないちさきを見て、絶望で死にかけた。寝取られた女なのにな。そんなことありえるかよ!」


「でもさ。隼人はわたしのことも見てくれてるんだよ」


「今はお前が一応彼女だからだろ。でも、ちさきが目を覚ましたら、お前との関係なんか、忘れ去られてしまうよ」


「ひどいよ。そんな言い方しなくてもさ」


「俺は嘘は言ってないよ」


「だからだよ」


 電話越しの真香はいつになく大泣きをしていた。この半年の間のあいつの努力は分かる。でも、だからこそ、終わらせてあげたかった。


「なぜ、そこまで隼人にこだわるんだよ!」


「わたしの初恋の人だから……、誰にも負けたくない! 特にちさきにはね!!」


 俺は頭を抱えた。そんなことで、隼人をここまで苦しい目に遭わせたのかよ。


「分かってるか。事故は俺らが起こしたと言ってもおかしくないんだぞ」


「そんなことないよ。あれは不慮の事故だよ。警察もそう言ってたよ。原因は運転手の脇見運転だったって……」


「直接の原因はそうかもしれない。でもさ、俺とちさきが付き合ったふりしてなかったら、ちさきの隣には隼人がいた。事故は未然に防げたんだよ」


「そんなの可能性の話じゃない!」


「そうだ。可能性でしかない。実際は事故が起きたかもしれない。でもさ、隼人は映画館に行かなかったし、ちさきは一人でいることもなかった」


「それはそうだけどさ。でも……」


「でも、なんだよ。聞いてやるから話せよ」


「あのふたりは付き合っちゃ駄目なんだよ」


「お前、何言ってるんだよ。俺の話聞いてたよな」


「聞いてたよ。だから言ってるんじゃない」


「お前の言ってる事無茶苦茶だぞ」


「そんな事ないよ」


「じゃあ、なんなんだよ」


「隼人とちさきは…………」


 俺はその言葉に一瞬、頭が真っ白になった。


「もう一度言うよ! あのふたりは兄妹なんだよ! 付き合っちゃいけないんだよ!!」


 否定できない。可能性はあった。そもそもお隣同士が同じ病室で同じ日に生まれることなんてあるのか。でも、頭の中ではそう思っても、言葉ではそれを認める事はできなかった。だから……。


「はあ!? なんだよ、それ」


 俺は自分の気持ちを隠そうとした。


「だから、ちょっと出て来て話そうよ。それとこれは隼人には内緒だから……」


「なんでだよ! そんな重要なこと黙っておけと言うのか?」


「今、もし隼人が知ったらどうすると思う?」


「そりゃ、親に聞いたりするだろ」


「今、隼人の心には強いちさきへの想いがある。今、真実を話すことは、隼人を壊すことに繋がるんだよ」


「壊れた時、助けてやるのがお前だろ」


「無理でしょう。分かってるのに、拓也は残酷なこと言うんだね!」


「でも、お前は一度助けただろ!」


「分かってて言ってるの。ふざけないでよ。わたしは何もできなかった。衰弱していく隼人を見てることしか……。元気になったのは、あなたが死んだら、ちさきが泣くよと言ったからだよ。その瞬間、隼人は驚いたような表情をした。その次の日から急に回復したの」


 そうか。真香は絶望に打ちひしがれた隼人を救い出す事はできなかった。隼人にはちさきへの強い想いがあった。真香がそれを利用して立ち直らせただけだ。真香では隼人を救えない。


「分かった。まあ、兄妹の話には興味がある。今からファミレスで集合な」


「うん、分かったよ!」


 ただなぜ、こんな重要な話を今まで言わなかったのか、俺はそれだけが気になった。




――――――――




久しぶりの拓也登場でした。


初めてちさき以外に話した。


これでどう動くんでしょうか。


ちさきは意識を取り戻すのでしょうか?


今後ともよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る