クラス転移したけど性格がクズ過ぎて追放されました。好きにしろと言われたので固有スキル【穴】で地下に帝国を作ります

フーツラ@発売中『庭に出来たダンジ

第一部

第1話 クラス転移

 現文の授業だったか、英語の授業だったか。いや、政治の話をしていたな。公共だったかもしれない。


 まぁ、俺はほぼほぼ学校を寝て過ごすので、何の授業だったかはあまり関係ない。問題はここが明らかに教室じゃないことだ。


 机にうつ伏せになっていたはずなのに、背中にひんやりとゴツゴツしたものを感じる。眠りを妨げられた怒りがわいてくる。


 勢いよく上半身を起こし辺りを見渡すと、制服を着た男女がゴロゴロと石造りの床に転がっている。そして、それを見下ろすような人垣。


 手の込んだコスプレなのか。鎧を着た白人の男がぐるりと円を描き、俺とクラスメイト達を取り囲んでいた。


 逃がさない。というように。


「皆さん! 起きてください!!」


 人垣から一人、白人の女が前に出た。豪奢な服装と、凛とした佇まいが高貴さを感じさせる。年齢は俺と同じ十七歳ぐらいだろうか。よく通る声でもう一度「起きてください!」とやると、眠りこけていたクラスメイト達がポツポツと起き始める。


「えっ、なになに?」

「なに、この人」

「あれ……ここは?」

「数学の授業は……?」


 ざわめきが広がる。


「ここは何処ですか?」


 男子学級委員の草薙が立ち上がり、女と対峙した。


「ここはガドル王国。私は第一王女のエミーリアです。貴方はこの集団の長ですか?」

「まぁ、そんなもんですよ。一体、どのような状況なのですか?」


 草薙は冷静を装っているが、目がキョロキョロ動き忙しない。完全にテンパっているな。


「ここはあなた達の暮らしていたところとは異なる世界です」

「異世界?」

「ええ、そうです。私が魔法によって召喚しました。異世界の勇者を」


 クラスメイト達は「異世界転移キター!」と叫び、はしゃぎ始める。「自分、ステータスオープンしてもいいですか!?」とチャラ男の猿田が立ち上がり叫ぶと、笑いが起こった。


 一体、何がおかしいのやら。こいつら、緊張感なさ過ぎだろ。


「よくご存知ですね! ステータスオープンと唱えると透明なボードが現れます。そこに皆さんのステータスが表示されるので、確認して下さい」


 エミーリアに従い、皆は「ステータスオープン」と口にして騒ぎ始める。


「おぉ! 称号が【勇者】になってる!」

「俺も俺も!! 固有のスキル【成長(大)】だって」

「これ、全員【勇者】なんじゃない?」


 キャッキャと騒ぐ集団の中、表情の暗い奴等もちらほらといる。たぶん、称号とやらが【勇者】じゃなかったのだろう。


「おい、番茶。お前の称号はなんだった? お前みたいなクズ野郎は絶対勇者じゃないだろ!」


 サッカー部キャプテンの青木がニタニタ笑いながら俺に近寄ってきた。少し前、他校のマネージャーに振られて泣いてる間抜けな画像を俺がSNSに上げたことを、まだ根に持っているらしい。


「青木の称号を当ててやる。【出会って2秒で振られた男】だろ?」

「テメェ!!」


 突っ込んで来た青木を半身になって躱し、足を掛ける。硬い床に鈍い音が響いた。


「番藤くん、何してるの! こんな大変な時に仲間割れしないでよ!」


 女子学級委員の三浦が正義感の強そうな顔を俺に向けた。


「まてまて。そもそも俺はお前達と仲間なんかじゃない。同じクラスに割り当てられただけの他人だ」


 冷たい視線が集中する。クラスメイトからだけじゃない。エミーリアやその脇を固める騎士達からも。


 協調性のない異分子はお断りってことらしい。


「おい、エミーリアとやら」

「なにかしら」


 対面に立つと意外と小さいな。この女。


「どうやら俺は歓迎されていないらしい。元の世界、地球に今すぐ戻してくれ」

「……残念ながら、すぐには出来ません。召喚の魔法には膨大な魔力が必要なのです」


 エミーリアは気不味そうにする。


「ほお。すぐに戻せないと分かっておきながら、召喚したと? 何の了解も得ずにそんなことをして、許されると思っているのか?」

「……」


 エミーリアが瞳を潤ませ、周囲に助けを求める。


「番藤、やめないか! きっと何か理由があってエミーリアは俺達を召喚したんだ!」


 草薙が俺とエミーリアに割って入った。エミーリアは草薙の背中に隠れる。


「草薙、お前随分とエミーリアの肩を持つな。白人美少女が好みなのか? 画像フォルダの中身全部、ロシア人コスプレイヤーだろ」

「なっ……! そんなわけないだろ!」

「すまん。ウクライナ人も混ざっていたか」

「そういう話じゃない!」


 草薙は顔を真っ赤にして怒鳴る。エミーリアは草薙の服を握り、抜け目ない表情でこちらを見ていた。この女、全部計算でやっているのか? 強かだな。


「まぁいい。お前の性癖の話は置いておいて、エミーリアの事情を聞いておこう。何故、俺達を召喚した?」


「それは……」と前置きのように呟き、草薙の背中から出てきた。そしてクラスメイト達を一度見渡し、息を吸い込む。


「今、この世界の人々は存亡の危機に立たされています! 魔王軍は魔物を従え勢力を拡大。幾つもの国がその手に落ちました。我々には力が足りません。だから、異世界から勇者を召喚したのです。勇者様方、どうか! 力を貸してください!!」


 一瞬、静かになったと思うと直ぐに「やってやろうぜ!」と猿田が叫び、煽動する。


「俺達は勇者だ!」

「魔王なんてぶっ飛ばしてやる!」

「これだけ勇者がいれば、余裕っしょ」


 馬鹿どもがそれに乗っかる。


「皆さん、ありがとうございます! こんなに心強いことはありません。本日はお疲れでしょうから、宿へと案内します。詳しいことはまた明日、お話ししますね」


 ホッとした表情のエミーリアが場を纏めようとした。


「俺は魔王退治なんてごめんだ」

「番藤くん! 空気読んでよ!」


 三浦が詰め寄ってくるが、無視だ。


「貴方一人いなくても影響はありません。出て行ってもらって、結構。いえ、出て行ってください」


 エミーリアは俺を睨みつけながら、そう言い放つ。


「好きにしていいってことだな?」

「どうぞ。お好きに」


 俺は、好き勝手することにした。

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