包丁はそういうことのために使うものじゃない。


 家族に邪険にされ続ける少女、紗良。
 彼女にとっての希望は飼い犬の茶々丸と、叔父であり語り部の寧之であった。
 彼だけが紗良を「一人の子供」として見てくれた。

 ささやかな幸福。しかし、それも儚いもので――



「マッチ売りの少女」「鶴の恩返し」「雪女」といった物語が連想される、何とも切ない話でした。
 救いのない現実の間に挟まれる些細な、それでも微笑ましいエピソードが印象的。
 救いのようでありながら、より悲劇性を増しているようでもあり、やるせない。

 ほんの少しだけ寛容さを持って手を差し伸べていたならば、紗良という少女は周りの助けを受けて成長し、
 ひょっとしたら自分の子供におじ様と同じことを教えていたかもしれません。
 でも、誰もそうしなかった。

 読み終えた後は、ぽつんと残された語り部と同じように、ただ茫然としていました。