第15話 好きになってあげて-2

「見知らぬ男とイチャイチャしていた?」


 放課後になって、ようやく月子とふたりで話すチャンスを見つけると、僕は朝のできごとを、まくし立てるようにして伝えた。

 そう、それは本当に悪夢のような光景だった。

 今朝に限って彼女と同じ学校の男子生徒が、あの車両に乗っていて、何やらひたすら話しかけていたのだ。


「話しかけられていただけなの?」

「だけって言われてしまえばそうだけど、その間ずっと彼女は楽しそうに笑ってて」

「その間、彼女は何か受け答えとかしていたの?」

「それは……僕の場所からは声までは聞こえなかったから」

「腕を組んだり、肩を抱かれたりとかは?」

「そ、それはなかったけど……」

「ただの……」


 月子は何か言いかけてから、難しそうな顔をして黙り込んだ。


「月子?」

「まあ……それはたぶん、ただの知り合いか何かだと思うけど、考えてみたらあんな美人に彼氏が居ないとは限らないのよね」

「…………」


 さあっと自分の顔から血の気が引く音を聞いた気がした。


「でも確かめたわけじゃないから、まだ間に合う可能性もあるわ。だから、三日森くん」


 月子は両手を僕の肩に乗せて真っ直ぐに顔を覗き込んできた。綺麗な顔が目の前にあって、さすがにドギマギしてしまう。


「告白しなさい」

「え……? 月子に?」

「わたしにしてどうするのよ!?」


 心底呆れたように言うと、月子は天を仰ぐ仕草までして身体の左右で両掌を上に向ける。サッパリダメのポーズだ。挫けずに僕は言う。


「ぼ、僕は告白はしないよ。だって僕は彼女の名前を……」

「寝取られてもいいの?」

「その精神攻撃はやめてくれっ」

「彼女の穢れのない白い肌に薄汚れた男の指が……」

「ぎゃあーーーーーーーっ!!」


 叫んで僕は逃げ出した。

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