「お前クビ」デビュー直前にバンド🎸を追放されて彼女も寝取られた俺は一人寂しく弾き語りするつもりが何故かS級美女達に囲まれてます。

紅ワイン🍷

第1章

第1話 クビ、コンドーム、そしてNTR

金吾きんご、お前クビ。一緒に上京しなくていいから」


 やたらと生活感の溢れたアパートの一室。安物のローテーブルの上には散乱した弁当がらや缶チューハイの空き缶が転がり、食べ物のすえた臭いがかすかに漂う。

 壁には往年のロックバンドのポスターがぎゅうぎゅうに詰めて貼られており、住人の趣味が一目で分かるようになっていた。


 ここは俺の仲間――原田信彦の部屋。

 俺こと小早川金吾はそこで突然クビを宣告された。


「ク、クビってどういうことだよ……」


「そのままの意味だよ。お前はもううちのバンドにはいらない。東京にも来なくて良いから」


 きっと俺の顔はペンキを塗りたくったみたいに青ざめているだろう。カチカチ歯が鳴り、喉に綿が詰まったみたいに息苦しくなる。

 だがそんな俺の心情などお構いなしに友人にしてバンド仲間の信彦は同じことを繰り返した。


「理由は!? 理由を言ってくれないと分かんないよ!?」


 突然のクビの宣告なんて受け入れられない。

 高校入学と同時に誘われて結成したロックバンド。最初は文化祭で披露するただの仲良しバンドから始まった。その後は『リコリス・ダークネス(略リコネス)』と銘打って本格的に打ち込んだ。


 初めて触るギター、練習に重ねる練習、四六時中考えた曲と詞、草の根活動的PRとチケット販売。

 それらの活動が奏功し、結成四年目にして東京のインディーズレーベルに所属することが決まった。


 本当に嬉しかった。最初は趣味くらいで始め、だんだん音楽のことばかり考えるようになり、気づけば寝ても覚めてもなくらいどっぷり浸かっていた。

 いつしかプロのミュージシャンとして食べていきたいと夢見るようになった。


 その夢が叶うのだ。嬉しいに決まっている。


 それで俺達は来年春に上京し、本格的に音楽活動をすることになった。十一月初日の今日、時期もぼちぼち近づいてきたため今後のことを話したいと信彦から呼び出され、いつものように彼の部屋でミーティングをする運びとなった。


 そして開口一番、彼はそう言い放ったのだ。


「理由か? 理由はお前の本気が感じられないからだ。熱量のないやつは邪魔だからお前には遠慮してもらう」


 それが信彦の言い分だ。


「本気が感じられないってなんだよ……。俺だって本気だよ!? 所属が決まって上京するから親を説得したし、大学だって転学できるよう勉強頑張って――」


「それだよ、それ!」


 信彦は大きな声で俺の言葉を遮った。


「俺と結愛ゆあは音楽一本でやっていこうとしてるのに、お前だけ大学通って予防線を張ってる。そういう奴がいると冷めるんだよ」


 信彦は苛立ちを露わにして指摘する。

 結愛というのは俺達のスリーピースバンドのメンバーで紅一点。向かい合う俺と信彦の間に座り、さっきからずっと黙っている同い年の女の子が松山結愛だ。

 ベースボーカルにして、高校二年生から付き合っている俺の彼女でもある。


 彼の言う通り大学に通っているのは俺だけで、二人はアルバイトをしながら日夜音楽活動を続けている。


「背水の陣の覚悟がないやつが売れるほど世の中甘くない。そういうわけだから俺達は金吾無しでやっていく」


「そんなの無理だろ! ギタリスト無しでバンドが成立するもんか!」


「ご心配どうも。だがギタリストはもう見つけてある」


「なん……だと……」


 俺は目の前が真っ白になった。すでに東京でやっていく新しい仲間を見つけていただなんて……。

 一体いつから俺を切り捨てる計画を立てていたんだ。


「東京は人材の宝庫だ。お前の代わりなんていくらでもいるんだよ」


「本気で言ってるのか?」


「もちろん。それとも何か? 自分は代わりの効かない人間だとでも思ってるのか? 自惚れるなよ!」


 あまりにも無礼な言葉。曲がりなりにも三年間を共にした仲間に対しこの仕打ちは酷すぎる。

 怒り、悲しみ、失望が一気に押し寄せ、俺はテーブルをぶっ叩いて立ち上がった。


「もう好きにしろ! そんなふうに仲間を切り捨てるような奴のバンドなんてこっちから願い下げだ! せいぜいその新人さんと上手くやるんだな!」


 仲間を仲間と思わないような男と人生の大勝負はできない。信彦との三年間の絆はものの五分でプツリと切れた。


「行こう、結愛!」


 こうなった以上バンドはもう解散だ。俺は恋人の結愛を連れて一刻も早くここを立ち去りたかった。


 だが結愛は俯いたまま正座の姿勢を崩さず、微動だにしない。


「結愛、行こう!」


 痺れを切らした俺は結愛の腕を掴む。何度も握った手、抱き合った腕。その彼女の腕は無情にも俺を振り払って逃れたのだ。


「結愛……どうしたの……?」


 まるで頬を引っ叩かれたような衝撃に襲われる。結愛がこんなふうに俺を拒絶するのは初めてのことだ。


「ごめん、金吾。私、信彦についていくことにしたの」


「……どういうこと?」


 ついていく。つまり上京するというのか?

 君にとって俺は仲間で恋人なはず。その俺を切り捨てたその男を恨まず、まだ仲間でいるつもりか?


 その時俺はハッと気づいた。信彦のベッドのサイドボードに開封済みのコンドームの箱が置かれているのだ。

 しかしそれはあるはずのないものだ。信彦にはここしばらく彼女はいない。なのでいつも「女が欲しい」とバカみたいな欲望を丸出しにしていた。

 そんな彼の部屋になぜそんなものが……。


 嫌な予感がして背中を冷たい汗が滝のように流れ落ちる。


「結愛、違うよね?」


 泣きそうになるのを必死に堪えて尋ねた。だが結愛は答えない。その横で信彦がクツクツと押し殺した笑い声を漏らしていた。


「悪いな、金吾。俺と結愛は今後は東京でパートナーとしてやってくことになった。だからお前は結愛と別れてくれ」


 ひひひ、と卑しい笑い声と共に信彦が告げる。


「嘘だ! 結愛、君を信じてる! 嘘だと言ってよ!」


 俺は泣きそうなのを必死に堪えて懇願した。


 俺の大事な彼女の結愛。

 生まれて初めてできた彼女。

 高校では学校一の美少女と名高く、俺みたいな平々凡々な男が付き合えたのが奇跡のような、俺の誇り。


 そんな彼女が俺を裏切るなんて――


「ごめんね、金吾。嘘じゃないの、私、信彦と付き合うね」


「そんな……どうして!?」


「金吾、大学に入ってから全然会ってくれないんだもん。私、寂しかったんだよ?」


「そ、そんな……。結愛とは約束通り水曜日と日曜日にデートしてるじゃないか! 誕生日もクリスマスも、毎月の付き合った記念日も必ずお祝いしてるのに……!」


「私は毎日だって会いたいの!」


「そんなこと言われたって、大学は思ったより講義とか課題が忙しくて、サークルとか新しい友達との付き合いもあるし……」


 大学は高校より楽だと言われるがそんなの眉唾だ。出席が重要になる講義やゼミがあるし、課題を出し忘れれば単位が危うくなる。必然多忙になる。

 それゆえ大学内での人脈は重要だ。友達付き合いやサークルのおかげで過去問を入手し、勉強時間を圧縮してバンドの時間を捻出した。


 親を納得させる条件で通っている大学で交流を楽しんでいたのは事実だ。

 だが俺はいつだってバンドを最優先に考えていた。

 結愛と一緒にいられる時間を作ろうと努力してきた。


「そんな言い訳聞きたくない! 金吾、大学ばっかで、友達の自慢ばっかで……私がどんな気持ちだったか考えたことある!?」


「そんな……俺は自慢なんかしてないよ……」


 結愛は目を釣り上げて金切り声を上げて非難を口にした。俺の何気ない会話が結愛を傷つけていたというのか……。


「金吾、認めろよ。お前が結愛をほったらかしにしたから結愛に見放されたんだ。全部自業自得だ。男らしく引き下がれ」


 いけしゃあしゃあと俺から夢と恋を奪った男が言い放つ。


 これは……俺が悪いのか?

 将来のために捨て身になれず中途半端だった俺が……恋人に寂しい思いをさせてしまった俺の自業自得なのか?


 俺は何も言い返せず、力無くその場に崩れ落ちた。


†――――――――――――――†

 はじめましての方ははじめまして!

 前作をお読みの方はいつも応援ありがとうございます!


 本作ではいわゆる『追放モノ』の要素を入れた『音楽×キャンパス×イチャイチャ』のラブコメディです!


 紅ワインの作品は、イガイガしたちょっと暗い要素がありますが、本作は基本的にスッキリ読めるお話になります。

 毎日更新の予定のため、朝の電車でお楽しみください。

†――――――――――――――†

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